第2話 親との会話

 シエラは精霊の故郷から戻ってきてから頭に刻まれている精霊の名称がぐるぐるとしていた。未だに急すぎる情報の刻みに混乱していたが、自身が得たその力をどう使えばいいのか、囚われている精霊たちをどう救えばいいのか深く考えているようだった。


「来てください シルフ!」


 と彼女が唱えると開いていた彼女の部屋の窓から涼しい風が流れてきて彼女の目の前に小さい少女の姿をした、風をまとっているようなドレスの精霊が現れた。


「風の精霊女王様と契約したシエラ様御機嫌よう。シルフの個体の中貴方様に仕える『リフィー』と申します」


 召喚されたシルフの少女は自分を『リフィー』と紹介して、憎んでいるはずの人間に対して尊敬語で話すのであった。


「シルフの精霊様は何で私にそのような言葉使いをするのですか?精霊様は本来人間よりも純潔で強いと知っていますけど..」


「貴方様の精霊を救いたいというその純粋な心は風の精霊女王様との契約の時、風の精霊の皆に伝えられました。貴方様のその温かい心は私たち風の精霊を救ってくれ、私たちは貴方に尽くすとそう決心したのです」


「私の…心ですか?」


「はい、精霊も羨ましく思う程の清らかな心。人の子からは決して見ることができないはずの清潔さ。まるで神さまが精霊のために送った贈り物のように温かい心を貴方様はもっています」


「そう…でしょうか?村の人たちにも元気でいいねとは褒めてくれましたけど」


「彼らもきっと、貴方様の美しい心について話すものでしょ」


「それでしたら、感謝の気持ちを込め受けるとしますね。シルフのリフィー様が言った通り私の心が清らかとは言っても、私の頭はそんなに良くないので…これからどうすればいいのか悩んでいました。精霊様を助けるという心だけでは解決するものではないですし」


 シエラはリフィーに素直に話し、リフィーはそれに答える。


「もちろん貴方様のマナは純粋ではありますが、まだ強くはありません。自然のマナもまだよく使えてないようですし。精霊と契約してから数時間しかたってないのせいか私もあまり力を出せませんね」


「どうすればいいでしょうか?」


「そうですね。今すぐ都市に向かい囚われている精霊を救うということは貴方の清らかな心に深い傷を負わせるかも知れません。まず、しばらくは精霊と融合し自身のマナ、精霊のマナ、そして自然のマナを使える練習をすることがいいでしょ。シルフの個体である私を召喚することはできますが、頭で理解していらっしゃる通りその他の風の精霊を召喚することができないことは理解していると思います」


「やっぱりそうでしたね。精霊使いになるために色々頑張って勉強はしましたけど、ただの村娘として一人で得る知識では解決できない壁があったのですね」


 シエラはより頑張ることを決心しながらそう話すのであった。


「パパとママにもちゃんと説明する必要があります!あと少しで都市に行く予定でしたけど、まだ勉強が足りないともう少し勉強をしてから向かうとですね!」


「それもまた嘘ではないですし大丈夫でしょ。それではしばらくは私リフィーが貴方様のマナの修練を手伝うことにします」


「よろしくお願い致します、リフィー様」


 首を下げシエラに礼を上げたリフィーは風の渦巻きを発しながら姿を消した。シエラは自身が召喚した事実に現実でありながらも信じがたいものであって、自分の夢であった精霊使いになれたことに純粋に嬉しく思いながらも、こうやって精霊と親密にするのではなく彼らを道具として扱う人間の精霊使いはやはり間違っているとそう考えるのであった。


 彼女はリフィーと話し合ったよう親に話をするため、自分の部屋からでて下の階で家事をしているだろうママの元へ向かう。下の階に着くと夕飯の支度で忙しいママに夕飯の材料を自然と渡しながら自分も料理の手伝いを始め口を開ける。


「ママ、都市に行くこと少し先延ばしたいと思うの」


「そんなに行きたいと行きたいと話してた都市なのに急にどうしたの?パパを説得するのも一生懸命努力したのに」


「今日わかったことがあるの、精霊使いって勉強だけじゃダメで、マナの使い..んー、つまりは自身と自然と精霊のマナ全てを使えこなせないといけないって。だから私のマナもろくに使えない今の私じゃ都市に行ったところで精霊使いにはなれないし、また村に戻ることになるか、危険なことに巻き込まれるかも知れないって思ったの」


「パパが心配してたことにもちゃんと考えてくれたのね、まだシエラは成人にもなってないし一人で都市に行くのはママも心配してたよ。シエラがそう言ってくれると少し安心するわ」


「うん、パパにはママがちゃんと伝えて?我が儘を言ったこともあって、許してくれたパパを愛しているけど、少し恥ずかしくて顔見せるのはまだ苦手かも」


「シエラが言った通りもっと成長するためには自分の意見はちゃんとパパに言う。言い訳をして逃げるというのはシエラにとっても悪いとママは思うなー」


 シエラはママの言葉を聞いてからじっくりと何かを考えるようにしてから後に答えた。


「そうですね、成長とは一人だけではなく他人の気持ちを考えることからも調和という形でできるものかも!私がパパに言う!」


「そうしなさいな」


 そう母娘は夕飯の支度を続けた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 夕飯の支度が終わり、村の警備をしていた兵士の一人であるパパが戻ってきた。いつもの時間まで警備をして疲れているだろう彼を玄関で娘のシエラが迎えるのであった。


「パパ、お帰りなさい!今日も疲れたでしょ?いつも家族のためにそして村のために頑張ってくれてありがとー」


「こいつどうかしたんかい?この前までは都市に行かせてくれってうるさかったくせに、パパからはもう何も落ちないぞ」


 シエラのパパはそう言いながらも娘から聞いた言葉でニヤニヤと笑いながら答えるのであった。


「私が我が儘を言ったのもあるから、謝りたい気持ちと、いつも本当に感謝していてそう歓迎したのに酷いよ。別に何か欲しくていったのじゃないのに、夕飯できたから一緒にご飯にしましょ?」


「はいはい、入るとしよ」


 シエラはパパの手をぎゅっと握り、家の玄関から入って夕飯を食べるためリビングの食卓にパパを連れていった。パパは平気そうにしていたが可愛い娘が振る舞う可愛い行動に一日中溜まった疲労は羽でも着いたのかどこか飛んでいくようであり、気分が良すぎてとても楽しい夕食になるとそう信じているようであった。親子はそう食卓に向かい、後に食卓を囲い三人が座って楽しい食事が始まった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 しばしの夕食が終わり、シエラとママは食卓の整理してデザートの果物を用意してもってきてから、三人はまた座った。

 とするとシエラが口を開ける。


「パパ、都市に行くのは少し後回しにしたいと思うの」


 その一言に彼女のパパは目が大きくなり、娘が本当に今日はどうかしたのか疑心暗鬼になって妻を見ると、妻はそうではないと頭を振り否定する。その二人の姿を見たシエラは続いて話すのであった。


「ほかでもなく、勉強が足りなかったと思うの。精霊使いになるためには他に努力することが沢山だった。子供の私が考えなしだったかも、心配するパパとママの気持ちももっと考えるべきだったの」


 いい子ではあったが、いきなり親の気持ちを考えるという言葉を口にする娘にパパは少し驚くのであった。


「嘘をつきたくないから、素直に話すね?私、昼間に精霊使いになれたの」


 彼女の親の二人は娘がいったい何を言っているのか顔を傾け理解できないという表情になると、シエラは椅子から立ち上がりリビングの窓を開き唱える。


「来てください シルフ!」


 優しく綺麗なその声が響くと、彼女が差し伸べた左手の近くに小さい風の渦巻きから少女の姿をした小さいシルフが現れたが、彼女の親は精霊と接触したことがなく単に風が吹いたようにしか感じられなかった。


「良い夜の風ですねシエラ様」


「涼しくて気持ちの良い風ですね、リフィー様。失礼ではなければ私のパパとママにリフィー様の姿を見せたいのですけどお願いしてもいいですか?パパとママも精霊様に悪事はしないはずの良い人たちです」


「はい、承知致しました」


 そう答えたリフィーはシエラの親に近づき風で彼らの顔を撫でると、急な風が顔を撫でる感覚に驚きながら二人は椅子から立ち上がって、とすると二人の目の前にはシエラの手の上で戻りあくびをしている風の精霊が座っている姿が見えた。


「シエラどうしたものだこれは!お前はもう精霊使いになったのか?」


 彼女のパパは驚きながら娘に問う。


「精霊使い..と呼ばれるにはまだまだ未熟ですけど、風の精霊女王様に出会い彼女からお願いされたのです。人々に囚われている精霊を救って欲しいと」


「精霊を救う?」


「実を言うと人間の精霊使い達は精霊様と直接契約を交わして彼らの力を行使しているのではないと言われたの。昔は契約して共存していたけど、精霊球『スピリットスピアー』に閉じ込めマナを吸い取ってその力を使っているって。私はそのことを許してはいけないと、精霊様を救うために努力し強くなって村を出て旅に出たいと思うの」


「旅をするなんて、一人だけの娘がそれでも目に届く都市ではなく世界を回ると言ったら、はいそうだねと同意する親がどこにいると思うの?」


「はい、わかってます。村も危険な時があるけど外の世界はもっと危険ですよね。本当は精霊使いになってから村を綺麗にするのが私の夢だったけど、今は違うよ。囚われている精霊様を一日でも早く助けたいの!」


「シエラ様は風の精霊女王様も認めました純粋な心持つ少女。貴方達が彼女の親というとも彼女が決めた人生の道の塞ぐのではなく、彼女が外の世界で生き残れるように知識を与え手伝うことが親としての道理。彼女の崇高な任務を応援してください」


 リフィーはシエラに続きそういうもので、シエラの手から立ち彼女をぐるぐる回り、彼女が祝福された存在であることを示した。

 精霊女王までも認めるという風の精霊の言葉にシエラの親は愛しい娘を危険なところに行かせることを知りながらも、それが娘の宿命であると、認めたくはないけどそう受け入れるようであった。


「神様がシエラを選択したのなら仕方のないことだろう..明日からシエラに剣術を教えよ」


「私もシエラが他の知識をより得られるよう、貯金を使って村にくる商人から色んな本を買っておきますね」


 そう定められた宿命だと仕方ないと思いながらも娘が生きて戻ることを信じ、娘に役に立てそうなことを何とかしてやってあげたいという親の心が温かく伝わってくるものであった。


「立派なお父様とお母様ですね、シエラ様。リフィーが言ったのが嘘だったかも知れないのに貴方様を信じて、貴方様のために動き始める、それもまた勇気が必要なこと。やっぱりシエラ様の温かい心は精霊だけではなく人の心まで変えられると私は思うのですよ」


「風の精霊がシエラに尊称を使い従えているその姿に認めざるを得なかったです。精霊さんが言ったよう、心配で胸が痛くなるのは親として当然です。しかし、精霊の女王様が選択したというのは私たちの娘が世界を正しくする人であろうと。そんな娘を応援しないのならまたそれも親として間違っている行動でしょ」


 シエラのママがそういうとリフィーは温かく優しい風を起こし三人の愛しい家族を包み込むのであった。

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