第12話 駆け引き
アイリーンは、部屋に入ろうとするマデラインに声をかけた。マデラインは一瞬ビクッとなったあと、少し怪訝な顔をしながらこちらを振り返る。
「あ、アイリーン様。どうなさいましたか?」
「あなた、お風呂場に忘れ物をしたのよ。これ、あなたのでしょう?」
ネックレスを見せると、マデラインはさっとそれを奪うように受け取った。
「…ありがとうございます。申し訳ありません。ここまで持ってきていただいて…。」
「いえ、いいのよ。大切なものなんでしょう?毎日身につけているものね。」
「ええ、両親からの贈り物なんです。」
ヨハンスと一緒にいるときは堂々としているマデラインだが、どういうわけかアイリーンと二人で対峙するとなるとオドオドとしている。
「マデライン嬢、私よく変なことを言ってあなたを傷つけてしまっているみたいだけど、そんなふうに怯えないで。私はあなたと仲良くなりたいだけなの。ね、もっと落ち着いて。」
「いえ、怯えてなんかいません。ただ、おそれ多くて…。」
「身分のことを気にしているの?そんなこと、学園内では深く考えなくてもいいのよ。私のお友達にも伯爵、子爵、男爵いろいろな子息子女がいるけど、みんな気にしていないわよ。」
「本当にありがとうございます、アイリーン様。私ももう少し気楽にお話ししてみたいと思っていたんです。」
お互いに、嘘をついていた。そんなこともお互いに分かっている。穏やかな会話の間にバチバチと火花が散るのを、アイリーンは笑顔で振り払った。
「ねぇ、そういえば私、あなたのお部屋に来たことがなかったわ。どんなお部屋なの?一度見せてくださらない?」
「えっ…す、すみません、散らかっていますので!それじゃ!」
バタン、と戸を閉めて、マデラインは部屋に入ってしまった。
「部屋にはどうしても入れたくない…。やっぱり、部屋に何かあるのね。」
このやりとりも色をつけてヨハンスに伝わってしまうのだろうが、部屋に何かあるという確信を得られたアイリーンにとっては、小さなことだった。ヨハンスの勘違いにも慣れてきたのだ。彼は昔から少し天然な部分があり、それも優しさだと信じて愛してきた。今更気にすることもない。
「部屋を探るには、できれば本人がいない時がいいけど…。それじゃ不法侵入になっちゃうわ。どうしたものか…。でも、やるしかないわね。」
これは国の存亡を賭けた戦いである。部屋に忍び込んだくらいの罪は、あとで帳消しにされるだろう。アイリーンは、進むしかなかった。
翌朝、アイリーンは早速作戦に出た。
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