第5話 精霊狩り

 毎日の厳しい剣術の授業が終わるとシエラはいつものよう手入れしている花畑がある野原に来ていた。いつもの日課である花の手入れをすると少し離れたところに行き、精霊使いとしての自己訓練を始める。


「リフィー来て!」


 両手を前にしそう告げると風の流れが不自然に変わると彼女の手に現れたシルフのリフィーは座って挨拶をするのであった。


「シエラおはようですよ」


 召喚されたリフィーはいつものようシエラに挨拶するのであった随分と距離が縮まったのか敬語なんて二人の仲ではなくなり、友達のように接していた。リフィーをみてふと思い浮かぶ疑問をシエラは口にする。


「リフィー、毎日そうだけど私の都合の良い時間に召喚しているのに召喚において精霊に拒否権などはないの?リフィーはいつも来てくれるけど精霊にも生活があるんじゃない?」


 リフィーはこの召喚主は何を言っているのか変に受け入れるのであった。彼女の心が他の者を考えてくれる清らかな心であることは無論知っているが、それにしても変な質問であったからだろう。


「シエラは何を言っているのですか?」


 シエラは彼女にとっては変な質問をしていないはずだがリフィーの反応に少し戸惑う。


「えっと、あれ?精霊は寝たり疲れたりしないものなの?」


「しないしない、そっか、人間って寝ることで疲労回復しないといけないから不便だよね」


「うん、人として生きてきた私からすれば約束された時間でなくても来てくれるということは迷惑かけてないか心配になるから」


「精霊との約束は契約の約束を守るだけで大丈夫だよ」


「契約の約束?女王様との?」


 シエラは契約の約束について考えるとそれはきっと精霊女王との契約つまりは囚われている精霊たちを解放することであろう。


「そうだよ」


 しかし、心の優しいシエラはまたもリフィーに質問するのであった。


「でも、リフィーとシェインとは契約交わしてないのに大丈夫なの?リフィー何かして欲しいこととかない?」


 リフィーはシエラの手から離れ変な思考をするシエラの頭をポンポンと叩きながら答える。


「女王様との契約こそが私たち風の精霊との契約ってことよ!」


「でもリフィーもシェインも力を貸してくれているのに」


「細かいことは気にしない!シエラが早く成長して精霊を救いだせるなら私たちはそれで満足だから!」


「うん、わかった。剣術もそうだけど精霊術も骨を削るような努力をしないとね」


 リフィーはそう話すシエラの様子を見ると数日であったが彼女は無理をしているようで、綺麗な目の下にクマができていた。少女の身で今までしたことのない訓練を重ねることでとても疲れているのであろう。彼女の性格ならおそらく夜にも外の知識を得るため寝る時間も減らしてでも母が買ってくれた本を読んだはずであった。


「朝の訓練で少し疲れているように見えるから体を動かすのは少し後回しにしてまずマナの訓練をしようね!後、無理は禁物。体の調子を管理できるのでは精霊を助けるなど夢のまた夢!今までのシエラの生活とは違うから、休む時はちゃんと休むいいね?精霊を助ける前にシエラが壊れてしまったら本末転倒、女王様との約束も守れなくなるから」


 シエラはリフィーが話すことがどういうことが理解したようで首を頷くのであった。自分でも早く早く強くなりたい、そして精霊を救い出したいという欲で頑張りすぎているかも知れないと。


「うん、リフィーごめんね。リフィーが言った通り無理しすぎていたかも知れないよ。私が1秒1秒無駄にするとその時間だけ囚われている精霊たちが苦しんでいると思うと居ても立っても居られなくて」


「その邪悪な人間たちも精霊の力を使わないといけないから死に至るまでのマナの吸い取りはしないはずだよ。その子たちには悪いけど少し我慢してもらうしかないから、私たち精霊にとってはこそがだから」


「希望の風?」


「風の精霊の中ではシエラをそう呼んでるの。いきなり迷い込んだ風のよう私たちに現れ風の精霊の心を癒し、私たちに希望を与えてくれたシエラをねっ」


「ただの村娘だった私には少し照れくさい呼び名かも..」


「まあ、他の子たちまで召喚できるほどの実力にはなってないからしばらくその呼び名を聞くことはないから。とにかく座って?少し休まないとマナの制御が暴走するかもだよ」


「うん、わかった」


 とシエラは芝生に座るとリフィーは召喚主からもらったマナで涼しい風を吹かせシエラの疲労が飛ぶように飛んでどこかに消えるよう踊るのであった。



 精霊による不自然な野原の風はその道を通る行商人にもわかるもので馬車に乗って都市の城に向かっている太い体をした行商人は野原でスピリットスピアーなしで風を操っている少女の姿を見ることができていた。彼には精霊の姿は見えていなかったが彼女が手をあげ揺らすことに合わせてまるで精霊とダンスしているように吹く風は遠くまで吹いてくるもので周りの草の揺れからわかるものであった。


「スピリットスピアーを持たない精霊使いか..この話は売れるかも知れないの」


 と呟く行商人は都市に向かって遠く消えていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


 時間が過ぎてまたも一週間の時間がたった。

 シエラは体の管理もしっかりするようになって疲労しないよう訓練の強度も調節しているのであった。彼女の顔は一週間前とは違く活気に満ちていて、剣の訓練も順調のようだった。シルフのリフィーとのマナの訓練もかなり進み戦闘の訓練途中にも追加のマナをリフィーに送ることも成功し、召喚マナ以外にもリフィーの力をより使うことができていた。


 精霊使いは精霊のマナを吸い取るスピリットスピアーを使い精霊のマナを搾り取る攻撃や防御、または生活に使っているが本物の精霊使いは違うのであった。自分のマナを人間の魔法に使うのではなく精霊に渡し元々人間より強い存在である精霊が自然・精霊・人間の三つのマナを使うこと。リフィーの話によるとシエラの人間のマナが増幅することでより多くの精霊を呼ぶことができるとのことで多数の精霊にマナを提供するには人間のマナを鍛えるしかないとのことであった。幸いなことにシエラには潜在能力があるらしく、マナの質が精霊が好む濃度でそのマナは少ない量でも精霊の力を増幅させることができるらしくリフィーはシエラを称えるのであった。


いつものよう野原でマナの修行をしていたシエラは昼になってから家から持ってきた弁当をパンに野菜を挟んだサンドイッチのような食べ物を口にして休んでいるのであった。


「リフィーこの後は何する?」


「そろそろ私以外のシルフの召喚に挑戦するのはどう?私が感じるにシエラのマナは結構増えて綺麗な形になり始めたよ」


「へぇそうなんだ、自分ではどう感じ取るべきなのかわからないよ。もっと鍛錬すれば私にもわかるようになるのかな?」


「他人のマナを感じ取るのはできるだろうけど自分のマナは一生同じ感覚で生きてきたから難しいと思うよ?自分の体を動かすのに一々考えて動かしているわけではないでしょ?」


「リフィーの話は本当に理解しやすい!」


「えっへん!」


 リフィーはシエラの誉め言葉に生意気な表情で答えるのであった。


「人間っていつも食しないといけないし、直ぐ動くと吐くし、生きるのって疲れそう」


「え?リフィーはそう思ってるの?」


「うん、精霊は自然と共にする存在だから人間の食って不便そうに見えるの」


「でも精霊からにしては植物をパンにしたり、食したりを見るとあんま気分よくなさそうだけど」


「それは少し違うかな?」


「どういうことなの?」


 リフィーは少し悩みながら答える。


「自然と共に過ごす存在の精霊でも自然に満ちるマナは木や植物などからも出ていてそれを吸い取っていることだから人間が食するのとそう変わらないかも知れないよ。まあ、人間は自然のマナも吸い取り食にもしているからより酷いと言えばそうかもだけど」


「命をいただくと感謝の気持ちを食の前にしているけど..やっぱり果物とかに食生活を変えるべきなのかな?」


「うーうん、そんな悩むことではないと思うよ?肉を食べないと人間の体はちゃんと成長できないし栄養?ってのも重要じゃない?自然の摂理であるからシエラはいつも通りでいいと思うの。人間以外の動物も昆虫も植物も弱肉強食だからねっ!」


「リフィーがそう言うならあまり気にしないことにするわ。もちろん命を頂くことにはいつも感謝しないとね」


「それで気が済むならそれでいいと思うの」


 話の間手に持っているパンが全然進まないことに気づいたリフィーが話す。


「シエラごめんね、話は食の後にしようね。全然進んでないよ」


「あっ、うん」


 リフィーは彼女が気持ちのいい食事になるよう暑い夏にはありえない涼しい風を吹かせてあげるのであった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――


 食が終わってから野原に横になって休んでいるシエラはリフィーが言った他人のマナのような何かが自分たちに近づいてきていることに気が付くのでった。


「リフィー!?」


 少し恐ろしいマナの色というべきかそう感じさせるマナでシエラはリフィーに話しかけるのであった。


 当然リフィーもそのマナに気づいており、シエラには手で立たないようにと合図をするのであった。シエラは恐ろしいマナの感じで恐怖し緊張するのであった。村の人々からは感じ取ったこともないまるで深淵に落ちたマナの感じであった。


「どうすればいいの?」


「シエラはとにかく隠れていて、様子を見て合図するから」


「うん」


 初めて感じる凶悪なマナに怯えるシエラを落ち着かせようとリフィーは必死で近づくマナの正体を目にした。

 二人組のシエラより全然巨体な男二人が野原に向かう道で歩いてきていた。一人は黒い頭巾を巻いていて、もう一人はデブで大きい包丁のような剣をもっていた。


「シエラ合図したら西の森の中に走りなさい。あの者たちはスピリットスピアーを持っている精霊狩りだよ」


「精霊狩り!?」


「うん、あの者たちのような人間が精霊を捕まえてスピリットスピアーを作っているの。一週間前にここを通って行った行商人からシエラの話が噂の形になったのかも」


「そうだったの?」


「時期的に考えるとそれ以外はありえないと思うのよ。確実にあの人間たちの殺意はこの野原の少女に向かっているから」


「どうすればいい?」


「私が防御の魔法をシエラにかけるから後ろを振り向かずとにかく森の中に逃げるのよ2対1は初戦であるシエラには分が悪い。朝の訓練後であることとシエラの恐怖でマナが不安定だから心を落ち着かせる時間が必要ってこと」


「わかった。リフィーもちゃんと来るよね?」


「当然だよ。シエラ剣を忘れないで」


「うん」


 シエラはリフィーの指示通り這いずりながらも剣を手にした。お弁当の箱など気にする暇もなく父からもらった剣を両手で抱き走る準備をしていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――



 二人の男は周りを警戒しながらこの野原にいる風の精霊を従わせている少女の姿を探していた。しかし、目を回して探してもそれらしき人の姿は全く見えず、無駄足を運んだのではないかとそう思うようであった。


「兄ちゃん、精霊球スピリットスピアーを使ってない精霊使いっているわけがなかったよ。そんな金貨を払うまでの情報ではなかったかもな」


「うるせー。もしその少女が本物だったら一生性欲の処理とお金に困らないだろう。村の娘の一人や二人消えるのはこんな辺境ではよくあることだろうし。国にもあまり管理されていないこんなところの娘さっさと攫えばいいんだよ」


「うへへ、それはいいよなー。可愛い子だったらいいけど。こんな村の小だし不細工だったらガッカリだけどな」


「その時は精霊を召喚させスピアーに閉じ込め売ればいいんだよ。でもその行商人の話では遠くでもわかるほどの美人ってことだ。きっと俺たちを満足させてくれるはず」


「げへへ、捕まえた方が先に犯すってことでどうよ兄ちゃん」


「生意気言うな、最初に処女を奪うのは当然俺だ。お前は乳でも揉んでろ」


「そんなー揉むだけじゃつまらないよ。いや、そしたら口は先に使わせてくれよ」


「ダメだ。柔らかい唇も俺が先に味わるからお前はじっと順番を待ってろ。それともなんだ?俺と戦う気なのか?」


 頭巾を巻いている兄の方の精霊狩りがそう言うと弟に見えるデブはビビッて黙るのであった。


 欲に満ちた男たちは野原の花畑を踏みながら進むとシエラが毎日手入れしている花たちは力なき潰されるのであった。


その時猛烈な風が彼らを襲う。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



「今よ!走ってシエラ!」


「うん!」


 猛烈な風を敵対するだろう男たちに放つリフィーはシエラには風の障壁を使って彼女についていくのであった。


「うおっと!」


 いきなりの突風の攻撃に頭巾の男は腕に着けているガントレットを持ち上げると土の壁ができその突風を防ぐのであった。しかし、土の盾はかなり壊れるものでその威力を見て、森の中へ走って行く女の子の後ろ姿に頭巾の男は弟のデブに言う。


「さてはあの少女の話は本当のようだ。この圧縮された風の威力、並の精霊一匹が出せる力じゃない。土の精霊15匹分の力を使ってこれか、おいデブ、今回はちょっと厳しいかも知らんな」


「げへへ、あの子必死に逃げてる。森の中、それと風の精霊使い。これは俺の餌だね兄ちゃん」


 包丁のような剣には赤い精霊球スピリットスピアーが光っていた。おそらくデブの弟が使う精霊は火の精霊だろう。


「燃やして殺すなよ。貴重なだからな」


「わかってるって兄ちゃん」


 下種な顔をした二人の精霊狩りは少女が逃げて行った森の方向に走り始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る