第3話 精霊と親和すること

 親と色々会話を交わしたシエラは二日後いつものよう管理している花が満開した野原の花畑に来ていた。彼女は精霊を召喚するために精神を集中して手を伸ばし叫ぶ。


「来てください シルフ!」


 と叫ぶと彼女が伸ばしていた左手を優しく纏う風が起こされリフィーの姿が現れる。召喚された風の精霊は精霊も体を解すのかシエラの手の上で背を伸ばしながら挨拶をする。


「おはようございますシエラ様」


「良い朝ですねリフィー様」


 召喚して精霊に尊敬語を使っているが前とは違って彼女の名をしっかりと口にしているものであった。リフィーの要請でもあり、おそらくリフィーは風の精霊女王も認めた清らかな少女に従っていることを自慢しているようであった。


「私を召喚することにも随分慣れてきましたね」


「そうみたいですね。マナの抜けも少し減ったような。これが慣れた?ということでしょうか」


「私との親和が深くなり、シエラ様が消費するマナの量が減ったのに違いないでしょ」


「親和..ですか?」


「はい!精霊を閉じ込め強制的にマナを吸い取るのではなく、私たちと親和して契約した人間はより精霊の力を増幅させることができますよ!」


「親和するって..どういう意味でしょうか」


「んん..そうですね、簡単に言えば友達になるってことですよ!」


「精霊様と友達になるってことですか?それはとてもわくわくすることですね!私も色んな精霊様と友達になれるととても嬉しいと思いますよ!」


 リフィーはシエラの返事に彼女の肩に座り、そのほっぺにキスをした。作り出した心ではなく本気でそう思っている感情がリフィーにも流れてきてからその嬉しさをどう表現すればいいのかわからなかったのだろう。シエラのその純粋な気持ちの共有にリフィーはとても幸せそうな顔をしていた。


「人間とこう..共感できるとは正直思ってもませんでした。私が誕生した頃にはもう、人間による狩りが始まっていましたから」


「悲しいことです、友達になるのではなくそんな残酷な行動をするって…」


「長年が過ぎ人間において精霊を拘束球に閉じこむことが精霊使いの基本とそう伝われたのでしょう」


「なんてこと..自分たちもそう閉じ込められたら嫌なはずなのに、なんで他人の立場で考えられないのでしょうか?」


「私たち精霊も人間の強欲を理解できません。シエラ様みたいな温かい心をもっている人間だけだったらもっと平和なはずなのに」


 リフィーはシエラの肩に座ったままそう話すのであった。シエラはそんな彼女に精霊を助ける方法について教えて欲しいのか質問する。


「リフィー様、私はどうすればいいのでしょうか?どうやって精霊様を助ければいいですか?」


「リフィーで大丈夫ですよシエラ様。そう呼んでください、そうですね、シエラ様がより多くの精霊と友達になり誰にも勝てない強い精霊使いになれば可能になるのではないでしょうか?」


「ん、それじゃリフィーも私をシエラって呼んでください。私たち友達になりましょ?もっと多くの精霊様と友達にならないといけないなら、リフィーからも私の友達にならないといけませんよね?んー、でも具体的にどうすればいいかな」


 シエラの返事にリフィーは彼女の前をぐるぐる回り嬉しそうに踊ってから自分なりの考えを彼女に語る。


「ありがとうシエラ、私は下級風の精霊であるシルフだけど、私との親和をより深くすれば、より上位の精霊を召喚できるはずだよ。精霊との契約を結んだ人間がどうやって召喚するのか召喚された私たちにはその感覚はわからないものですから、シエラが私を召喚する際の感覚をより深く理解する必要があるのでは?」


「精霊を召喚するときの感覚..ということですね?んんー..リフィーを召喚するときは頭に刻まれているままに叫ぶだけなんだけど。そうするとゆっくりと力が抜かれるような感覚がしてリフィーは現れていて..難しいですね」


 シエラは感覚というリフィーにとってはそう表現するしかない言葉に難しい顔で悩んでいた。とするとリフィーがいきなり提案する。


「そしたらまず、私と色々やってみましょ!人間のマナを貰ってからか前から体がうずうずしてもう我慢できません!」


「我慢できないって..?」


「シエラのマナで召喚された私はシエラの力が体に満ちていて、攻撃魔法や防御魔法とか思う存分使えそうな気分なんですよ!」


「へえーそうなんだ、それじゃ防御魔法っていうの少し見せてくれません?」


「お任せあれ!」


 とするとリフィーはシエラを中心として1メートルくらいの風の障壁を作り出した。風が振動する音が花畑に響き、花たちが風に激しく揺れることを見たシエラは叫ぶ。


「リフィー中止中止!花たちが!」


「っ!興奮しすぎたかも!」


 リフィーが風の防御魔法を辞めると風に揺らされていた花たちは残された風の余韻にひらひらと頭を動かすのであった。


「ふぅー風で花たちが倒れてしまいしょうになりましたね。でも凄いですよリフィー!」


「ありがとうシエラ、風の城壁は薄い振動を作りだし、飛び道具による攻撃を防いだり、弱い近接攻撃などを防げるんです!」


「でも一々リフィーにお願いしなければならないし、もしも外の世界でいきなり戦いになったらどうすればいいんですか?」


「私との親和を深めると感情だけではなく、思考も共有できますから、シエラの思考に沿って私が行動できると思いますよ?」


「へぇー思考も共有できるって少し恥ずかしいかも知れないけど便利ですね!」


「それが本物の精霊使いになるってことですから。シエラが言ってた都市の精霊使いは精霊のマナを使うだけの偽物ですから」


「憧れの人々が悪い人と変わるってなんか変な気分ですけど、無知っていうことはそういうものですよね。彼らもそれが当たり前のことだと生きているから私が何とか間違っていると広めないと」


「シエラは優しいですね。私たち精霊はただ人間が憎いだけだったのに。そうするとしましょ!精霊たちを救い、人間の間違っている考えを改める文化革命をして皆と友達になれるように!」


「精霊女王様が仰った昔の精霊と人々が仲良く過ごしたみたな世界を必ず作りだして見せますよ!」


 シエラの純粋な誓いにリフィーは同化してひらひらと彼女の前で風の舞いをするとシエラの長いスカートも一緒に揺れながら花畑は美しい一枚の絵のように見えるのであった。シエラも嬉しいダンスをするリフィーの心が感じられるもので、これが彼女が言った精霊と親和することだと少しわかった気がした。


「精霊と親和する、仲良くなるというの少しはわかる気がします」


 シエラは今全身で感じているこの感覚に集中して、左手を伸ばし、精霊女王からもらった知識の中にある中級精霊を意識してマナを渡して叫ぶ。


「来てください 『ジン』!」


 するとシルフのリフィーが召喚された時とは全く違う風がシエラの頭の上で起こされていたが、彼女の心を理解しているのか花畑の花は一切揺らされていなかった。シエラに吹く風も彼女を愛でるよう彼女の髪が視線を邪魔しないようひらひらと揺らしていた。


「風の中級精霊『ジン』の『シェイン』精霊女王の契約者に御挨拶を申し上げます」


 リフィーは仲間を召喚するシエラに浮かれているようだったが一遍彼女を独占できないということに少し寂しい気持ちを感じているようで、シエラと召喚されたシェインも感じるものであった。召喚されたジンはシルフのリフィーと違い女性騎士のような形をした風であり、慎ましく下りてきて自分を召喚した精霊使いに膝を曲げ礼を表する。


「女王の契約者たるシエラ様、世界を照らす光のような温かい貴方様のマナを感じます」


 シエラはリフィーを召喚した時とは違って物凄く力が抜かれたようであったが、何とか耐えることはできていた。シェインと自分を紹介した中級精霊にシエラも頭を下げ挨拶をする。


「おはようございます、シェイン様。来てくださいありがとうございます。今は女王様から受けた知識を少し試していたのです」


「そうですか、しかし風の女王様と契約してから三日、このシェインを召喚したことはシエラ様には精霊使いとしての才能が言うまでもなく御立派であると称えましょ」


「リフィーもそう思います!シェインさんおはようです」


「リフィーがシエラ様のシルフでしたか。彼女もまた純粋な心を持つまだ子供の精霊。きっとシエラ様の純粋な心から召喚されたものでしょ」


 シェインが召喚されたからマナの消費には何とか耐えているシエラではあったか妙に顔色が悪く胸元に手を当てると心臓がバクバクと心拍数が高くなり辛そうな顔をしていた。

 彼女は人間としてたったの十数年生きてながら感じたこともない勇気にあふれる感情に心拍数が高くなり制御ができなく辛くなっているのであった。


「シエラ!深呼吸をして!いきなり召喚したジンの闘気が流れてきたからだよ!」


 リフィーの説明にシエラは大きく深呼吸をし、激しく動く心臓の鼓動を落ち着かせようとした。


「ふぅ..はぁ..ふぅ..はぁ..はぁ」


 胸の痛みが少しなくなり、赤くなっていた顔の色も少し落ち着き始めるとシエラは疲れた声で話す。


「生まれて初めて感じる感情でした。これが本物の闘気、勇気という感情なんですね」


「ジンは風の中級精霊でその高い意思で召喚者を守る騎士だから、初めて感じる圧倒的な闘気にシエラも辛いのは仕方ないよね」


 リフィーは尊敬語はやめることにしていたが、いつのまにかジンのシェインを警戒するのかそれともシエラとより中が良いと見せつけるためかため口になりつつあった。


 シェインはそんな子精霊の姿を愛敬だと受け入れ、自分の闘気も乗り越える召喚者に穏やかな微笑みを見せるのであった。その笑顔にシエラはふと言葉が走る。


「シェイン様、私たちも親和..いいえ、友達になれるのでしょうか?」


「もちろんですとも、私もリフィーと同じく友達に接してくださるのならこの上ない光栄でございます」


「それでしたらリフィーのように堅苦しい敬語はやめることにしましょ?形式的なことから始めるしかないですけど、一歩一歩精霊と深い関係になるためには必要だと思いますから」


「そう…ですね。少し慣れるまで時間はかかると思いますが、努力することにしましょ」


 シエラは親和するということが精霊たちを理解し友達になり、精霊たちのためを考える心、そして精霊を信じることで感情を共有する力だとそう考察するのであった。

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