第6話 初の戦闘
森の中へ逃げたシエラは心臓がパクパクしてどうにも落ち着くには無理のようであった。成人男性二人が追いかけてくる、掴まれたらどうなるか知りたくないほど怖いものであった。平和な村に何故あんな人たちがきたのか、それと何故狙われるのか。リフィーが言ったよう恐らく行商人の噂であろうと、その行商人を恨むことであった。人の人生が掛かっていることをそう安々お金のために広めるとか有り得ないと精霊たちが言うよう人間は邪悪であったとそう思うのであった。
走り続けると訓練を始めたばかりの少女の体はそう長く走れなく直ぐにも体力が尽き果てるのであった。
「シエラもっと走って逃げないと」
「はぁはぁ、無理だよ..リフィー..足が震えて..もう無理」
「捕まれたら御しまいだよ!?私の攻撃を防ぐほどの実力を持っている精霊狩りだから私一人じゃシエラを守れないから頑張って足を動かすんだ!」
「はぁ、はぁ..息が..切れて..吐きそう..はぁ..女王様との..約束..守らないといけないのに」
リフィーは息が荒れて大きい声で答えてしまうシエラをどうにかして落ち着かせようとする。
「シエラ深呼吸!深呼吸!走れないなら何とか隠れて逃げ切るしかないよ」
「ふぅーはぁーふぅーはぁー」
「精神も乱さないように冷静になって!自分のマナに意識を集中して!」
「ふぅーわかったはぁー」
シエラはリフィーの言葉通り頑張って息を整え、怖くないと自身に話をかけて震える体を何とか元の状態にしようとしていた。精霊狩りの二人の男の殺気というべきか嫌らしい感情の流れはとても気持ち悪く精神も乱すものであった。
「お嬢ちゃんー!ここら辺にいるのは知ってるよー!出ておいで!大人しく言うこと聞いてくれるのなら悪い目にはしないよー!ほーら出ておいでー!」
とそんな遠くない方向から男の声が聞こえてくる。悪い目にはしないと言っているがシエラは当然嘘であると思っていた。それは当然なことであろう。しかし、リフィーが時間稼ぎをしてくれたにもこんな数分で追いつかれるとはシエラとリフィーは思ってもなかった様子だった。
精霊狩りの二人の兄弟はかなりの凄腕のようで、軽いシエラの体でできた森の痕跡も逃さず追跡してきたのであった。
「兄ちゃんあっちの木の後ろから何か怪しくない?」
鈍いのか鋭いのかわからないデブの弟がそう話すと
「馬鹿野郎声に出すなよ。襲えなくなるじゃん!」
鈍いデブの弟とは違い頭巾の兄は既にシエラの位置を知っているようで、シエラが隠れていることを知りながらもあえて知らず振る舞って襲うつもりであったが頭の悪い弟のせいでその計画は無駄になった。
二人を木の裏でチラチラと確認していたシエラはその弟が指差す方向と目が合い直ぐにも逃げ出そうとしたが、土の壁で退路が断ち切られるのであった。
「っ!?」
「おらよ。こうなると気絶させるまで面倒だぞ馬鹿野郎が」
「兄ちゃんごめんな。でもここからは俺がやるから。相性的にも俺の方が有利だし」
「さっきの威力を見てまだそんなこと言うのかお前は本間に俺と兄弟なのか?頭悪すぎだろ。共闘だ!」
「ううん!」
「嬢ちゃん待たせたな。退路はないし君の精霊でもそう簡単に壁は破れないぞ。姿を見せてくれないかね」
シエラもリフィーもこれはもう逃げられないと戦うしかないと息を合わせるのであった。一人の少女とその契約精霊はゆっくりと太い木の後ろから姿を現す。
いつもの村娘のような簡単な服装であったが、その可憐で愛しい外見にデブが興奮するのであった。
「兄ちゃん兄ちゃん!これは絶品だよ!あの子の中はきっと気持ちいいに違いないよ!」
「これは驚いたな、売るのも考えていたけど、これは俺の嫁にするのも考えないとな」
「嫁って!?兄ちゃんの嫁になったら俺はどうするのよ!」
「別のいい女買ってあげるからそれで我慢しろや」
「そんなー」
デブの弟が残念だとそう凹む顔をするのであったが頭巾の兄は気にせずシエラに話しかける。
「精霊と直接契約をしていることは驚いたが、それ以上の顔が気に入った。君の体に傷を残したくないからどうだ、降伏して俺の嫁になると誓ったら怖い目にはしないと約束しよ」
頭巾の男はシエラとリフィーにとっては有り得ない提案をした。
「低俗な人間のくせにシエラを嫁にするんだとう!?」
「貴方見たいに精霊を狩るような人間の御嫁さんになるなんて絶対嫌です!」
シエラはあまりにも酷い提案に今までの緊張や恐怖まで失せ、そう答えるのであった。
彼女の答えに頭巾の男は少しいやらしい顔になるのであったが目標人物を捕まえるために冷静になるのであった。
「そうかそうか俺ではダメなのかそれでは手足を折ってでも連れていくしかないなっ!」
と頭巾の男が語尾を強く言いながら土の精霊の力を借りた攻撃を始める。砂の霧で視界がぼやけると地面の砂や土を固めた球形の弾を作り出し正確にシエラの足を狙って飛んできた。シエラは一瞬の攻撃で反応もできなかったが彼女のパートナーであるリフィーが風の障壁でその土の弾を防ぐのであった。風は土に強く振動する風の障壁は簡単に球を粉々にするのであった。
しかし、その攻撃は目くらましであり本命は風に強い火の精霊魔法であった。デブの精霊狩りは今まで見せたその鈍そうな体とはまるで別人のように鋭く動きをしてシエラ4メートル前まできているのであった。デブが剣を振る動きの前ぶりをするとリフィーの叫ぶ声よりも早くシエラは右利きのデブの攻撃に合わせ右の方向に転ぶのであった。
火を込めた剣の一撃はその軌道に火の花を散らかすのであって、リフィーが急ぎ風の障壁を解除しなかったらそのままシエラの体を燃えつくしたのだろう。
シエラもリフィーの心の判断..つまり彼女の気持ちを感じ取ってそう動くことができていた。
「これはこれは驚いたよ。俺たち兄弟の奇襲を避けた人間とは久しぶりなものでな」
そうであった。土の弾と目くらましの土の霧で視界が見えなくなりその攻撃に集中している最中にどう考えても鈍い体で遠距離攻撃をしてくるだろうデブが死角で襲いこむとは普通の人間・精霊ならわからないだろう。感情を共有し始めたシエラとリフィーで二人の感覚がよりピリピリと緊張し反応ができたことであった。
「―シエラ火の精霊術は私に分が悪いよ。何かいい方法はない?―」
と戦闘中になったせいか敏感になった思考のせいかリフィーの思考がはっきりと聞こえるようになっていた。
「―人との戦いも初めてだしそんなの私は知らないよ。集中してシェインを呼ぶべきなのかな―」
「―おそらくあの二人のスピリットスピアーに囚われている精霊は微精霊と下級と中級の精霊たち..中級のシェインさんを呼ぶとしてもそう簡単に解決できるわけがない。特に火の精霊となると一つ段階が上である上級風の精霊じゃないと対処できないかも―」
「―まだ下級と中級も皆召喚できてないのにいきなり上級って!ランクも分かれているから何を召喚すればいいのかわからないよ―」
シエラは両足をずっと動かして精霊狩り兄弟の攻撃をリフィーと共に避けながらそう答えるのであった。
「―ランクの差で埋められない程の力の差があるから、上級の最下級である『シルフラペ』を集中して呼び出してみるしかない!シルフが成長して強くなった存在であるシルフラペであれば私と力を合わせるから!―」
「―『シルフラペ』ね、わかった!リフィー少しの間集中できるように時間稼ぎお願いするね。マナを搾り取ってでもやってみる―」
「―うん!頑張って!―」
とシエラが目を閉じ頭を下げ動きを辞めると精霊狩りの兄弟はいよいよ諦めたのかと思う中油断はしないものであった。確実にあの上品な少女を自分たちの物にするためには慎重に丁寧に捕まえる必要があるだろう。
「兄ちゃんあれでやっつけようぜ。風の術者をやっつけるにはあれが一番だよ」
「あれか、お前ミスると
「もちろんだよ兄ちゃん」
頭巾の兄が頭を頷くと土の壁がシエラを囲むように作られると壁の内側に火の精霊術により炎の壁がシエラを囲む。リフィーは彼女のお願い通り風の刃でその壁を壊そうとするが火がより大きくなるだけで土の壁は壊せるものではなかった。精霊使いと共鳴し始めたリフィーであったが、下級の精霊に数多くの精霊の力を使う精霊狩りは勝てないものであった。
その固い火の壁がやがて天井まで防がれるとシエラの姿は見えなくなった。
「お前調節したやろうな?火が強すぎると窒息で気絶ではなく窒息死するぞ」
「問題ないよ兄ちゃんちゃんと死なない程度に酸素を消化させるからよ。にっひひ」
と兄弟が餌を捕まえて下種な顔をするときだった。
シエラを囲んでいた炎の土の壁が爆発し炎で焼け固まり煉瓦見たくなった壁があっちこっちの全方向に散らかって飛ぶと精霊狩りの兄弟も頭を下げその爆発を避けるのであった。
「おっまえ!ちゃんとしたって言ったよな!?あれじゃ死体も残らないじゃんかよ!」
頭巾の兄が怒り狂うと弟のデブはそんなはずはないと怯えるのであった。
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と爆発の煙がなくなるとそこには少女のシルエットが見えるのであった。少女がまだ生きていると確認できた頭巾の兄は今度こそ失敗しないとむしろ生き残った少女に感謝する気持ちであった。少女を捕まえるともう我慢ならない性欲をこの森から発散してやろうとそう欲に満ちていた。
しかし、彼のその汚い気持ちは少女が召喚した精霊によって夢のまた夢になる。
煙が台風のような風で完全に消え去るとそこにはリフィーのようドレスを、いや、より上品なドレスを着ている、人間の成人女性の体格に近い風の精霊が召喚主であるシエラの肩に後ろから手を乗せ倒れそうな彼女を支えていた。
「風の上級精霊『シルフラペ』の『セレスティス』女王の契約者であるシエラ様へ忠誠を誓いますわ。リフィーの思念伝達で状況は把握しましたわ。リフィー貴方もご苦労様でした。ここからはわたくしが獣の相手をさせてもらいますわ」
上級精霊、それは存在だけで威圧を感じさせるものであり、精霊狩りの兄弟も上級精霊が入っているスピリットスピアーは王宮精霊使いくらいしかないことを知っていた。
下級のシルフであの威力だ。本当の契約を交わしている、上級精霊、その力は予測できるものではない。
「兄ちゃんあの女の精霊今上級精霊って言ってなかった?不味いよ」
「シルフだけで俺たちの攻撃をあそこまで防げたんだ。これは間違いなく死ぬ奴や」
「どうするんだよ!?」
小さい声でそう会話した後頭巾の兄はシエラに向けて大きい声で話す。
「やぁーシエラちゃん!貴方の力はよくわかった。俺たちが手を出したのは謝罪しようじゃないか。スピリットスピアーも放棄してこの場を離れるから見逃してはくれないかい?」
上級精霊を召喚したせいで疲れていた心の優しいシエラはそれでも構わないと一瞬思うのであったが、その感情がシルフラペのセレスティアとシルフのリフィーに流れると二人の精霊は反対するのであった。
「シエラダメだよ!あんな者たちはさっさと片づけないと後にまた悪いことをするよ!」
「そうですわ。リフィーの思念から伝わってきたあのケダモノたちがシエラ様を犯すなどの話聞き捨てにならないですわ。ワタクシセレスティアが世界を乱す者たちに死という断罪を与えましょ」
人間を殺す、父もそう言ったのであった。村の娘として生まれそう育ってきた彼女には程遠いものであると。普段は全然考えもしないものであろう。しかし状況は変わった。もうただの村娘ではないと、父が話した言葉の意味が理解でき始めた。実戦になってからこそわかるもので、二人の精霊の感情が流れ込み戦うということは親とする口喧嘩などとは全然違うものだと。命掛けのものだと、彼らを逃すとまた精霊や人の被害者がでるとやっと理解したのであった。
そうシエラは心を閉め、口には何も話さないままこれからのことを決意するとセレスティスの空間を圧縮するような空気の圧力によって精霊狩りの兄弟は全身が潰され血が飛び立ち無残な最期を迎える。
セレスティスのその力によってスピリットスピアーも割れるとそこから弱まった火と土の精霊が形は維持できないまま光る一点で空中を飛び回ると消えていった。
シエラは決意したせいか、散らばった死体には目もくれず、違った、ただ見えないふりをして、消えていった精霊に対して二人の風の精霊に問う。
「あれはいったいどういうことなの?スピリットスピアーを壊すと消えてしまうの?」
「いいえ、力を失い精霊界に戻ったのですわ」
「良かったぁー救い出すとか言ったのに消えてしまってびっくりし..たん..だよ」
初の戦闘そして初の上級精霊の召喚で疲れたシエラは気絶するのであった。
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