第24話 指示
マデラインはまだ、アイリーン達が資料室に目をつけたことに気づいていなかった。いつものように、夜になるとマデラインは資料室へ足を運んだ。
「私の隠したメモが見つかったってバーニーが言っていたけど、あのくらいの文なら日記の切れ端だとか何とか言い訳ができるわ。私は普段通りヨハンスに接していればいいと思うけど。」
もう一人のスパイ、バーニーからの指示はいつも細かく、マデラインにとっては少々煩わしかった。自分には男性を手玉に取る才能があるのだから、少しは信頼して任せてくれてもいいのに、と思っていた。
スペアキーを使って資料室へ入る。本棚で埋められたその空間は月明かりも入らず真っ暗である。持ってきたランプの光を頼りに、マデラインは目的の本を探す。
見つけた本に挟まれていたのは、次のような指示だった。
『メモが見つかった以上、マデライン、お前からの報告もここでするように。もう噴水は通信手段として使わないが、怪しまれないようにもうしばらく噴水には通うこと。いつも通り靴紐を結ぶふりをすれば良い。クローヴィス王子とアイリーン嬢にも、普段通り接すれば良いが、くれぐれも"あれ”だけは見つからないように気をつけること。』
「うるさいわね、分かってるわよ。」
『次の休日、ヨハンス王子を街に連れ出すこと。学業と公務で忙しい王子に解放感を与え、お前の魅力に気づいてもらう作戦だ。お前は下手なことは考えず、今まで通り接すれば良い。酒は飲むな。』
「街に、ねぇ。正直かったるいけど、仕方ないわ。貴族生活に慣れた王子様に新しい世界を見せてあげるってことね。はいはい。」
エルバート王国の貴族としての学園生活をすっかり気に入っているマデラインにとって、街というのは貧しかった幼少期を思い出させる場所であり、あまり気が進まなかった。
早く卒業式を迎えたい。そうすればアイリーンを追放して自分が王妃となり、悠々自適な王宮生活ができる。そしてエルバートが滅んだ後にはイーゴンの騎士の夫人となり、これまた悠々自適な貴族生活だ。マデラインの未来は輝かしいものに思われた。
「残り二ヶ月、ごまかせればいいんでしょ?大丈夫よ、私なら。」
マデラインは本に挟まれていた"もう一つの物”を拾うと、本を閉じて元の場所に戻し、資料室を去った。バーニーは本国からの指示をそのまま伝えているだけだから、バーニーに不満があるわけではないが、そろそろこの資料室通いが面倒になってきていた。
悪役令嬢、世界を救う! 空沢小羽 @sorasawa
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