お兄様の爽やかな笑顔が毒です
「たとえば、喫茶店のホットケーキ。注文したら提供されますでしょう? それが売り切れていて食べられなかったそうです。話を聞いたら『暑い日々が続いて、卵が手に入らない』と言われたそうです。侍女に促されて帰ってきたそうですが、翌日の教室で『手に入らないって絶対嘘ですわ。翌朝には使った分以上の食材が冷蔵庫に詰まっているはずですもの』と仰いました」
皆さん「なんという幼稚な」などと話しています。
この話を令嬢本人から聞いたのでしょう。
ある貴族がギョッとした表情をされています。
もしかして、ご当主自らそう勘違いなさってるかもしれませんね。
「ほかにも、旬ではない果実を『いますぐ食べたい』と訴えて、用意できないと返された子息がおります。その者は『果樹園の者は何を考えている! いついかなるときでも客の食べたいという要求に応えるのが職人というものではないのか!』と怒鳴ったそうです。さらに果樹園で働く方々を全員鞭打ちにして果樹園から追い出し、領地からも追い出しました。そして果樹園を焼き払ったそうですわ」
「エマーソン公爵。それはもしかして」
「ええ、有名なお話ですわね。ですが、この話には続きがございまして。焼いた農地で果樹園はできず。もちろん皆様もご存知だと思いますが、よそから木を持ってきて植えても実は生りません。種を植えれば何年も育てなくてはなりません。ですがその子息はそのことを知らず……再度鞭打ちと焼き払いをしました」
皆さんの視線が一点に集中しました。
件の子息は二度の非人道的な言動により謹慎していたはずですが……
「此度の騒動の共犯者として名を連ねた子息を、今後どうするのかお尋ねしたい。たしか謹慎していたはずの者がなぜ此度の一件に関わっておられるのか」
侯爵家当主は私の言葉に青ざめて俯き脂汗をだしています。
「遠心分離器にかけて油を絞り出したらどれだけ取れるのかしら?」
「臭くて使い物にはなりませんわ」
「絞りかすも役に立たないでしょう」
「じゃあ、あの侯爵も不要ではなくて?」
私の呟きに辛辣な評価があがります。
仕方がないでしょう、彼はひと言も謝罪を口にしてはおらぬのですから。
「罪を罪とも認めず。ですから謝罪をなされないのですわ。それとも『小娘が当主の公爵家に謝罪など不要』と体現なさっておられるのでしょうか」
「そういえば、先ほども『小娘など脅せばなんとでもなる。時と場合によっては
「ンなっっ!!! 誰だ、今の発言した奴は!」
カルテン侯爵以外全員が上座上段に立つ王太子に目を向けます。
そこに誰がいるかを思い出し、さらに声に聞き覚えがあったのでしょう。
さらなる脂汗を溢れ出しながら目線を向けていった。
そこにいるのは王太子である我が実兄。
病のため現王に子はできず、王弟の第一子である兄が幼くして王太子として召し抱えられました。
よって、両親亡き後の公爵家を私が継いだのです。
そんな私への侮辱を『妹可愛や』の実兄と、後継を理由に二人きりの兄妹を引き離してしまったことに
彼らが耳にすれば許すはずもなく……
「私たちがその場にいることを知った上での侮辱であろう?」
「ええ、私たちの目の前で嘲笑うなんて……」
「私の実妹に何をすると仰いましたか、カルテン侯爵? 謹慎させているはずの者が勝手に出歩き、我が妹の婚約者を煽り不貞に協力し、密会の場所として屋敷を提供してきたこと。罪に問われぬとそう思っていたか?」
「それは私の預かり知らぬことに存じます」
「ほう……嫡子を謹慎させず、同敷地内に誂えた別邸に住まわせ、自由に外出する権利を与え。
「それはこの度の一件と何ら関係はなく……」
「口封じのために我が姪を破落戸に与えることと、其の方の同敷地内にある別邸にて我が姪の元婚約者の不貞に手を貸し屋敷を貸し。それは其の方に何ら責任はないと、親として当主としての責任はなく、仮にも公爵家当主である相手に年下だとの理由で『脅せばなんとでもなる』と申すか」
謝れば済むことを。
ここまで言われても罪を認めて謝罪されないのであれば、私も兄たちを止めません。
「其の方と息子には低級男娼館に堕ちてもらおう」
「陛下。此度『サーカス』なる低級男娼館が出来るそうです」
「ほう、ではその店の開店祝いにカルテン一族を贈ろう」
ああ……お兄様の爽やかな笑顔が毒です。
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