第16話 仲間

 「これは確証のある話ではないんだけど、マデラインは誰かと緊密に連絡を取りながら作戦を進めていると思うんだ。」

 「連絡を?」


 その日の夕食後、誰もいない図書館で二人は話し合っていた。


 「お茶会でのやりとりを振り返ると、こう言ってはなんだが、マデライン嬢はあまり賢くないと思う。」

 「…そ、そうなの?」

 「あんなあからさまな嫌みを言ったら、僕じゃなくても『リーナを貶めようとしている』と感づいてしまうよ。兄さんは彼女に夢中だから気づかなかったが、あれはかなり悪手だった。」

 「そうだったんだ。」

 「だから、この作戦の期間中、マデライン嬢ひとりで動けばすぐにでもボロが出るはずなんだ。でも、今に至って特に目立ったミスはない。ということは、イーゴンのもっと頭の回る仲間から指示を受けていると、僕は思うんだ。」


 学園内に、少なくとももう一人はスパイがいる…。アイリーンは少しぞっとした。学園の生徒を全員把握しているわけではないため、制服を着て紛れていれば気づかないだろう。


 「じゃあ、その仲間を見つけ出せば、証拠になるわね。」

 「そうだね。連絡を取っているところを抑えるか、もし手紙か何かを使っているならそれも証拠になる。」


 さすが「100年に一人の秀才」と呼ばれるクローヴィスである。アイリーン一人ではがむしゃらにマデラインに探りを入れるくらいしか方法が思いつかなかったが、ここにきて具体的な方針が見えてきた。


 「確かに。作戦についてこそこそと話していれば怪しまれるし、手紙のような通信手段を使っている可能性は高いわね。つまり、手紙を探せばいいのね!」

 「まだ手紙を使っているという確証はないよ。あくまで僕の推論。でも、全く何を探したらいいか分からないより、ある程度目星をつけておいたほうが行動しやすいだろう?まずは仮に手紙を使っているとして、調査を進めよう。それから、あと一つ。」

 「何?」

 「ここからは一人で行動しないこと。」

 「どうして?ルイスは忙しいし、私一人でできることはやるわよ。」

 「もう一人スパイがいると言っただろう?そいつがどんな奴なのか分からない。相手は命がけでこの作戦を進めているんだ。探っているのが知られたら何をされるか分からない。」


 アイリーンは、ふたたびぞっとした。確かに、国を滅ぼすことが目的であるこの作戦の遂行者は、すべてが明らかになれば死刑の可能性もある。相手は命がけ、ということはこちらの動きが知られたら…。


 「私たちも命がけってことね。」

 「そういうこと。だから単独行動は避けたほうがいいし、向こうにこちらの動向がバレないように慎重に進める必要がある。」


 クローヴィスは、ふとため息をつく。


 「こんな危険な任務をリーナ一人でやっていたなんて…。気づいてあげられて本当によかった。」


 アイリーンも胸を撫でおろす。クローヴィスに見られた時は絶望しかけたが、自分が思っていた以上に危険なことに巻き込まれていたのだと思うと、気づいてもらえたことはむしろ幸運であった。


 「よし、じゃあ作戦を練ろう。」

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