第8話 エレニア・ヴァインクラッディ

 7罪は人族の生活にあまり影響してないと信じている者たちが多数であり、誰もが毎日の生活において気にせず生きている。


 しかし7罪は確実に人族に影響を与えている。


 『傲慢』は人間が驕慢するように誘導し、正しい判断ができないようにしていて、『強欲』は物や全てにおいて人間の欲を刺激し精神を堕落させ、『嫉妬』は強欲と連携し、持たないものに対する嫉妬が他人との関係までも破壊していた。『憤怒』は感情の管理ができなくし、傲慢のよう判断力を低下させ、死へたどり着くようにしていて、『怠惰』は人間が前に進めていかないように、足踏みだけをするように、主神が望む人間像を描くのを邪魔をし、『爆食』は怠惰と連携し人間が怠惰になって食うこと以外は他に考えないようにしていた。最後に『色欲』は人間の繁殖欲および快楽を刺激して堕落した人間たちを量産し、破壊神の力がより強力になるようにしていた。





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 ‐オルティア王国 1城郭 屋敷の街


 ‐ヴァインクラッディ公爵家屋敷


 ‐エレニア・ヴァインクラッディ3歳




 朝の知識を探求する勉強が終わったエレニアという名を持つ少女は本では説明が難しく理解できなかった『英雄』の話をママに教えてもらうと書斎の隅っこで一人で本を読んでいたエレニアは椅子に座って娘同様本を読んでいるママに読んでいた本を持ち込み説明してくれるようお願いするのであった。




「英雄オルティア様はオルティア王国を築いた人なのは本にも書かれているけど王国は一人では築かれないし、何でそこまで凄いってのが分からないよ。教えてー」


  少女は王国を築いたことを一人だけの功労のように書いている本に疑問を抱いているようであった。




「確かに一人では王国は築かれないね」




 彼女の母は普通の子であれば男の子も女の子も英雄に憧れるだろうが、英雄に疑問を抱く娘が不思議だと思うようで、娘の目が大きくなり目をキラキラとして答えを待っている顔を見ると、クスっと笑ってから椅子から立ちエレニアの手では届かない本棚にある本を取り出してまた椅子に座り娘を抱き上げ自身の太ももに乗せ本を開くのであった。




「昔々…800年ほど前に聖人族の英雄『オルティア』様はかつて破壊神『ルデスド』の手先である『傲慢のネクロマンサー』との地上界戦争において勝ち取ったんだよ。でもね、疲弊した旧大陸を捨てるしかなくなってね。オルティア様は人々が住める新大陸に移住することを決意してから今の王国がある大陸を発見して皆を移住させることに成功したんだよ。そして国を聖人族で築き上げて、オルティア様は王の器ではないと謙遜だったけど周りの聖人族の意見で彼の名を取り『オルティア王国』になりましたと。ここにちゃんと書いてあるでしょ?」




「へぇー、一人で冒険して新大陸を探し出したんだ。えっと、ママ傲慢って言ったよね?7罪が関係しているの?」




 賢いエレニアはそう質問をした。彼女は既に色んな本を読める能力を持っており、7罪に関しても色々知識を習得していた。




「そうだね 破壊神の手先は7罪を担当していて『13歳の夢』にも影響し人族を苦しめているからね。聖人族である私達は心配要らないけど、堕落してしまった堕落人族はこれに抵抗するのがとても辛いとね」




「聖人族と堕落人族って見た目では変わらないのに変なの」




 エレニアの難しいという子供のなりの悩んでいる顔を見てママが続いて話しだす。




「見た目は似ていても聖人族とは違って堕落人族は魔法が使えなく知能も聖人族より劣る特徴があるし、精神力にも差があるからね」




「アデリアは魔法使えるよ?アデリアは堕落人族じゃなかったの?」




 唐突な娘の質問に説明不足、いや例外を説明していないと思ったママは改めて説明する。




「堕落人族は主神『ヴォリチェド』様の恩恵を受けない劣等人種。しかし、その中で優れた人が生まれることが稀にあるからね。彼らはほんの少しであるけど7罪に抵抗できる精神力を持っていて、弱いくても魔法を行使できるのよ。だからアデリアはヴァインクラッディ家のメイドとなり私達を補助しているってこと。魔法を使える堕落人族は他の堕落人族より色々仕事もできるから」




「ふーん」




 エレニアは何か気に入らないという表情になって反応するのであった。アデリアはエレニアの直のメイドであって、彼女をお姉ちゃんみたく感じるいるであるからこそママの言葉が気に入らなかったんだろう。エレニアは上には兄達だけで下にも弟がいるので姉妹がなかったため、いつも親しく接してくれるアデリアがお姉ちゃんみたく感じるのは当然であった。きっとママよりも一緒に過ごす時間が長いアデリアを家族ではなく堕落人族だと区別し道具のよう話すママの言い方が好きではなかったんだろう。




「どうかしたの?」




 まだ子供で感情を隠すことが慣れてないせいか表情に出る不満は母であるエリンが気になってしまうのであった。娘でありながらも普通の娘とは違う、自分が子供だった頃とも何か違うような本当にレオンとの子であるか疑問になるほどエレニアは変な子であった。




「何でもないよ」




 娘のエレニアはそう答えると、いつもの無表情になりまたも自分の気持ちを語らず胸にしまってしまうのであった。




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 ‐オルティア王国  1城郭 屋敷の街


 ‐ヴァインクラッディ公爵家屋敷


 ‐エレニア・ヴァインクラッディ9歳






 9歳の誕生日朝からエレニアはパーティの準備で忙しい。


 ウトウトしている暇もなく目覚めてからメイド達に囲まれ風呂やら体を清められ、用意されているドレスを着たり抜いたりを繰り返し母上好みの赤いドレスに着替えていた。その赤いドレスは年頃になって少し体に変更がはっきりとなった彼女の体のラインを少し協調するように締まっていて、彼女の長いブロンドの髪と調和されているのであった。


 4歳の時、皇太子が婚約者として決められて以来から毎年の誕生日が嫌いになっているエレニアであったが、それでも家族を思い一人で我慢するのであった。毎年こうやって不便な服装を身に着けないといけないことと、皇太子が彼女の誕生日パーティーを開くことについて不満が溜まっていたがそれもまた仕方のないこと。彼女はただ、家族と一緒に静かに誕生日パーティをしたいだけであった。




 エレニアはその美しくも可愛い見た目とは別に女性服のセンスが極めてなく王国図書館に通う時もいつもズボンになっていて動きやすい服装を好んでいた。だからパーティーで足幅も自由にできないドレスはとても不便に思うのであろう。自分を飾るなんかより知識を得ることが大事であり、パラディンとしての訓練においても化粧などする暇もなく、毎朝メディテーションの前に体を清める程度であった。皇太子の彼女に対する執着から逃げ出すためなのか、彼に気に入られたくないせいか女の子として恵まれたその見た目を極めることなど興味がなかった。




 今回の誕生日も9歳も年上の皇太子がエレニアのために開く誕生パーティーだが彼女は王子が13歳の時同い年の貴族の令嬢ではなく何で自分を選択したのか全然理解できず怒りながらイライラしていた。


 寧ろ4歳の時王国図書館で出会った『ニテ』という男の子の方が不思議で興味があると考えながら知識欲が最優先である彼女はアデリアに愚痴を言い出した。




「アデリア、貴族の中でも何で私だけこんなに早く婚約者が決まったの?私は子を増やす結婚なんかよりもっと知識を増やしたいのに、聖人族の数も足りてないと思うし、人族全体で考えても人数的には足りているでしょ?」




 話しながらも彼女は手に本を持っていて、それを読んでいた。屋敷で一番仲のいいメイドアデリアだからこそ出せる態度だろう。アデリアはエレニアより少し年上であったが魔法能力も堕落人族の中では優れる才能をもっていて、メイド長になっていた。エレニアを愛おしく思ってはいるけど、立場など気にし始める年頃になってからは少し距離を取っているような、そう感じさせる微妙な距離感をエレニアは感じていた。エレニアの愚痴にアデリアは彼女の髪の手入れをしながら答える。




「エレニア様は幼い頃から聡明な方できっと皇太子様のお気になられたんですね。聡明なエレニア様は世のため、また聖人族の偉大な遺伝子を後世に残すための義務を理解していらっしゃるとアデリアは思います」




「つまらない答えね、アデリア。その義務は理解していても14か15歳で母にならないといけないのは退屈で嫌いだわ。母上もエルニッツ兄さまを生んだのが20歳だったのに6年も早くって?可笑しいでしょ?成人の13歳になってから直ぐに子を産む人形になるって大嫌いだわ。あの皇太子を体に受け入れないといけないってことも嫌になるし、あんな馬鹿との子は絶対愛せないと思うのよ」




 エレニアの愚痴が止まらない。




「聖人族の寿命は150年もあるのにその10分の1で何もできずただ子を産む人形になるって可笑しいと思わない?それもあの王子よ馬鹿王子。本当嫌い大嫌いっ!」




 アデリアは毎日のように聞いたその言葉を聞かなかったふりをして答える。




「それは仕方のないことです」




 アデリアの冷たい返事にエレニアは配慮することができず口が滑ってしまう。




「アデリアが羨ましいわ。幼い頃には姉妹みたくしてくれたアデリアは何処か遠いところにいなくなったし。魔法を使えるから他の堕落人族より良い生活もできて、婚約者もないし結婚も望む時自由にできるし。貴重な人材だから結婚後もメイドとしてちゃんと仕事できるし。あ~あ羨ましいとわこの上ないだろうね」




 アデリアは何も言わずエレニアの髪に銀色の蝶々飾りをつけるだけだった。


 エレニアは4歳に婚約者が決められてから息苦しくなった自分の人生が嫌いだった。


 3歳年上で姉妹のよう接してくれたアデリアも奪われ、何もかも奪われた気分になっていた。


 パラディンの訓練も母上に止められてもやり続けた理由は訓練中には自分の力では変えられないものを少しの間忘れることができたからであった。


 パラディンになれれば子を産む人形になるのを少しは遅らせることができると信じているからであった。国の戦力になるパラディンになれば皇太子と言えそう簡単に扱うことはできないだろうと、彼が王になるまでは大丈夫であろうとそう信じているのであった。


 3男の弟は聖人族でありながらも3城郭まで遊びに行ったり思うがまま自由に生きててエレニアはまた彼も羨ましいと思っていた。




「やっぱりこういう感情で考えるところ聖人族っていうのも大したことないよね…」




 エレニアは最後の愚痴を口にし、おめかしが終わると、自分の見た目を鏡で確認もせず部屋を出ていく。


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