第10話 不思議な本

 昼の時間が過ぎた首都オルティアの皇太子カビルはパラディンの任務を果たすため4城郭に向かったエレニアが気に入らなかった。

 皇太子である自分に対抗しようと、もがくその姿を見るのは好きであったが遠く離れてしまうのは不機嫌だったのか彼は怒りだした。


「ええいっ!もう4日目ではないか!他の女では全然足りない!従順することなくもがくエレニアではないとだめだ!」


 彼はそう言いながらもエレニアがもし従順するその時には苦痛を与え殺そうと思っていた。


「成人式まで2年以上待たないといけないなんて!成人式が開かれるその夜すぐにも犯し我から逃れることができなかった絶望に満ちた顔が早くみたいのだぁ!」


 化け物のような性格であるカビルであったが彼は誠実であり昼前に業務を終わらせると自分の個室でエレニアを絶望させるための案を考えていた。


「大臣を呼んで来い!」


 4日間エレニアが自分の手に届かない場所へ向かっていた事実に胸苦しくさを知ったカビルは何かいい案が思いついたのか大臣を呼び出すのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――



 エレニアは4城郭から戻り教会へ報告をし、屋敷に戻ってきていた。

 彼女はまず父上にも報告をあげ自分の髪の経緯も説明した後、自分の部屋に戻り彼女はカステトからもらった表紙に無数の知らない言語が書かれている『不思議な本』を机の上においた。色んな知識を得ている彼女でもその本がどのような本なのか全くわからなく見当もつかないものであった。

 彼女は9歳の誕生日残酷な事件によりメイド達とも距離を置き始め、さらに家の使用人達ともなるべく距離をおくようにし、自分の身の回りは自分でやることにしていた。

 部屋に戻り一人で風呂の準備をし始めているのもその理由であった。

 しかし、エレニアの事情を知らないためメイドたちの中では自分たちの仕事を奪い、勝手にしているようにしか見えないエレニアに嫉妬するものもいるのであった。

 銀色の鎧を脱ぎ奥のレザーの服も脱ぐと彼女の白い肌が見え始める。背は年頃の女の子より少し小さめであったが前より曲線が増えた体形になっていた。下着まで完全に脱ぐと可憐な公爵家の令嬢の姿と思いきやパラディンの訓練でおった傷が白い肌のあっちこっちにいて素肌の少し膨らんだ胸元には銀色のロザリオが外の光を反射し輝いていた。傷を治癒する奇跡は存在するが彼女が幼い頃に負ったその訓練の古傷はわざと消してないのであった。

 また今回の任務途中長かった髪も短くなり、遠征中従者のアイラが整えてくれたものであった。

 皇太子は彼女の美しい髪が切られたことをまだ知らずエレニアは彼が好きだった長い髪を意図はしてなかったが切ってしまったことに少しだけ嬉しく思っていた。


「英雄オルティア様が残した本…」


 彼女は真実か嘘かまだ分からないその言葉が頭の中をめぐっていた。

 オルティア様は傲慢のネクロマンサーを退治した聖人族の英雄であり、今の王国を築いた英雄。ただ全ての罪を濯ぐことができた英雄と違い今の聖人族は堕落し続けていると彼女は思うのであった。


「彼はなぜこの本を残したのだろう?」


 彼女はお湯に身をつけながら一人で考察を続ける。

 単純に考えると7罪を濯ぐ方法が書かれている本であるけど、それは単純すぎる答えだった。

 7罪を濯ぐ方法が書いている本であれば、誰でも読める言語にするべきであって、エレニアさえも読めない言語にはしないはずだった。


「この考察は却下ね」


 また彼女が土地の祝福の任務を終え好奇心に勝てず馬に乗ったまま本を開こうとしたけど、何か結界が張られているのか開いてみるのはできなかった。

 お湯の温かさにより赤く染めあがった頬っぺたを浴槽にあてもっと考察しようと考えてみるが『正しく使える人間』という意味が理解できなかった。


 ニテの父であるカステトは『エレニア様ならきっと使い道を探し出せるはず』と言い『使い道』という言葉が引っかかていた。

 細くて綺麗な足を水の外側にだし伸ばしながら『使い道』『用途』『使用方法』などの言葉を並べながら考察を続ける。


「カステトさんもきっとご先祖からそういい伝われた話だろうけど、何故『解析できる』『読める』などではなく『使う』と伝われたんだろう」


浴槽の中で体を解しながら彼女はじっくりと考えるのであった。


「あの不思議な本はもしかして…『読む本』ではなく『使用する本』!?」


 彼女は浴槽から急に立ち上がりゆっくりと考えを整理する。


「本の名前は読めない言語、そして開くことができなく、何かの条件下で開ける、開くことができると中の知識を得ることではなく何かに使える本」


 といいつつまたお湯に身をつけツンツンとした顔になり思考を続ける。


「でも本の名前すら読めないと始めることもできないし…『オルティア王国』『北西の共和国』『東南のジグハ』『南のクント国』全ての国でシャーレル語を使っているのにいったい何語なの?」


 彼女は王国の知識が集まっている王国図書館で数えきれない知識を増やしたつもりだがそんな彼女でも一度も見たことない言語に考察は進まないままだった。

 すると彼女はまた裸で立ち上がり独り言を呟いた。


「知らない言語?そういえば王国図書館で得たのは世界の知識であって言語を用いた文学作品とかは一度も読んだことがない…全ての本においてもシャーレル語を使うと学んだから盲点だったわ!ゴブリンの言語なはずはないけど他の存在の言語なのかも知れない!文学者ならきっとそんな表現と単語を自分の作品に使っている可能性がある!」


 そういいながら何も体にかけないまま裸で自分の机に向かって歩いて行った。

 彼女は自分の部屋で思考し始めると他のことに気が回せないという、よくない性格をもっていてメイド達にもよく指摘されたが身の回りにメイドを置かなくなってからはより酷くなっていた。


「英雄オルティア様が残した本なのかの確証はないけど、この本がある力を秘めていてその力が私の前を遮っている絶望の影を開いてくれる一筋の光になるかも知れない…」


 と裸のままその不思議な本を手にする。


「他に方法がなくパラディンの任務の遂行している間だけ息苦しさから逃げ出しる現状でここにかけてみるしかない!」


 彼女はそういいカステトからもらった不思議な本を必ず解析することを誓うのであった。

 その時ドアの方でノック音が聞こえてきた。

 裸であることにやっと気づいて、彼女は体の水分を急いで拭き、服を探しながら答える。


「ちょっとまって!」


 ネグリジェみたいな服を急いで着た彼女はドアに向かい開いた。

 そうするとそこには執事らしき人物が立っていた。


「ロッティ爺さんじゃないもうそんな時間?」


 エレニアは風呂に入る前、報告は一時間後部屋にくるようにロッティと呼ばれた執事に命令していた。


「はい、エレニア様。教会から封書が届いております。部屋で御自由なのはいいのですが肩が乱れています。約束した時間通りのはずですが」


 執事のロッティは手紙を渡しながら答えた。

 エレニアは急いで服を着たせいか肩が丸出しで濡れた前髪は額に張り付いていた。


「ごめんね、ロッティ爺さん。考え事してたから時間の流れに鈍かったわ」


 エレニアは服を綺麗に整え手紙を受け取りながらそう答えた。


「エレニア様は2年と少しで成人になるレディーですのでもう少し他人の目を気にした方がいいとロッティは思います」


 彼にとっては赤ちゃんの頃から見てきたエレニアは主人の娘ではあるが、まるで孫娘のような感覚であって、美しかった長髪が今回の遠征で失ったことに少し残念と思っていた。

 ロッティのその言葉にエレニアは少し怒った笑顔で話し始める。


「私がレディー?パラディンの訓練はロッティ爺さんは見たはずだけど?」


 パラディンの訓練は男でも辛く、もの凄い精神力がないとできないものであった。二人の兄たちとは違う方法の訓練であり、王都を離れないまま王都内で訓練を受けたのであった。


「はい、確かにその姿は少女、いいえ、女であることをやめていらっしゃいました」


「わかってるならいいわ、一人にさせて」


「わかりました」


 エレニアはまた屋敷の使用人達にあのような事件が巻き込まれるかも知れないという恐怖の感情に襲われロッティと長く会話せず一人になった。

 そう閉じたドアに身を寄せ、封書を破り中身を読んでいたエレニアは間違って読んだのではないか目が大きくなりもう一度読み上げると。


「な...パラディンの任務を王宮に制限するだと?!」


 教会の命令書にはそう書かれていてそれはきっと皇太子の仕業であると予測可能なものだった。


「どこまで私を束縛するつもりなのよ あの男は!」


 うんざりした声でいいつつ机に向かい、もう一度両手で不思議な本を手に持ち決意した


「必ず…この運命を変えてみせるから」


―――――――――――――――――――――――――――――――――




「キャァァァッ!」


 周期的に悪夢を見る彼女はあの日の記憶で悲鳴を上げながら目を覚ますのであった。

 10歳の少女は恐怖で自身の腕を抱き込み震えていた。

 荒くなっていた息を整え深呼吸をした彼女はベットから降り浴室に向かい変な汗をかいた自分の身を清らかにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 パラディンの任務が王宮に制限された日の朝、エレニアは銀色の鎧を着て皇太子執務室を守る仕事のため王宮に向かうため屋敷を出る。

 嫌な仕事であるが大切な人達がこれ以上殺される姿を見たくない彼女だった。

 屋敷の正門には鎧の集団が見えその先頭には夕焼けみたいな赤色がまわっている金髪の女性がいた。

 その女性は飾りのない白と緑色のスータンみたいな聖職者の服装をしていた。

 彼女の名前は『アイラ・ブランコリチ』ブランコリチ子爵の4女で教会に送られ上位プリースト職を持っているエレニアは従者であった。


「アイラさん来ていたんですか」


「はい、出立の準備は終わっております」


 従者を置くのを拒絶したエレニアであったが、同じ女性として10歳で上位プリーストを超えアークビショップより上位職のパラディンになったエレニアにアイラ自ら願い志願したものであった。しかし、アイラの要請により従者の誓を交わしたものであったが、その時の彼女には年下のパラディンに対する嫉妬でうまくいかなかったものだった。でも、今の二人はそれなりに信用している関係になっていて、アイラはエレニアがまるで妹のように感じていて、エレニアはお姉ちゃんではないがそれでも外の人の中では信用できる大人だとそう思っているのであった。

 プリーストとビショップと違い治癒や精神力強化の奇跡だけ使えるのではなく身体能力も鍛えないといけないパラディンは彼女には憧れの存在であったためそう嫉妬の気持ちを心の奥にもっていたのであろう。

 アイラはエレニアより4歳も年上だったが今になっては気にせずエレニアを尊敬する思い一つで慕っていた。

 短くなったエレニアの髪の毛をみて、遠征で彼女の髪を整理してくれたことを思い出しながら妹がいたらこんな気分だったんだろうと思いクスっとアイラが笑った。


「何か変ですか?」


 エレニアは首をかしげながら話した。


「いいえ、髪が短くなったせいか鎧を着せられた幼女にしか見えなくつい」


 そうアイラが笑えをこらえず笑うと後方にいた兵士達もクスクスと笑う声が聞こえてきた。

 髪が長い事で少し小さめだった身長がそう見えなかったものであって短くなった髪によりなおさら小っちゃい子に見えたのだろう。

 エレニアはあえて無視しプンプンした顔になって一人で白馬に乗り王宮へ向かい始める。

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