第13話 作戦決行

 翌朝、アイリーンは部屋の鍵を閉めたところだったマデラインめがけて走っていき、思い切りぶつかった。


 ドンッ!


 「ご、ごめんなさいマデライン嬢!私急いでて…。痛かった?」

 「い、いえ私こそボーッとしてて…大丈夫ですわ。」


 アイリーンは会話しながら、マデラインの足元にそっと目をやった。思惑通り、鍵を床に落としている。チャンスだ。


 「それならよかったわ。あ、き、今日はとっても良いお天気ね。」

 「え?ええ、そうですわね。」

 「こんな天気の良い日は、お紅茶とお菓子を持ってピクニックにでも行きたい気分だわ。ねぇ、マデライン嬢もそう思わない?」

 「分かりますわ。こんな日は外へ出たいものですね。」

 「先日のお茶会では嫌な思いをさせてしまったから、またぜひお茶にお誘いしたいわ。」

 「光栄です、アイリーン様。」


 一生懸命話を広げながら、アイリーンは足でこっそり鍵を自分のほうへ引き寄せた。バレたらまずい。けれど、このチャンスを逃すわけにはいかない。


 心臓が高鳴る。何か自然な会話はないか—。


 「何をしているんだ、アイリーン」

 「ヨハンス様!どうして女子寮に!?」

 「え?あ、いやたまたま近くに用があって、その…」


 なぜか、女子寮にヨハンスが現れた。なぜか、といっても答えは一つだ。マデラインを迎えにきたのだろう。アイリーンは気分が暗くなる。私には一度もそんなことをしてくれなかったのに。


 「あ、いたた…」

 「マディ、どうしたんだい?腕が痛いのか?」

 「さっき、アイリーン様とぶつかってしまって…でも大丈夫ですわ」

 「アイリーン!まさか君はわざとマディにぶつかったのか?」


 ああ、またその作戦か。アイリーンはいい加減慣れてきたので、軽くため息をついた。


 「違うんです、ハンス様。アイリーン様はお急ぎだっただけで…」

 「マディ、君は本当に優しいな。マディに免じて今回は許そう。さ、校舎へ行こうマディ。」


 今回は本当にわざとなので、少し頭を下げてやり過ごした。またしてもいじめの実績が積み上がってしまったが、これはもう覚悟の上である。おかげで、無事にマデラインの部屋の鍵を手に入れた。


 「ちょっと心が痛いけど、これは私のためだけじゃない、国のためでもあるのよ。きっと許されるわ。」


 こうして、アイリーンは鍵を手に入れたわけだが、マデラインが気付くのも時間の問題である。侵入は早い方がいい。今日、授業が終わったらさっそく実行しよう。アイリーンは心に決めて、校舎へ向かった。


 その時、壁の影からアイリーンをのぞく者があったが、作戦を練るのに夢中なアイリーンは気づかないでいた—。

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