第17話 靴紐

 まず、学園の休み時間はクローヴィスがマデラインを見張り、下校後はアイリーンにバトンタッチする。少しでも気になることがあれば情報を共有し、さらに深追いしてみる。ということで話がまとまった。クローヴィスは下校後は次期宰相としての仕事があるので、報告会は夜になる。


 「夜にこそこそと会っていたら、怪しまれないかしら?」

 「そうだね、だから必要な時だけにしよう。学園で会える時に、気になる事象の数だけ指を立てて合図するんだ。例えば、一つ気になることがあれば人差し指だけを立てる。」

 「じゃあ何もない時は手を上げずに首を振るわね。」

 「そうしよう。何かある時はその日の夜、こうして図書館に集合しよう。時間はそうだな、夕食が終わる8時。」


 こうして、クローヴィスとの作戦会議が終わった。気になることか…。


 一週間は何事もなく時が流れた。何も見つからないので、もしかしたら寮の自分の部屋で連絡を取っているのかもしれなかった。そうなると、お手上げだ。少しでもボロが出ないかと見張っていたが、相変わらずヨハンスと楽しそうに逢瀬を重ねる姿を見て傷つくだけだった。


 アイリーンの心が折れそうになっていたある朝、クローヴィスが挨拶しながら人差し指を立ててきた。ついに手がかりが見つかったようだ。アイリーンはうなずき、夜を待った。


 「この一週間、休み時間にマデラインを見てきたけど、どうやらマデラインの靴の紐はほどけやすいらしい。」

 「あ!そういえばしょっちゅう靴紐を直しているわ。」

 「どこで?」

 「え?あ、そういえば…いつも中庭の噴水のところだわ。」

 「やっぱりそうか。あれは靴紐を直しているんじゃない、噴水のそばに何かを隠しているか、あるいは隠されたものを拾っているんだ。よく見ると、靴紐を直すにしては毎回時間がかかっている。」

 

 そういうことだったのか…。「靴紐を直している」という先入観で気づかずにいた。


 「靴紐をよく直しているのは気づいていたけど、それがヒントだったとは…。」

 「わざと片方の足で紐を踏んでほどいていたからね。上手くやってるよ。」

 「じゃあ、噴水の周りを調べてみましょう。」

 「ただ、マデラインやもう一人のスパイにその動きがバレるとまずい。怪しまれずにやる方法を考えよう。」


 二人でしばらく話し合った末、アイリーンの案で「草むしり大会」を行なう作戦で一致した。


 「貴族の子息子女が草むしりなんてするかな?」

 「日頃お世話になっている学園や先生への恩返しって名目よ。道徳心や環境問題意識を育てるためでもいいわね。とにかくそこは私が上手く先生たちを説得するわ。」

 「君が発案者だとバレなければいいってことだね。」

 「そう。噴水周りを掘り起こすのはあなたがいいわね。私はもう目をつけられているかもしれないから。お願いできる?」

 「もちろんだ。上手くやるよ。」


  こうして次の日曜日、生徒の心身の健康のためという学園長の案で、学園を挙げての「大草むしり大会」が行われたのだった。

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