なぜ生きてここにいる


宰相が衛士に目で合図を送っています。

それに気付いた衛士が頷いてレイロッドの猿轡を外しました。


「ぶっはあ……。ち、父上。我が家は公爵、デュークでしょう。だからアーリーより立場は上で、あの女を生かすも殺すも私次第だと」

「お前は……なんて愚かな。私はと言ったのだ。公爵家は王族の方々に与えられる爵位だ。そして、あちらにいらっしゃられる王太子殿下はアーリー様の実兄。アーリー様のご交友は外交をも凌駕する。その幅広いご交友は世界に目を向けるきっかけになる。我が侯爵家はそのご交友を通して販路を開拓できたら、と言ったのだ」

「じゃあ、アーリーは公爵の娘ではないと言ったのは!」

「アーリー様はエマーソン公爵家当主だ。お前は私とアーリー様の父君と学友という関係だったことでアーリー様の婚約が叶ったのだ。それをお前は……」


レイロッドは会場内を見回し、私に気付くと表情を一変した。


「アーリー、お前は一緒にいるシンディに嫉妬して殺そうとしたのだろう? それほどまでに私を愛しているのだろう? 今までのことを許してやるから」

「昨日、あなたが何をなさったのか覚えていらっしゃいませんの?」

「いや、あれは本気じゃない。それくらいお前だってわかるだろ? ほら、笑えよ。笑って私を! ……許して受け入れろおおおお!!!」

「いやです」


レイロッドは半狂乱で立ち上がり、私に駆け寄ろうとして隣で正座している父親に躓きました。

そのままみっともなくシンディの上に乗り掛かってひっくり返りました。

レイロッドはすぐに衛士たちに取り押さえられて、猿轡をかまされると元の場所へと戻されました。

後ろ手に縛られた状態でバランスが取れないのも当然ではないでしょうか?

レイロッドに全体重で乗られたシンディは憎々しげに彼を睨みつけています。


「本来ならこの場にパーカー男爵も呼び出すはずだった。しかし娘の愚行を恥じた男爵は、昨夜のうちに妻子とともに毒をのんで死をもって償った。『男爵の娘が公爵に対しておこなった数々の罪、家族も生命をもって償わせていただく』。遺書にはそう残されていた。クラーク侯爵、そなたは下位貴族より劣るようだな」


シンディは自身のせいで家族が死を選んだと知り、やっと罪の重さを知ったのでしょうか。

顔を上げたその顔はようやく涙を流しました。

クラーク侯爵は『なぜ生きてここにいる』とあからさまに言われて青ざめています。


「それでは申し渡す」


宰相の言葉は、静まり返った会場内に大きく響きました。

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