第5話 第4城郭

 王国図書館で技術書を読んでから6年という時間が過ぎた。


 10歳になったニテはこの世界における知識をかなり習得していてそのルールに従って生活していた。


 前世の知識を少しでも活用してみようと技術書を読み確認をしてたがこの世界は階級社会でありながら魔法という祝福という概念の影響で科学の使用が馬鹿になるものであった。理由としては狩りなどにもマナを込めた攻撃ではないとこの世界の生物を狩ることはできず、水を汲むのも何もかもが魔法道具により便利に使えていたため知識の活用どころは見つからなかった。


 魔法は聖人族が主に使えて堕落人族の中で魔法が使える人は貴族の執事やメイドになったり探索者になることが多い。




 聖人族は堕落人族に対して上から目線ではあるが彼らがいないと労働力が足りないことをよく知っていて魔法で祝福を与えたり、平民の生活が楽になるように管理はしていると、生産においての労働力は馬鹿にならないことだろう。


 ニテも科学原理を利用したものを作り出すとか考えはしてたが、魔法によりもっと便利な道具が既に作られていて自分の前世の知識を活用することはできなかった。




 第4城郭城下町に来てからも兵士の役に立てそうな火薬によるマスケット銃を考慮したが、この世界の生き物にはマナによる障壁によってマナを込めた攻撃ではないと通用しないということになる。音速以上で発される銃弾にマナを制御し飛ばすことができたら別の話だがそれは王族や貴族にも無理だろう。




 またこの世界においての人間はかなり弱いらしく、第4城郭の外側の森にすみ着いている『ラニー』という一番弱いモンスターによっても死傷者がかなりでている。


 芝生に隠れて住んでいるそのモンスターの見た目は丸く外側は毛でモフモフしそうだがその奥には鉄より硬い皮膚になっている。注意すれば避けることはさほどでもないが、いきなり奇襲してくる習性があって被害者が多いわけだ。




 ニテは毎日のよう4城郭での生活に慣れてゆっくりと司書になるための準備を進めてお小遣いで商人などから購入した本も読みつくしていた。ただ一つ不満があるとしたら父の書斎にある本を読むことを父が許可してくれないため随分不満が溜まっていた。こっそり読もうとしても鍵がかけられている宝石の箱に入っているせいで不可能であった。




「ニテ!おきたなら朝ご飯の準備手伝いに来なさい!」




 そう朝から好奇心による不満に悩んでいると下の階から母ニアウレの呼び声が聞こえてきた。ニテはどうしても理由を教えてくれない父に対しての不満はとりあえず今は心の奥にしまって、部屋をでて母がいる厨房に向かい階段を下りていく。厨房には母が朝食の仕度をしていて朝特有のいい匂いが鼻を刺激していた。




「ニテ、今日は土地の祝福のためパラディン様がくる日でしょ?朝ごはん食べたら父の仕事を手伝いに行きなさい」




「わかりました、お母さん食事後に急いで仕事しに行った父のために弁当の用意したいのですが」




「あらあら、そうだね。お腹すいてるだろうし、ありがとうね、ニテ」




 ニアウレはそう答えながら背が随分伸びたニテの顔を撫でた。ニテが欲しがっていた仲のいい温かい家族はそこにあり、二人は笑顔で食事の仕度を続ける。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 城下町と言ってもほんの少し町が広がっているだけで町の外にでるとほとんど畑や石材で埋められていた。5城郭の完成するための石材があっちこっち集められていて村長となっている父は主に4城郭の外側で農業の仕事をしている。5城郭はほとんど完成に近くなり、後数年で完成するだろう。


 ニテは片手に農業用のつるはしを持ちもう片方には父のための弁当を持っていた。


 5城郭も随分高くなっていて4城郭の外側も少し安全になっているから武器は持たず父がいる畑に向かっていた。


 4城郭からでてからしばらく歩いたか遠くにハラシ平野の畑に座っている父カステトの姿が見えた。


 司書だった頃の姿は薄くなり完全に農家さんになっている感じであった。


 広大な土地を機械もなく育てたり収穫するのはニテにとっては慣れないものでもあって魔法が使えないため収穫は人の手でないといけないが栽培においては人間の手をほとんど使わなくほぼ放置にしていた。


 その理由は土地を定期的に祝福させることで天気や気温による被害がほとんど受けなくなっているからであった。


 ニテが歩いてくる姿を目に入ったのかカステトも立ち上がり手を振ってきた。




「ニテ来てくれたのか」




「急いで出かけたってお腹すいてるでしょ?これ食べてくださいね」




 ニテが持ってきた弁当を渡しながら話した。




「ああ、ありがとう」




「今日来るというパラディン様は毎年のよう『エノック』様ですか?」




「それがね 今回は王国の歴史の中、女性として二人目のパラディンの称号を得た方だとか」




 カステトは否定し答えた。




「女性…ですか?」




「そうだね。驚くのも仕方ないさ、パラディンという聖職者は極度の精神力と努力を必要とする職位…それを女性の身で成し遂げたというのは凄いことだろう」




 ニテは選択されし者がさらに努力までする天才と思っているようだった。世界は広く並ならない努力をする人は天才に勝つとも言われるが、天才がまた努力をすると才能なき者は絶対に勝てないと。




「そう…ですか」




 カステトは続けて語りだす。




「驚くことにまだ10歳しかなってないとな」




 10歳という話にニテは自分の記憶に残っているある少女ではないかと考えカステトに質問する。




「10歳?それはもしかして『エレニア』様では?」




 カステトは自分の考えはニテと違うようで




「エレニア様は皇太子との婚約者で、パラディンを多く輩出したヴァインクラッディ家であっても基礎訓練はさせるが娘を苦痛の訓練までさせてパラディンにはしないはず、読書がお好みだったし、プリーストやビショップになったのではないかな?」




 カステトはエレニアとの接点がなく面前で会話をした機会がなくそう思ったんだろう。




「私は彼女が成し遂げたと思います」




「そうかい」




 エレニアと長くはないが彼女の考え方や会話の仕方、また皇太子の話を嫌がっていた記憶からニテはそう思ったんだろう。皇太子から自由な時間を持てるだろう選択を彼女はしていただとニテはそう思っていた。




 ニテは聖人族に関しても知識が増えていた。聖人族とは主神の加護を受け、堕落人族は受けられない。また聖人族は成人になる日、破壊神ルデスドの影響から完全に開放され高貴な存在となるとのことだった。


 堕落人族は成人になる13歳の夜、夢による破壊神の影響で『7罪の夢』をみて、それに勝てない人はより破壊神の影響を受け堕落してしまうとも学んだ。


 一番当たってはいけない夢は『色欲の夢』らしく、男も女もこの夢に勝てないことが多く夢の後、男は性犯罪を自重できなくなるため必ず逮捕され一生監獄で生活し、女は自分の体を売り出しても色欲を満たそうとすると。




 そう一人で考えてた時、遠くで聞いたことのないラッパの音がした。




「ぶおおおおおん」




 低音の重いラッパの音だった。


 そう音がした後、ハラシ平野の東側の丘から何か小さい人間みたいな集団が走ったり何かに乗ったまま向かってくるのが見えた。


 その姿をカステトとニテはボーっと見てたら隣の畑の方で大声を出す。




小人族ゴブリンだぁ!皆逃げろ!」




 カステトとニテはその声を聴くと急いで4城郭の城門に向かって走り出した。


 しかし、ゴブリンは猪や狼に乗っていてもの凄い速さで迫ってきた。


 5城郭のどこかが薄かったのかそうではなく4城郭の外側のどこかに発見されてなかった洞窟で住んでいたゴブリンなのかわからないが4城郭の城門までは遠く追いつかれる前に逃げられない距離であった。


 騎乗しているゴブリンは人の足では出せない速度で追撃してくると後にニテとカステトそして5人の農民は逃げきれずゴブリン達に囲まれたる。


 7人はお互い背中を任せ仕方なく農機具を持ち戦おうとしていた。皆ニテと同じく完成が間もない5城郭があるため今の外は安全だと油断して誰一人もちゃんとした武器を手にしていないのであった。


 しかし戦力の差は酷く4城郭の人たちも戦闘訓練は受けているがゴブリンの対応は知らず、怯え始めていた。


 近くでみるゴブリンはニテがファンタジーもので見たような姿ではなく小さい人間という表現が正しい見た目であった。ただ汚く目や鼻などの位置が変だったり気持ち悪い見た目をしている。


 ニテは過去に本で読んだ内容ではゴブリンつまりは小人族は堕落人族がさらに堕落し続け奈落の底に落ちた存在という考察を読んだことがありその内容を今理解したのであった。




「ギギギッ!」


「ゴウクア!」




 小人族と言ったもののちゃんとした言語で喋ると思いきや何の言語かもわからない言葉でお互い話し合い始めた。きっとどう殺すかの話しをしているだろうとニテは思ってた。観察していたゴブリン達は歩兵もきてから戦闘の準備ができたか囲めていた範囲を迫ってくると直ぐに戦闘が始まる。




「グアオ!」




 猪や狼に乗ったゴブリン達は攻撃せず歩兵のゴブリンが攻撃してきた。ゴブリンも人間みたく戦闘を楽しむという文化があるだろうと襲い掛かるゴブリンに対応しながらニテはそう思うのであった。襲い掛かるゴブリンに対抗し農民たちは農機具で何とか対応をし人族より小柄のゴブリンを何体か倒すことができた。




「死ぬもんか」


「そうだ!思ったより弱いじゃんこいつら」




 農機具でもゴブリンを倒すことができた若者達が興奮し血が回ってきたのか大声で叫びだした。ニテはそれには賛同せず興奮し油断することは危険であると冷静にいるべきだと思いもっと緊張して相手の動きを観察していた。




 歩兵が11体ほど倒されると猪に乗っていたゴブリンは血が頭に上ったか猪から降りるとゴブリンを弱いと叫んでた青年にあの短い足で出せる速度なのか理解できない速度で襲う。棍棒を持っていたそのゴブリンは鋭い動きをしてマナを込めた棍棒でゴブリンを弱いと言った青年の頭を一瞬で潰した。




「ワ・レ・ワ・レ・ハ・ヨ・ワ・ク・ナ・イ・!」




 棍棒を持ったゴブリンははっきりとそう言うのであった。そのゴブリンはおそらく人間の言葉を理解し使うこともできるようだった。ゴブリンを弱いと言った言葉を理解して歩兵が減らされる姿に力を見せつけたのであろう。


 頭が潰された青年の隣にいた男は怯え判断を誤り逃げ出そうとしたが敵に背中を見せるということはこの狭い戦場では死を意味した。




 残り3人組と2人組になって戦っている農民たちはどんどん体力がなくなり疲れていった。ニテも歩兵3体を相手をしていて父を守りながら戦うということは疲労するものでどんどん疲れがたまっていった。父は司書としての人生とここに来てからも村長として戦いなどを学んだことのない生き方をしていたため単純に農機具を振り回すだけであった。


 7分くらいたったのだろうかやがて攻めに耐えず疲れた農民達を確認したゴブリン達は賭け事をして誰が誰を殺すのかを話しているように見えた。


 そうふざけているゴブリンの頭を拳で殴りニテ達の前に立ったのは棍棒を持ったゴブリンだった。人間より小柄であるにも関わらず他のゴブリンに比べにもならないほどの鋭い動きをするゴブリンだった。




「ニテ、役に立たない私が盾になるから他の皆と一点突破し乗り物から降りているゴブリンを巻いて城門の方に走りなさい。近くまで行けば弓矢の支援があるはずだから行きなさい」




 カステトの声が後ろから聞こえてきた。父を守ろうとして大怪我はしてないがかすり傷が増えて疲れ切っている息子だけは生きて欲しいと役に立たない自分を犠牲しようとそう言うのであった。




「できないよそんなの」




 ニテは前世ではなかった家族の温かさを見捨てられないと父がここで死ぬということは望んでなくどうにかする方法がないか頭を回してみても答えはでてこないものだった。疲れる人の体は思考も乱すもので勇気も消え絶望に満ち始めると、この世界の悪神である破壊神ルデスドの影響がより増す感じがするのであった。


 そう絶望していると、どこからか銀色のメイスが飛んできてニテの目の前に立っていた棍棒のゴブリンの頭が潰すのであった。

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