精霊解放~囚われている精霊を救いだす~

萩ポン

1章 風の精霊

第1話 精霊使い

 豊かに見える茶色の広い野原を通るとペテル山脈の麓にある山奥の小さい村がいた。そこの者たちは精霊の力に頼らず毎日を過ごしている。川に設置されている水車を利用して水を汲み、夜には油で作った蝋燭で暗闇を照らすそんな村であった。


 人間世界の全ての国は競争するよう精霊を狩り精霊球に閉じ込めて得た力で勢力を拡張しようとしていたが、僻地の村には関係のない話であった。彼らはただ自然と一緒に住んでいくのであった。そんな村の一人の娘『シエラ』は朝から活気が溢れ出す声で村の人々と挨拶を交わしていた。彼女は銀色と白が混ざっていて太陽の光が当たるとそのシルクみたいな髪がもっと薄く光り、風に揺らされるとまるで天使が旋律を奏でるようであった。


「カーディルさんおはようございます!フィーナ姉さんもおはよー」


「今日も元気だね!シエラは」


「本当ですよ、変わらないというか」


 だるい朝の空気を吹き飛ばしてくれる清くて軽快な音色の声でシエラは村のあっちこっちを歩きながら挨拶をしていた。朝から妙に浮かんでいる少女は何かときめくような事があったのに違いないと村人たちは思っているようであった。


 少女は昨日やっと親から城郭都市に向かい精霊使いになるための留学の許可を貰ったことで浮かれていた。自然と近くに住みながらも精霊の存在は聞いたことがあるが、一度も出会ったことのない少女は精霊と共感し世界を美しくする精霊使いに憧れているようだった。そう浮かれている気分のまま鼻歌を歌いながら毎日の日課である野原の花畑に着いた後、花の手入れをし始めた。


「せーれいつっかいになーれたらむーらにもどってもっといい村にするのだ!花畑もふーやしてしーぜんに溶けているようなうーつくしい村にー」


 花が大好きだった少女はそう歌を口ずさみながら精霊使いになれた後、村に戻ってどのように綺麗にするかを想像しながら花の手入れをしていた。


 花の手入れをいつもの時間通りこなした彼女は満足したか村に戻るために立ち長いスカートをパンパンと叩き村の方向に体を向きルンルンと歩きだした。


 いつもの風景いつもの峡谷に着いた頃、少女に何か悲しい風の歌声が聞こえてきた。少女にはそう感じるそう思わせる風に包まれていた。


 好奇心で風に身を任せ峡谷の道から外れ森の中に入って行った少女はきっと知っているはずの森だけど、いつの間にか方向が分からなく道に迷ってしまった。

 道に迷っていることに気づいた少女は慌ててあっちこっち走り出したが迷子になった場合一番やってはいけない行動をやってしまったのであった。数十分が彷徨ったか結局体力が尽きた少女は森の芝生に座り込むと綺麗な目に涙ぐむのであった。夢が叶うまであと少しであるのに儚く迷子になって村にも戻れなくなって都市にも行けないという事実に堪えていた涙が溢れ出し少女は泣き始めた。


「うわああん、戻れないよぉー」


 そうすると響くような鼓動するような小さい声があっちこっちでコソコソ聞こえ始める。


「殺すべきだよっ!」


「でも、私たちが人間に敵うの?毎回のようにまた捕まれて勝てないんじゃない?」


「人間と言っても子供を殺めるのは気に乗らないかな」


 少女はあっちこっちで聞こえてくる変な会話に怯え始めた。涙を流していた目も恐怖で水玉はなくなり、目玉がコロコロ回り周囲の警戒するよう動いていた。


「そこに誰かいますか?姿を見せてください!」


 必死に怯えながらも勇気を出して叫んでみるがかえってくる返事はなく、ただ、風が切なく揺れる感じがした少女は自分も分からないうちに口を開けてしまった。


「悲しい感情の歌」


 と独り言を発すると


「え!?」「ええっ!?」「あれ!?」「んん!?」


 コソコソ会話をしていた声たちがいきなり驚く反応をし、空を飛び回るように響いて聞こえてきた。その声たちは少女の近くで響いたり、遠くなったりで興味を示すようにも聞こえてくる。


「あの子女王様の歌を感じれるの?」


「ええ!?まっさかー、人間の子にそんなのできるわけないじゃん」


 現実を否定する声も聞こえてきたが少女はしっかりとそう感じたのであった。聞こえるのではなく感じられるものであった。少女は見えない存在に怯え続けていて、その姿に気づく一人の声が聞こえてくる。


「この子もしかして私たちが見えないんじゃない?」


「精霊狩りにきた人間の子供じゃないの?」


「精霊に触れてない人間は私たちを目で見ることができないから、こう怯えているのを見るとそうだと思うけど?」


 怯えながらも生きたいという意思で耳に聞こえてきた単語を逃さず少女は話し出す。


「精霊様ですか?私はいったいどこにいるのですか?風の歌声に身を任せ森に貼ったら迷子になってしまいました。どうか助けてください」


「様?」「あの子今『精霊様』って言ったの?」


 またもやコソコソする声が多く響き、その中の一人が少女にやっと話をかけるものであった。


「お前は誰だ?どうやって精霊の源に入ったのだ?」


 少女の左耳元で大きい声が聞こえてくると少女は驚き右に倒れてしまった。唖然とする少女はもう一度勇気を出し一切嘘をつかず現状を説明するのであった。


「私はペテル山脈の小さい村から住んでいる『シエラ』です!この近くの野原の花畑の手入れをしてから村に戻る途中悲しい風の歌が聞こえ森に入ったら迷子になってしまいました!」


「精霊と接触もしたことのない子がどうやって風の精霊女王様の歌を感じられるのだ?」「人間は大人も子供もみんな残酷でなかった?」「嘘じゃない?」「嘘だったら私たちみたいな下級精霊はもう狩ってるでしょ!」「それじゃ本当なのかな?私たちの姿が見えなくて怯えているならもっと虐めてみるのはどう?」「人間たちに捕まれた仲間たちを考えたらそのくらい許されるよね?」


「『お辞めなさい』」


 威厳のある声が空気中に響き不思議な森の中に風が吹き出した。少女はいきなり吹く突風により怯え始め頑張って立っていた足に力が入らなくなりそのまま座り込むのであった。左右そして木の上、芝生など少女の目はあっちこっち見まわしていたが理解のできない森の突風であった。ただ、その突風には少女が感じていた感情に似た感じがしていた。


「女王様!?」「風の精霊王様がきた!」「きっと人間の子を罰するにきたのだわ!」「やっぱりこの子は私たちでは敵わなかったのかな?」


「『静かに!』」


 もう一度突風が空気中に共鳴し声が聞こえてきてペチャクチャ喋る小さい存在の声が一瞬で消えるのであった。

 しかし、それも長く持たなく、その小さい声たちは叫び始めた。


「女王様ダメです!」「危ない!」


 と叫び声が聞こえると少女の目の前には自然に溶けているような幻のような透き通る風の姿が現れた。透明に見えるだがその輪郭はしっかりと区別できる女王に相応しい女性の姿をした風がそこにはあった。少女は足が震えるほど見たこともない存在に気絶しそうに頭が痛くなり、漏らしてしまうほど力が抜けるものであったが、歯を食いしばり堪えた。またも勇気を絞り出した少女は静かに口を開ける。


「精霊様..ですか?」


 透明な形状の女王は優しい風を少女に吹かすと少女の両足の震えが止まり少女は息を整えることができた。


「人間の子よ。其方の美しく清らかな心は人間に対する憎悪心すら清めてくれている」


 風が少女の頭をじっくりと優しく撫でると、少女が立ち上がれるように手伝ってくれた。両足で地面にしっかりと立てるようになった少女は首を下げ感謝の気持ちを示しながら話をする。


「精霊様は人間を憎んでいらっしゃいますか?」


「そうだ、人間は我々の同胞を攫い命尽きるまでマナを奪い取り自らの欲望を満たす存在。人間も我々と共に共生していた頃もあったのだが、人間の都市から照らされる同胞の光に毎日悲しい限りだ」


 少女は理想だった都市の美しい光が精霊たちの苦痛という話に心が痛むようだった。


「都市の光が精霊を虐めている光…それはいけないことです!都市の精霊使い達もそのような人だったなんて!精霊様を助けないと!」


「純粋な子だ。我の悲しみに満ちた歌を聴けたのもきっとその清らかな自然を愛する心があったからだろう。いいだろう其方と契約を交わそう」


「女王様!?」「はいい!?」


「其方がその純粋な気持ちを失わない限り我が眷属たちの力を貸すとしよ、清らかな心で精霊と本当の友人になれるのであれば其方は誰よりも立派な精霊使いになれるだろう。そして、苦しんでいる我らの同胞を助けて欲しい」


 小さい存在達の引き留める声にも構わず女王と呼ばれる存在はそういうもので、シエラは自分の額に温かい口付けする感覚に手で額を触るたが、その瞬間少女を中心として強い風が吹きロングスカートも激しく揺れるものであった。


「あれえええ!?」


 少女はいきなり頭に刻まれる風の精霊の知識に思わず変な声を出してしまったが、その知識によって風の精霊という存在を理解することができた。

 女王は森に風の道を作り出し少女が住んでいた村に戻れるようにした後、その姿を消しどこかに消えていった。


「はい!精霊女王様!必ず精霊様を助けてみます!」


 少女は待ち望んでいた精霊と出会ったこと、精霊たちの女王に出会ったことに喜び、女王のお願い事を胸に刻み精霊使いとしての一歩を踏み出した。

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