第23話 資料室

 二人は顔を見合わせ、笑った。


 「同じ情報を得ていたとはね。」

 「しかし、何で僕の耳に入ってこなかったんだろう?王宮資料室は僕も使っているのに。」

 「秘密にしてたんじゃない?ルイス、本気で怒ると怖いから。」

 「そりゃ、機密情報の漏洩の恐れとなったら怒るけど…そんなに怖いかな?」

 「怖いわよ。私は怒られたことないけど。」

 「君に怒るのはよっぽどのことだよ。危険なことをしようとしたりね。」

 「気をつけます。」


 王宮資料室の鍵は一日で戻ってきたという。一日あれば、街へ出て鍵のスペアを作ることも可能だろう。おそらく今はそのスペアを使ってスパイは出入りしている。


 「どうする?こっそり資料室を見張る?でもあのスパイに見つかったら少し厄介ね。」

 「次期王弟の僕と次期王妃の君が資料室に出入りしていても不審には思われないだろう。まずは堂々と入って調べてみよう。ただ…。」


 次の休日、さっそく資料室に入ってみた。アイリーンは初めて入るので、少しわくわくしていた。


 「ひ、広い…。」

 「そうなんだ。ひっそりと存在しているわりには、広い。そして本もたくさんある。」

 「手がかりなしにこの中から何か証拠を見つけるのは、現実的じゃないわね…。」

 「そうだね…。」


 二人はため息をついた。ここにおそらくスパイが手紙か何かを置き、マデラインがそれを受け取っていると仮定しているが、この広い空間からたった二人でそれを探し出すのは不可能に思える。


 「でも、残りあと二ヶ月くらいしかないわ。新しくヒントを探す時間もないし、しらみつぶしにここを調べるしかないのかも。」

 「いや、とりあえず今日は軽く調べてみるけど、これではマデライン嬢も手紙を探しづらいだろう。何か手がかりがあるはずだ。引き続き、マデライン嬢と学園を探ろう。」


 ほこりのかぶった資料をパラパラとめくりながら調べてみる。王国の歴史や地理に関するたくさんの資料が、アイリーンたちの目の前に立ちふさがっている。一時間もしないうちに、アイリーンは音をあげた。


 「こんなの、絶対無理だわ…。」


 アイリーンは資料を探るのを一旦諦め、今までのマデラインの行動から何かヒントが出てこないかと、必死に考えを巡らした。部屋にはイヤリングが入っていると思われる小箱以外に何も怪しいものはなかった。


 「マデラインともっと会話を重ねる必要がありそうね。でも探っていることがバレないようにしないと。」


 資料の量に負けそうになるアイリーンだったが、次期王妃として国を守るためだと自分に言い聞かせて、どうにか作業を再開させた。


 ふと、クローヴィスのほうを見る。彼も同じく資料を一つ一つ見て回っている。


 「私が無事に王妃になったら、こうしてルイスと一緒に何かをすることもなくなるのかしら…。」


 少し寂しいような思いがしていた。

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