第14話 イヤリング
放課後、アイリーンはまずマデラインを中庭の噴水のところへ呼び出しておいた。用事はどうということもない、手作りクッキーを渡しながら親交を深めようというだけである。しかし、別の用があるので少し遅れると言っておいた。
これで、マデラインはしばらく部屋には来ない。
他の生徒がいないところを見計らって、アイリーンはマデラインの部屋へ侵入した。心臓がバクバクとうるさい。鍵を盗んでまで他人の部屋へ勝手に入るなどという非礼極まりない行いをすることに、まだ抵抗があるのだ。令嬢でなくとも正しい倫理観を持っていれば当然の感情だが、次期王妃として育てられてきた彼女にとってはなおさら、本来なら許しがたい行為である。
「これも国のため、国のため…。」
アイリーンは言い聞かせた。
部屋の広さは自分のそれと同じだが、装飾品などがほとんどなくシンプルであることに少し驚いた。友人の部屋はどこも自分好みに着飾っていたからだ。しかし、マデラインはお茶会を開くこともなく人に見せる機会を持たないので、その必要がないのだと思った。
「散らかってると言っていたけど、綺麗ね。やっぱり何か隠しているんだわ。」
まずは机の上を探ってみたが、特に変わったところはない。引き出しを開けてみる。ここも、ものはほとんどなくがらんとしている。順番に引き出しを開けていくが、やはり気になるものは見つからない。
ここがダメならクローゼットね、と少し気が重くなったアイリーンだったが、最後の引き出しを開けた時、華やかに装飾された小箱を見つけた。この部屋には似つかわしくないこの箱に、アイリーンはピンときた。この中にイヤリングを隠しているに違いない。
開けてみようとしたが、小箱には鍵がかかっていた。当然か…と諦め、少し振ってみる。カラカラ、シャラシャラと金属の音がする。何かの装飾品であることは間違いなかった。
「証明はできないけど、この箱で間違いないわ。卒業式の時にヨハンス様の前で開けさせよう。」
目当てのものが見つかったので、アイリーンは急いで部屋を出て鍵を閉めた。鍵は扉の前の床に置いておく。拾ったことにして本人に返せば怪しまれるだろうから、落としたままにしておくのが得策だ。
「イヤリングはおそらくあの箱の中。でも今はそれが明らかにならないわけだから、もう一つでも何かスパイである証拠を見つける必要があるわ。」
前進したようで、実は状況は何も変わっていなかった。切り札を手に入れたといえばそうだが、箱の中身が何の証明にもならない、つまりイヤリングではない可能性も十分にある。
残り3ヶ月半。その間に、誰が見ても納得するようなスパイの証拠を見つけなくては。
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