第4話 人間を知ること

 中級精霊『ジン』を召喚してから二週間の時間が過ぎた。シエラは毎日毎日勤勉に本物の精霊使いになるため励んでいた。多くのマナを消費するジンはあの日以来召喚せず、まず自分のマナを鍛えるためシルフのリフィーを召喚しての訓練であった。世界の常識を知るための本は母が村の人や村にやってくる商人から得て彼女が学べるようにしてくれていて、父は彼女が外の世界でも精霊に頼るだけではなく自分でも身を守れるよう護身術や剣術などの訓練をしてくれていた。今朝もいつものよう朝食の前に父との武術の訓練があり、シエラは父よりも早く準備をしているのであった。村の人々も最初はいきなり娘に武術を教えている様子を変だと思っているようであったが、そのことに関してシエラは心を改め外の世界でも生きれるよう自ら武術を学ぶことにしたと説明したことで皆も納得するのであった。


 朝訓練の時間になると父が家からでてくる。彼は片手に木剣をもったまま家を出てきて既に訓練初めている娘に朝の挨拶をした。


「おはようシエラ、今日も早いね」


 一人で数日間学んだ技を練習していたシエラは手を止め木剣を下ろし答える。


「うん、遅れた分頑張らないとだから」


「そうか、それじゃ今日はそろそろ身を守る技ではなく人を殺める技を教えよ」


 いきなり人を殺すための技を教えるという父の言葉に凍った顔になった娘は間違って聞いたのに違いないと質問する。


「人を..殺める..技?私に必要なの?」


 父は理解していないシエラに冷静になって説明をする。娘の無知は正しく直さないといけないと村の生活村の人しか知らない彼女にとっては厳しい言葉かも知れないが父である以上当たり前にやるべきだと思うのであった。


「シエラよく聞きなさい、貴方が成そうとしていることはそう優しく言葉で解決するものではないんだ。何故かというと人々は既に数百年の時間にわたって精霊を閉じ込める精霊球スピリットスピアーに慣れてきたんだ。その常識を変えようと精霊を救うとお前は言っている。果たして便利な力を奪われる人が『はいそうですね』と精霊を解放してくれると思うのか?むしろ精霊と契約しているお前を捕まえ使おうとするだろう。そうなるとお前は耐えられない苦痛に陥るはずだ。だから人との戦闘は避けられない、状況が毎秒変わる戦闘の中お前の命と体を狙うものの命を奪わず無力化が必ずしもできるとは限らない。むしろお前が捕まれて知らない男に囲まれお前の体を欲を満たすために使うかも知れない。よく考えるのだ。お前がやろうとしていることは並ならないものだよ」


 父は娘が危険に晒されることにとても心配している声で話すのであった。彼が言ったよう世界はそう綺麗な物ではなく、本当の精霊の力を使えるシエラを道具としてしようとする、または捕まえて強姦し続ける者もいるだろう。人間とは恐ろしいもので欲に満ちた生き物であることを父は理解しているのであった。純粋に村で育ったシエラは汚い人間の本性を見たことがないからだとそう理解はしているため娘にちゃんとして説明をするのであった。


 シエラは父の言葉にゾクとし怖くなるものであった。リフィーと話したよう文化革命や人々と話し合うことで解決できると身を守れるようにだけ頑張れば問題ないと考えていた自分の愚かさにも震えるのであった。命を落とす危険は勿論知っていたが一生知らない男たちに性的玩具にされるということは死ぬことよりも考えたくもないものであった。村の優しい皆の中では見られない人間の本性について話す父の言葉は重く、明るく世界を見るだけだったシエラにとっては衝撃であった。


「パパ..私の考えは浅かったのね。信じたくはないけど人間って悪に近いのかな?」


 娘の悲しい目を見た父はそれでも娘が強くなって欲しいからか昔の話を語り始める。


「都市の生活をしていた頃聞いた話では人間は元々善であると、そうであると聞いたことがある。しかし、生まれてから小さい昆虫などの命を奪いながら遊びをする子供も多く、親が叱らないと悪い方向に育ってしまうことからにして人間は元々悪であるという意見もいたんだよ。父さんも実はこっちの考えが正しいだとシエラが生まれる前まではそう思っていたんだ。しかし、シエラは夢を追う以外で親の叱りが必要ないくらい良い子であって、そのことから人間は善である物もいれば悪であるものも居るとそう考えるようにしたんだよ」


 話を傾聴する娘のため父は続いて話す。


「シエラは誰が見ても理解できるほど善である子だと思うんだ。周りからいい子だと言われても普通の女の子とは違くわざとらしくない、飾らない純粋な姿は皆そう感じていると父さんは思うんだ。精霊さんからそう言われても自慢、慢心しないところもシエラが善であるからこそできることだと、そう信じている。だからこそ自分が善であるから周りの人も皆そうであると勘違いしてはいけないと思うからシエラに厳しく言っているのかも知れない」


 父の悩みに満ちて説明する顔に心が痛むシエラは頭を撫でている温かい手を両手でとり下げると父の胸元に頭を当てぎゅっと抱くのであった。シエラが外の世界でも強くいられるよう願う心からでる言葉は人の世界の厳しさを教えているけど、家族というものがどれだけ優しい場所であるかを感じさせてくれるのであった。

 娘に抱かれると良い気分ではない父はいないだろうけど、女の子でありながら抱き着く力も弱く、この手で外の世界に送らないといけないと考えると妻と娘が見ていない間決心していた心が揺らされるのは仕方のないことであった。しかし、愛する娘もまた精霊女王と約束を交わし世界を変えようと決心しているのに父がそう弱音を見せるわけにはいけないと零れそうな涙を堪えてもう一度思いを強くするのであった。


 抱いている娘の両肩に手を当て自分の身から離すと父の気持ちを理解しているような涙ぐむ優しい目を見つめて話す。


「シエラ、進むべき道を知ることと実際自分の足で歩くのは違うんだよ。でも、世の中全ては人の心から始まる、心は世界を変えられると私はそう信じている。シエラの優しい心はきっと道外れになった人と精霊の関係を元に戻すとパパもそう信じている。もしも戦いになって人を殺めざるを得ない状況になったとしてもシエラが描く世界は間違ってないとそう強く心を持つべきだとパパは思うんだよ」


「そうなの?ちょっと難しい..」


「世界を変えるならどんな状況でも信じていることを貫くほどの覚悟が必要だとパパは言いたいんだ。でもシエラの心に傷になるかも知れないから最後まで頑張って殺めずすむようにしなさい」


「うん..」


「心配で難しい要求ばかりしていてごめんな。シエラは人の怖さを知らないまま育たのだから、まあ、俺に剣を学べば大体なことには大丈夫だろう」


 何故か剣術だけで大丈夫だと言う父の言葉が理解できない娘のシエラは質問をする。


「パパの剣術ってそんなに凄いの?」


 可愛い顔を傾け疑問を表すると


「まあ..そうだね。村壱とはいえるかな」


 と娘から目線を少し逸らし頭に手を当てながら誤魔化すように父は答えるのであった。


「村壱でそんなに自慢してもカッコ悪いよパパ」


 人を観察する力が足りないシエラは父が雰囲気を変えるためにそう冗談を言ったものだと考えたのかカッコ悪いことを言う彼にそう言うのであった。


「ハハハ、よく言うねシエラは。そしたら今日は厳しく指導するからな!」


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