第19話 メモ
「これは…。」
噴水脇の五時の方向で、クローヴィスは何やら端の破れた紙切れを見つけた。
『ヨハンス王子をお茶会に誘った。彼は応じた。』
メモにはそう書かれている。間違いなく、マデラインから何者かへ宛てた手紙であった。クローヴィスは少し背中が寒くなった。
「リーナの話を疑っていたわけではないけど、こうして証拠が出てくると実感が湧いてくるな…。やはりマデラインは本当に…、」
「クローヴィス様、どうかされましたか?」
先ほどの青年に声をかけられ、今度はクローヴィスがビクッとしてしまった。慌てて紙切れをポケットへしまう。
「何かおかしなものでもありましたか?」
「いや、何でもないんだ…。そう、何も見てない。」
「そうですか。」
意外にも、彼は大人しく引き下がった。クローヴィスの拾ったものが何だったのかに興味もなさそうである。クローヴィスは少し探りを入れてみようと、彼に話しかけた。
「そういえば君は、噴水へ向かっているようだったけど…。何か考えでもあったのかい?」
「いえ、ただいつも窓の外から中庭の噴水が見えていて、草が多いなと気になっていたので。」
「本当にそれだけかい?噴水に何か思い入れでもあったとか。そうだったら、すまなかったね。」
「思い入れ…ですか。」
しばらく押し黙った後に、彼は続けた。
「実は、この噴水のところでよく靴紐を直す女の子がいるんです。それで、こんなに草が生えていたら彼女も邪魔だろうと思って…。あ、いや別に彼女のことが気になってるとか、そんなんじゃないんですけど。」
そういうことか。クローヴィスは肩の力が抜けた。彼はスパイではなかった。何も知らずにマデラインに恋した哀れな青年である。
純情な彼を少し可愛く思いつつも、重要な手がかりを見つけたことを早くアイリーンに報告したいとクローヴィスは思っていた。手早く残りの草を青年と一緒に片付けていた彼は、後方の銀杏の木の上から彼を見つめる影には気づかなかった。
「マデライン嬢の書いたメモ?」
「ああ、間違いないだろう。君かマデライン嬢以外の者からの誘いで、兄さんがお茶会に応じるとも思えないからね。」
「確かに、あまり交流を好まない方だものね。あなたと違って。」
「僕だって君の誘いを一番に優先するけどね。」
いつもの図書館で、アイリーンとクローヴィスは落ち合った。
「ありがとう、ルイス。これでマデライン嬢を問い詰めれば…、」
「いや、それはやめておこう。見つけた証拠は集めておいて、卒業式の日にすべてを公開するんだ。」
「どうして?」
「これだけではまだ弱いからね。もっと確実な証拠を見つけて、それと一緒に王である父上や兄さんに見せよう。」
確かに、これだけでは「日記の切れ端だ」などと言い訳をすることもできなくはない。マデラインに夢中なヨハンスなら簡単に丸め込まれてしまうだろう。
「分かったわ。でもこれ以上の証拠なんてあるかしら?」
「スパイからマデライン嬢への指示は、別の方法を取っている可能性がある。」
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