第22話 鍵・その2

 一方、クローヴィスは男子生徒に同じように聞いて回っていたが、答えは一つ、「特になし」であった。


 「ルイス、さっきから聞いていればどうかしたのか?」

 「兄さん、何が?」

 「何がじゃない。『変わったことはないか?』ってみんなに聞いて回っているじゃないか。何かあったのか?」

 「…兄さん、ちょっとこっちへ。」


 クローヴィスは兄を庭の端へ導いた。


 「え、襲われた?アイリーン嬢が?」

 「そうだ。でも誰の仕業なのかは分からなかった。だから今、探っているんだ。次に何かあって、アイリーン嬢が怪我でもしたらいけないからね。」

 「それはそうだ。でも、学園の者なのか?外部からの侵入者では…。」

 「犯人はうちの制服を着ていたんだ。その日は学園外へ逃げていったけど、おそらく普段は生徒に紛れて学園の中にいる。」

 「まさか…。」

 「それで、最近変わったことがないかどうか聞いているんだ。兄さんは何か心当たりは?昨日は『特になし』と言っていたけど。」


 ヨハンスはしばらく考え込み、何か手がかりになるようなことがないか頭の中を探った。


 「あれは…。しかしもう解決したしな…。」

 「あれって?」

 「王宮資料室の鍵が一時紛失したんだ。すぐに見つかったから何もないと思うけど、あまり使われることもないから少し不思議だった。誰も心当たりがないと言うし…。」

 「なんでそれを昨日教えてくれなかったんだ。」

 「すまない。もう見つかったからいいかと思って。あと、君は知っているかと。」


 ヨハンスは少し呑気なところがあり、事が起こってもあまり動揺せず忘れてしまうほうだった。それが王にふさわしい気質なのかどうかは、意見が分かれるところである。


 「なるほど。そこを使っていたというわけか。しかし、鍵はしっかり管理してあるはずなのに、どうやって盗んだんだ?まさか、王宮関係者に犯人が?」

 「資料室がどうかしたのか?アイリーン嬢が襲われたことと何か関係があるのか?犯人がそこにひそんでいるとか?」

 「いや、そういうわけではないよ。何でもない。」

 「やっぱり君少しおかしいぞ。何か隠していないか?」

 「それより、兄さんも念のため身の安全には気をつけてくれ。」

 「え、僕も襲われる危険が?」

 「婚約者が襲われたんだ、可能性はあるだろう。」

 「ひっ…。」


 珍しく怯えているヨハンスを置いて、クローヴィスは再び生徒の輪に混じっていった。


 その日の夕方、アイリーンとクローヴィスは顔を合わせるなり、叫んだ。


「「鍵!!」」

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