君の色 私の色 自分の色
土蛇 尚
今日もまた
「よく君だけの色があるとか十人十色とか言うよね。」
彼女はキャンバスに色を重ねながら僕に問いかける。ここは放課後の美術室。
「急にどうしたの?」
「色の話。自分だけの色、少し考えてみたんだ。色ってね約1677万通りしか無いの。でも人って76億人いるの。ほとんどの人は自分の色なんて持てない」
「大半の人は誰かと同じ色になる。自分だけの色を持つ人がいるとしたらとてもすごい事。」
彼女は筆を水につけて色を落とす。
「ごめん。言いたい事が良くわかない。」
「大丈夫、自分も何が言いたいのか分からないから。君は『自分の色』が欲しい?あって欲しいと思う?特別でいたい?」
彼女は問う
もちろん!、そう断言しようとした。でも出来ない。僕と同じ色をした人はたくさんいるだろう。僕と同じ様な人はいくらでもいるだろう。
「うーん僕だけの色なんて持てないかな。そんな自信ないよ。悲しいけどそれでも良いと思う。」
彼女は筆を置いて静かに悲しく告げる。
「そっか羨ましいなぁ」
「私、『自分の色』が欲しくて堪らないんだよね。誰とも被らない自分だけの色、その色は私ひとりだけ。そう言う色が欲しい」
彼女の声音からは切望が熱望が希求する魂が滲み出ていた。少し苦しそうだと思った。
僕は彼女から目を逸らして美術室を見渡す。ずらっと並ぶ絵画すべて彼女が書いた物、この美術室はこの子の為だけに用意された。
彼女はずっと一人で絵を書いている。自分だけの色を持つ彼女は孤独だ。
若き天才画家の孤独と熱望から僕は時々逃げたくなる。それでも言う
「また来るよ。」
『自分の色』
君の色 私の色 自分の色 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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