第18話 草むしり大会

 さっそく、クローヴィスは噴水のそばへ駆け寄った。マデラインが靴紐を直す位置はいつも決まっている。誰よりも先にその場所を陣取る必要があった。


 噴水へ向かっていると、背後に気配を感じた。カサカサと枯れ葉を踏む音が重なる。周りに人はいるので何かしてくることはないだろうが、少し背中を危なっかしく感じる。


 「偶然同じ方向へ向かっているだけかもしれないが…。」


 パッと振り返ってみた。マデラインと同じ黒髪の地味な青年がそこにいた。彼は一瞬ビクッとしたようだったが、軽く会釈をするとクローヴィスを追い抜いていった。


 「まずい、場所を取られる。無関係な者かもしれないが、どちらにしろあまり近くに人がいないほうがいい。」


 クローヴィスは慌てて歩を進めた。すると、先ほどの青年は速度をわずかに上げて進み始めた。スパイかどうかは分からないが、彼からは「噴水へ行く」という強い意志を感じられた。


 噴水の目の前まで来たところで、クローヴィスは仕方なく彼に話しかけた。


 「君。どこの草むしりを担当する予定かな?」

 「殿下、私は噴水周りをやろうと思っております。」

 「クローヴィスでいいよ。あと、噴水周りは僕がやるから、君はそこの壁のあたりをやってくれないかな?」

 「いえ、クローヴィス様。噴水周りはかなり草が茂っていて骨が折れそうですから、私がやります。そもそも殿下まで草むしりにご参加されなくても良いのでは?」

 「僕も体を動かしたいんだよ。いいからいいから。」

 「…そうですか。」


 少し怪しまれてしまったかもしれないが、何とか噴水周りの草むしり担当を勝ち取った。スパイでも何でもなかったとしたら、意地でも噴水の草をむしりたい男という奇妙な姿を見られてしまったのは心外であるが、仕方ない。


 「確か、マデラインはいつもこのあたりで…。」

 「クローヴィス様。」

 「わあ!どうしたんだ。」


 先ほどの青年である。


 「やはりこのあたりの草の量は桁違いですから、私も手伝います。」

 「そ、そうか。ありがとう。僕はこの辺をやるから、君はもう少しあちらを担当してくれないか?」

 「分かりました。」


 彼がスパイでないのなら、本物の「意地でも噴水の草をむしりたい男」なのかもしれない。そんなことを考えながらクローヴィスは草を抜きつつ、手がかりを探した。


 一方、アイリーンは念のためマデラインに声をかけた。


 「マデライン嬢、どこに行くの?」

 「アイリーン様。ここは人が多いので、中庭の方へ行こうかと…。」

 「中庭ならさっき何人か向かっていったから大丈夫よ。それより、私たちと一緒に校門周辺の草むしりをしない?」

 「ありがとうございます、アイリーン様。でも私…、」

 「じゃあ決まりね!ほらみんなのところへ行こう!」


 アイリーンは、友人たちのいるほうへマデラインを半ば強引に引っ張っていった。

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