第21話 鍵
年が明けたということで、ある晴れた日の午後、アイリーンは自邸の庭でお茶会を開いた。たくさんの友人のほかに、もちろんクローヴィス、ヨハンス、マデラインも招待している。毎年恒例のお茶会なので、まさかこの場でアイリーンとクローヴィスが情報収集をしているとは、誰にも夢にも思っていなかった。
「最近、変わったこと…ですか?」
「何でも、どんな小さいことでもいいのよ。学園内で何か変わったことはない?」
「そうですねえ…。特に思い当たりませんわ。」
誰に聞いてもこの返答であった。やはり表立って動いていない以上、なかなか尻尾をつかめるようなものは簡単に出てこない。
ほとんどの友人に尋ね終わってしまい、アイリーンは諦めてお茶会を楽しむことにした。クラスメイトの全員を招待したこのお茶会には、あまり話したことのない生徒も参加している。この機会に交流を深めておきたいところである。
ふと、一人でぽつんとテーブルの端に佇んでいる、めがねをかけた令嬢が目に止まった。ずっと下を向いて、おどおどとしている。
「そういえばあの子、メアリ嬢とは話したことがなかったわ。誰とも話していないみたいだし、声をかけにいこう。」
未来の王妃を目指す以上は、自分の目の届く限りの国民には笑顔でいてもらいたい…そういう思いのあるアイリーンは、困っていたり寂しそうにしている人を放っておけないのだった。
「メアリ嬢。楽しんでいるかしら?」
「アイリーン様。今日はご招待いただきありがとうございます。しかし、なんだか場違いだったみたいで、申し訳ないです…。」
「どうして?そんなことないわよ。ほら、このお菓子も食べてみて。私が作ったの。」
「はい。…!美味しいです!オレンジピールを少し使われているんですね。私、好きなんです。」
「そうよ!もしかして、お菓子作ったりするの?」
「ええ、少しだけ…。こんなに美味しく作ることはできませんが…。」
と、話がはずんできたところでようやくメアリ嬢が笑顔を見せたので、アイリーンは少し安心した。
「あなたは確か、図書委員だったわよね。最近何か変わったことはない?何でもいいの。」
「変わったこと、ですか…。そういえば、図書館の奥にある禁断の間の鍵が、一日だけ行方不明になったことがありました。」
「禁断の間?ああ、王宮の限られた人しか入れない、あの部屋ね。」
「はい。すぐに見つかったんですけど、王宮の方たちが何度か図書館に出入りしてきて、物々しい雰囲気だったので、よく覚えています。」
「そっか。…それだわ。」
「アイリーン様、何かご存知で?」
「いえ、何でもないのよ。ありがとう。メアリ嬢、今度またお茶会に誘うから、ぜひ来てね。」
「も、もちろんです!アイリーン様。光栄です。」
禁断の間とは、王宮関連の資料などが置いてあるために一般生徒が立ち入り禁止になっている、学園図書館の一室のことである。その鍵が一日だけ紛失した…。
「スパイ活動にはうってつけよね。私も入ったことがないからすっかり存在を忘れていたけど、そこで何かやりとりがされているのは間違いないわ。」
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