第5話 ストーリー1

斎藤真は言われたことはちゃんとやる男である。だから、不愛想ながらも彼は北条美咲にこの学校のことを丁寧に教えた。もちろん実際やってみないと分からないことは一緒になって体験してやったし、彼女が疑問に思ったことについては可能な限り答えた。そして、とうとう彼の教えられることはなくなった。これは彼らの関係がそれほど長く続いたのもあるし、斎藤真その人がそもそも学校に興味がなく、数少なしか知らなかったこともあるだろう。しかし、理由などどうでもいい。事実、これで彼はもう面倒ごとに絡まなくて済むと安堵していたのだ。

「俺から教えられることは以上だ」

「そうなんだ……ありがとうね」

そこには今までと何ら変わりもない柔和な微笑みを浮かべる彼女がいた。斎藤真は思った。これでこの微笑みを見ることも最後である。だから一回くらいは微笑み返してもよいのではないか。そう、つまり彼は無関心ではあるものの、根は腐っていないのだ。そして彼はぎこちなくほほ笑んだ。しかし彼は一つ勘違いをしていた。それはこの関係性がここで終わりだと思ったことだ。いや、事実、教えるものと教わるものという関係は終わったのだろう。しかし、それは彼女にとっては単なる終わりではなく、新たな関係性への架け橋へとなるものだったのだ。

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