キッチンに湧いてでると信じております


シンディは数々の不敬罪を問われ、判決の午後に絞首刑となりました。

生かすことは国費を使うということ。

判決後はシンディの実家が費用をまかなえば数日生きることができます。

ですが親族はその費用すら捻出するのも勿体ないと真っ正面から言われたのです。

シンディ以外の家族は領地にある一族の墓地に埋葬されました。

シンディは罪人として朽ちるまで絞首台に晒されたのですが、寒さから朽ちるまで長い時間がかかりました。


パーカー男爵家は親族が誰も継ぐのを拒否しました。

罪人をだした前当主一家は自ら毒をあおぎました。

それは貴族にとって不名誉な、罪人が与えられる死に方なのです。

男爵が妻子を道連れにしたのには理由があります。

たとえ生き残っても『家族が不敬罪で処刑された』ということで後ろ指をさされます。

兄弟姉妹は婚姻なぞ望めません。

それだけでなく、『子供をまともに育てられなかった一族』ということで信用をしてもらえません。

不敬罪とは上下関係を弁えなかった罪です。

そのため貴族の上下関係を正しく理解していない一族として関係を打ち切られることでしょう。


誰も継がなかった男爵家は取り潰されて、領地は王領地となりました。

一族の墓地はどこかに移されました。

イタズラ防止です。

たとえ『爵位を国へお返ししました。私たちは関係ありません』といったところで認めてなどもらえません。

その憎しみが一族の墓地に眠る方々の墓碑銘エピタフに向かうこともあります。

死傷者が出た場合、遺族や被害者が破壊してしまうのです。

感情的には理解できますが、それは犯罪です。




男爵家にはそのように厳しい処分が下ったのです。

上級貴族である侯爵のクラーク家が甘い処分になるはずがありません。

レイロッドは爵位を騙った罪、不敬罪、前日の舞踏会で騒ぎを起こした騒乱罪、暴行罪、傷害罪。

そしてカトラリーの籠を投げたことで殺人未遂も追加されます。

もちろんここまでしたのですから処刑一直線と思われました。

しかし、ここで『まった』がかかったのです。


「カゲイユ侯爵の申請により、クラーク侯爵家は褫爵ちしゃく。慰労金はなし。領地接収の上、カゲイユ侯爵夫人への慰謝料はレイロッドが一から働き支払うこと。なお、レイロッドの地位は農奴のうどとし、管理はカゲイユ侯爵に一任する」


これは厳しい処分に聞こえるでしょう。

ですが、これはカゲイユ侯爵夫妻による温情なのです。


「彼は周りから与えられるものをすべて享受してきたのでしょう。ですから提供することを知りません。そのため、地面を耕し種を蒔くという始まりから何ヶ月も世話をし、自然と戦い続けるという道程を経て穀類が生るを知らず。その穀類を刈って乾燥させて、麦などは粉を挽き、料理人の手に渡り料理されたものが目の前に出されることを知らない貴族は割と多いのです」

「ええ、学園でも『農民ってなんのためにいるの? 料理人に言えばどんな料理でも出てくるわよ』と言う子息令嬢は多いです。米も肉も魚も、キッチンに湧いてでると信じておりますわ」

「失礼ですが、エマーソン公爵。それは幼い頃のお話では?」

「いいえ、宰相閣下。つい先日、私のクラスであった話です」


私の言葉で、同席された方々がざわつきました。

事前に処分をどうするかという話し合いの最中です。

顔ぶれの中にそう誤解された子息令嬢の親もいたため、さらに話を続けさせていただきました。

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