第7話 衝突

それから来る日も来る日も、斎藤真は彼女、北条美咲に話しかけられた。正直に言おう。斎藤真はそんな彼女に対して辟易としており、苛立ってさえいた。だから彼がこんなことを言うのは致し方ないことである。

「もう構わないでくれないか?」

その言葉は、至極当然のごとく冷淡に発せられた。

「いいや、構い続けるよ」

しかし、彼女、北条美咲も至極当然のごとく返答する。微笑みを浮かべた、柔らかな雰囲気のその目は、しかし芯がしっかりとしていた。

「なんだって俺にかまうんだ」

斎藤真は投げやりに聞く。北条美咲は少し思案し、こう話始めた。

「君は、人の未来が見えるとしたら何をする?」

「未来?何を言っているんだ。そんなの見えるわけないだろう。自己陶酔もいい加減にしろ」

「いや、信じがたいなら信じなくってもいい。ただ、もしもの話さ」

「俺は今そんなことを——」

「もしもでいいんだよ。もし君が未来を見れるのだとすると、何をする?」

「はっ!そんなの競馬競輪で大儲けするに決まっているだろう!」

すると彼女は面白そうにクスクスと笑った。彼は馬鹿にされているのかと思い、顔を赤くしながら言葉を発しようとすると——

「いやいや、すまない。なんとも君らしいと思っただけだよ」

彼女のその言葉に制された。彼は低い、不機嫌な声でこう尋ねる。

「どこが俺らしいというんだ」

「いや、なに、君はリアリストのきらいがあるからね」

「あんな奴らと一緒にするな。俺はあいつらの不貫徹な次元にはいない」

すると彼女は驚いたような顔をする。

「へぇ、君は自分をリアリストだとは思っていないわけか」

「ああ、強いて言語化するなら刹那主義だろうな」

「ほうほう、刹那主義か……いや、いいね、私もなってみたいものだよ」

「だったら今からでもなったらいいじゃないか」

「いや、それはできないんだ」

「なぜ?」

「それはね?」

「……」

「それは、私が未来を見れるからなんだ」

「はっ!自惚れもここまでくると滑稽だな!」

「やはりそうなる。まあ確かに普通の人、さらには君にはリアリストのきらいがあるからそんなもの信じないだろうね」

「だから俺は——」

「ああ、分かっている。君はリアリストではないんだろう?でも現に君は非現実的なことは信じないじゃないか。それは総じてリアリストの気質があると言えるのではないか?」

「……」

沈思黙考。彼はここでどうやら彼女と彼のリアリストの定義の違いに気づいたようだ。しかしそれも当然のことで、他人と自分にある程度の違いがあるので我々は社会性というものを獲得したのだ。だから違いというのは人間の特徴と言えよう。そして、人間というのはその違いを知ったとき、分かり合おうとするだろう。しかし、彼は——

「そうだな」

それすらも無関心、億劫と感じていた。

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