第9話 誕生日パーティー

 エレニアは退屈であるだけで行きたくもない王宮に向かう馬車の中で家族のため自分を犠牲すると意識し平然と振る舞い表情も笑顔で飾っていた。

 前の馬車の父上と母上はエレニアが皇太子に脅迫されていることも知らないはず、またエレニアがどのような気持ちで過ごしているかも理解してないよう、微笑みながらお互い話あっていた。

 皇太子の機嫌を損ねることを避けるためエレニアが乗っている馬車には誰一人も乗らず、ただ一人彼女だけ乗っていた。

 皇太子は自分勝手な性格であり、エレニアを自分の所有物として扱いゲスな顔で彼女が妊娠できる日を待っているという人物であった。

 エレニアは聖人族である馬鹿王子は7罪の色欲を制御できるはずなのに、制御し切れてないという事実にいつも疑問を抱いていた。

 エレニアが知識で得ている聖人族とは破壊神に影響されないとなっているが、『13歳の夢』の影響も受け、聖人族たちは自分らだけが精神治癒の植物であるマンドレイクの薬を飲んでから寝るらしく、この事実からマンドレイクなしでは聖人族もまた破壊神の影響から離れることができないと証明になるものだと彼女は思っていた。

 しばらく自分なりの考察を続けていると王宮につき馬車のドアが外側から開いた。

 そのドアを開いたのは誰でもなく皇太子自らだった。


「おお我が愛しき婚約者よ」


 皇太子の『カビル・エラダスケダニア』は興奮してそうな顔でエレニアに手を出した。

 その手を取りエレニアが馬車から降りる。

 彼女の手に触れた皇太子はまた変なことを言い出した。


「やはり君ではないと物足りない。早く13歳になってはくれないか」


 欲に満ちた彼はエレニアの体を欲しがりそう言い出した。

 彼は法律的に禁じられている13歳未満の結婚はしっかり守っていた。

 吐き気がするエレニアだったが毎年のよう笑顔を作りいつも通り話し出した。


「私もまたカビル様の妻になることをいつも待ち望んでいます」


「ふーむ、そうか。ならもう少し待つことにしよう」


「感謝致します、カビル様」


 カビルと手を繋いだままのエレニアは兵士が左右厳重に並んでいる綺麗な廊下を歩き彼女の誕生日を祝うための会場へ向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


 会場についてから体感で1時間くらい過ぎたか皇太子カビルは他のものと会話してたり歩き回っていて、エレニアは自分の誕生日なのに皇太子である自分以外の他人がエレニアに触れることを極度に嫌うカビルのせいで誰とも話すことができず退屈に席に座っているだけだった。

 ニコニコと笑顔でいることしかできなくアデリアも何故かいなく退屈な時間を過ごしていた。とすると皇太子カビルが兵士達と一緒に会場から出て行く姿が見えたエレニアだったが、相変わらず座ったまま誰も祝ってくれない寂しい誕生日会場に座っていた。

 父上と母上は元々彼女と会話するはずだった令嬢たちと話をしていてその姿も目に入ると辛い思いが重なっていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 30分くらいがまた流れたのか会場を出て行ったカビルが帰ってきて、嬉しそうな顔をしてエレニアに向かってき彼女の手を取りどこかに連れ出そうとしながら話す。


「エレニア、君のための誕生日プレゼントができた!」


 嬉しそうな顔でウキウキしたカビルは細いエレニアの手首を握り続いて皆に命じるのであった。


「誰もついてくることを許さない!」


 といいながらエレニアの手首を引っ張るようとり直し、誕生日会場から彼女を連れ出していく。彼に引っ張られるまま抵抗することもできずエレニアは長く座り続けていた椅子からやっと立つことができたがそう嬉しいものではなかった。

 エレニアは一瞬だけこの人も自分に対して変な考えだけではなくロマンチックな考えもできるのだろうかと疑問を抱いたがそういうことは絶対にありえないと期待しない感情に戻り、表だけ驚いた顔をするだけだった。


「君の9歳誕生日にお似合いのプレゼントができたんだ。これを見せてあげないとね!」


 彼はウキウキした表情で語っているものであった。

 エレニアはいきなり会場を出て行くことになり、『できた』『見せる』という彼の言葉にやはり元々準備していたプレゼントではなく急いで用意したものだろうと確信していた。

 引っ張られるままにしばらく王宮の奥側に進むと、向かった先は皇太子の個室がある区域であることを認識したエレニアは慌てて話し出した。まだ、13歳になっていない彼女にとっては有り得ない彼の行動であったためだろう。


「カビル様まだ私はカビル様の個室に入ることは許されないです。どこへ向かっていらっしゃるのですか?」


 エレニアは少し恐怖し震える声だった。

 その震える声が気持ちいいのかカビルは大丈夫だという笑顔で彼は返答する。


「心配無用。我の部屋に向かっているわけではない。我のの部屋だ。だから問題ない」


 趣味?という言葉から嫌らしい趣味の部屋でももっているかと考えたエレニアは気持ち悪くなってきた。

 しかし、彼女の想像を遥かに超える風景が彼女の目の前に映るにはそう長い時間は必要なかった。

 守っている兵士もメイドも誰一人見当たらない趣味のためだというその部屋の入口にたどり着いたカビルは


「これぞ!君への誕生日プレゼントだ!」


 と叫び大きいドアを両手で開きだした。


「おえぇぇぇ!」


 エレニアはいきなり吐き散らし始めた。

 生きてて一度も出したこともない吐き声だった。

 綺麗なドレスの下も汚くなったがそんなことはどうでもいい状態だった。


「やっとだ!君の作られている顔ではない生々しい表情をみることができた!今日はとてもいい日であるな!」


 カビルは成し遂げたという感情が溢れ出したのか嬉しく踊り始めた。

 エレニアは吐きを我慢し部屋の奥をみると、そこには多くの人間の死体を部位別に切りトーテムのよう作られていてその真ん中には宮殿にきてから何故か一度も見当たらなかった『アデリア』の首が目を閉じ吊らされていた。


「君の家族を直接トーテムにすることは王家にも損になるからできなかったが、メイドならと考えたのが正解だったな!普段から君を触るその汚い手も気に入らなかったものだからなぁ!」


 カビルはそうはしゃぎながら続けて話し出した。


「君は我の者だ!前にも言ったが君の一族もこうなりたくなければ我に逆らうことは絶対に許さん!我の前で作り顔もやめろ!ゾクゾクするほど生々しい今の君の顔がよっぽど美しい!」


「ほーらほら見て見ろもっと絶望するが良い! このメイドの手足を首にのっかけたのは良い構図だろう?目を開けてみるか?」


 カビルは閉ざされているアデリアの目を開きだし語り続けた。


「あらあらまあまあ!白目でした!目を閉じたままが綺麗な子だったな!そしたら口を開けてみようか!」


 口を開けると切れている首の喉を防いでいたのか口の中から大量の血を吐き出してきた。


「おうおう!ワインの飲みすぎなのかな?女子オナゴが酒好きすぎるじゃないか!」


 アデリアの死体を持ち遊ぶ人間の形をした怪物がそこにいた。

 エレニアはその光景を見て感情が制御できず、涙を流しアデリアとの最後の会話が自分の愚痴だったことを責める気持ちとアデリアをこのような姿にし、持ち遊びだす皇太子に対する怒り、また皇太子の婚約者になった自分の人生を呪った。


「こんなこと許されるわけがない!聖人族で王国の皇太子でありながらこんな…ことを…!」


 エレニアは怒り叫び出したが皇太子カビルは嬉しそうな顔のままであった。


「許されない?誰が許すのか!我こそが『王国最強の魔法使い』であり王国の皇太子!例え父上だろうが我に逆らうことはできない!」


 そうであった『最強の魔法使い』、エレニアも幼い頃から婚約者になることに諦めていた理由の一つであった。

 皇太子カビルは子供の頃から特別な魔法の才能を発揮し6歳にはもう誰も敵わなくなっていた。

 パラディンの修行を重なったエレニアでも彼にも勝てない、どうあがいても逃げられないことくらいは彼女は知っていた。だから昔出会ったあの少年にも自分は諦めているとそう話すのであったのだろう。


「我に対抗しようと聖騎士の訓練を続けていることはもちろん知っている! 無様にあがいてみるがよい。パラディンの称号を得たときには我が直に手合わせしてやろうじゃないか!」


 皇太子カビルはそうエレニアを挑発するのであった。


様が許さないはずです…」


 エレニアは歯を食いしばり、自分では勝てないことをよく知っていたからこそ主神の名をなのったのだろう。


「ヴォリチェド?神なんぞこの世には存在しない!我こそが神である!君がそう聖職者の修行をしても君の人生は願い通り変わったのか?否、違うな!我から逃れることすらできないじゃないか!神がいるならまずそれを証明してみろ!」


 カビルの言う通りだった。

 エレニアは祈りを捧げ続けていたが改善されることはなくやがてはアデリアまで殺される現状が彼女においての現実であった。

 神がいるなら何故神に祈りを捧げ続ける自分を救ってくれないのか、破壊神は人族に着実と影響を与え存在証明をしているのに、主神は何故何の答えもくれないのか。

 疑問が頭を走っていったがエレニアは考えを直すことにしたようであった。

 きっと聖職者の奇跡を使えるということは神の存在は確実だとそう信じることにしたのであった。


「Blessing《ブレッシング》」


 精神強化の奇跡を自分にかけエレニアは立ち上がった。彼女の目を強い意思が見える目をしていて、悍ましい皇太子を睨んでいた。


「これが証拠です!」


 エレニアの奇跡を見たカビルは答える。


「精神強化の奇跡か。なるほど。しかし、それも魔法の一種、神の証明にはならない」


 カビルは才能はあったがそこまで頭は良くないと普通の答えをするのであった。


「貴方には使えない聖職者の奇跡。主神の存在を否定する貴方には使えないことが主神の存在を証明する証拠になることを何故理解できないのですか!」


 カビルは不快な顔になったが後の楽しみのため、その感情を抑え語り始める。


「そうか。そうか。なら君が信じている神がどう君を救ってくれるのか楽しみにしてみよう。13歳の成人式を楽しみにするがよいだろう」


 と言い、これ以上エレニアと会話してたら我を失いエレニアを壊してしまいそうになったか彼女を一人にして、皇太子カビルはどこかに歩き消えて行った。

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