第二日
アルティマウォーズの世界に連れ込まれてしまったエイジは、ゲームの妖精アルマから世界を案内されていた。
エイジが聞かされたところでは、ゲームは二つの次元に分かれているのだそうだ。
一つはプレイヤーが参加する虚構世界。虚構世界にはステージがあって、キャラクターたちが動き回る。
もう一つは虚構世界を駆動するための舞台裏、システム空間。機械仕掛けの各種システムが働いて、虚構世界を駆動している。
システムは増えていくが、稀に減ることもある。
アルマによると、開発始めの頃はごくわずかなシステムしかなかったらしい。
エイジが見て回ったところでは、ライトや床のシステムが歯車を動かしていた。
キャラクターのシステムはまだ置いてあるだけで動いていない。
妙に理屈がはっきりしていて実によくできた夢だなあとエイジは感心する。
「どう、エイジ様。素敵なゲームでしょ?」
アルマがうきうきと言ってくる。
「いやあ、まだ何もないしゲームになってないぞ」
アルマの表情がみるみる沈んでいく。
「やっぱり滅ぼすの……?」
「これからだから、これから!」
とは言ったものの、エイジにはこれから何をすればいいのか見当がついていなかった。
「企画書どおりに作ればいいんだろうけど、う~ん」
企画書を読みたいと思ったエイジの手に紙束が出現する。企画書だ。
「聖企画書だ!」
アルマは目を剥く。
「読むか?」
「そんな恐れ多いことなんて!」
アルマは顔を手で覆う。しかしエイジがぱらぱらとめくるのを指の間から覗き見してくる。
企画書に書かれているのは壮大で景気が良いけどどんなゲームなのかはふわふわした説明。
曰く、新たなる神話の一ページ。
曰く、世界一千万のプレイヤーが参加するスーパーゲーム。
たくさんのプレイヤーが参加するファンタジーなゲームらしいということしか確認できなかった。
後ろから見ているアルマも首をひねっている。
「神様の御言葉…… 難しすぎる……」
企画書にはカッコ良さそうなキャラが載っているものの、それは他社大人気ゲームキャラのコピペ。
面白そうなゲーム画面も世界的大ヒットゲームの画面がそのまま。
きれいにレイアウトされているので企画書の雰囲気はいいのだが、結局何がやりたかったのだろう。
書いた本人が作ればそこは大丈夫と上層部は思ったのかもしれない。だが本人は毎日クリエイティビティがどうとかアライアンスがとか言い続けて作業をちっとも進めずにすごしたあげく失踪してしまった。
特にやりたいこともないエイジにとっても、これからどうすればいいものやら。
ともかく企画書のとおりにやろう。やればなんとかなるだろう。面白くなるかもしれない。
そうだ、これが新しいものを創り出すクリエイティビティというものなのだ。
エイジはそういうことにした。
とりあえず一千万人がプレイするのだから広いステージが必要だ。
幸いステージを広げるのは今のシステムでも簡単にできそうだ。
ここでのエイジには本当に神様みたいな力があるらしくて、集中して指示すればシステムの機能を呼び出して動かせる。
エイジは虚構世界の天高くから命じる。
「ステージの床を配置」
四角い緑色の平面が世界に表れる。
「床のスケールを十万倍に」
緑色の平面が縦横十万倍に拡大される。
この平面がプレイヤーの移動可能な床になるのだ。
これだけ広ければ一千万人は配置できるだろう。
一千万人が何をするのか?ーーその疑問をエイジは押し殺した。
企画書のとおりなのだ。自分がかんがえることではない。
後はファンタジーらしい世界にしよう。
エイジはステージのシステムから木を呼び出して、
「ランダムに木を配置」
ステージが広すぎるので、ごく疎らに木が配置される。たくさん置けばシステムの限界を超えてしまう。
山は以前に配置した四角錐がそのままだ。
これもステージが広すぎるから数は置けないし、形も複雑にはできない。
かなり、いや、極めて殺風景なステージができた。
これでいいのかという疑問もエイジは封殺する。だって企画書のとおりに作ればこうするしかないのだから。
「うわあ…… 懐かしいしょぼさ……」
アルマが感涙しているし、間違いはないはず。
後はのんびり待っていると、少しずつシステム空間が発展して各種システムがそろってきた。ゲームの開発が進んでいるのだろう。プレイヤーキャラクターのシステムや配置物のシステムだ。
エイジは虚構世界でキャラを配置し始めた。
おかしいーー一千万プレイヤーが参加するゲームのはずなのに、このシステムでは五十人しか配置できない。しかも配置したキャラがどれもぴくとも動かないではないか。
システムの使い方は間違っていないようだ。
もしやバグかとキャラクターのシステムを調べてみたら確かに歯車の一部が配置場所を間違えているようで動いていない。
修正してから意気揚々と虚構世界に戻ってきてみたら、むしろキャラが三十二人に減っていた。その代わりにキャラが動き始めている。
一千万プレイヤーが三十二人である。
この時点で企画書とはまるで違うゲームになることが確定した。
エイジは前向きに考えることにする。これはこれでゲームができたのだからいいのだ。開発は進んだのだ。
配置物のシステムだが、何かを一つでも配置したら全システムが停止したので使用を諦めた。
さて、極めてだだっ広いステージに三十二人のプレイヤーキャラクターというのが今のアルティマウォーズの全要素である。
このキャラで何をやるゲームにすればいいのだろうか。
企画書にはルールがまるで書かれていなかった。
ただ、前ディレクターの書いた神話級ストーリーとやらが十ページに渡ってつづられていた。それによればラグナロクにヴァルハラの戦士が集って最後の一人になるまで戦うのだという。
要するにバトルロイヤルゲームを作ればいいのだとエイジは得心する。
エイジは武器システムを呼び出してキャラに剣を持たせる。
魔法システムは探したけど見つからなかった。創造の神々は力尽きつつあるのかもしれない。
ルールのシステムにバトルロイヤルのルールを命じる。
ステージとキャラとルールがそろった。
これでともかくもゲームである。
エイジは成し遂げた感でいっぱいになった。
そろそろこの夢もクライマックスに違いない。
「どうだ、アルマ。満足したかい?」
エイジがアルマに向かって胸を張ると、アルマは嬉しいような悲しいような顔をした。
「アルティマウォーズがそっくり蘇ったね」
アルマが言うところの前の世界、一週目の世界というべきか。
そこで作られていたというアルティマウォーズにたどり着いた訳だ。
自分が作ったのだから今度はクソゲー呼ばわりされないに違いない。
エイジはそう確信する。
ゲームはサービス開始準備が整った。
ネットワークのシステムはパイプラインの構造になっていて、今は外とのデジタル情報をせき止めている。
エイジは丸いハンドルを開の方向に回していった。
デジタル情報が行き来し始める。
アルティマウォーズのサービス開始だ!
かくて天地は創られた。
第二日である。
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