第4話 聖人族の少女

 巨大な図書館に入ると案内役に見える若い司書の男がカステトに話かけてきた。彼は白のベースに濃ゆい茶色の線が入っている長いローブを着ていて司書の帽子は服の茶色がベースになっていて、王国図書館を象徴する猛禽類の鳥が本を爪で握っている金の紋章が入っているバッジをつけられていた。司書の服を着ている彼は随分と落ち着いている容姿をしていて、若干黒に近い茶髪はよいアクセントになっていた。


「カステトさんおはようございます。昨日話あった手続きと息子さんの図書館案内を担当させていただきます」


 若い男の司書は自分の仕事に充実している様子だった。カステトは親しみを感じているが冷静に答え始める。


「ありがとうございます司書さん。退職における手続きと私物の引き取り、図書館案内の件よろしくお願い致します」


 堅苦しい返答に男の司書は苦い笑顔で喋ってきた。仲間であったカステトのその距離を取るような話し方によるものだろう。

間じゃないですか」


「カステトさん、そう固くならなくてもいいですよ。私達は仲

 彼は司書ではなくなったカステトをまだ仲間だとそういってくれるものであったが、カステトはその言葉に小さい声で囁いき話し始める。


「俺とそう親しくするのはよしておけ、君の立場も危うくなるぞ!」


 カステトは男の司書の立場を考え親しくないふりをして行動しているのだろう。カステトのその言葉に司書は一瞬残念という顔を見せたがすぐにも冷静になり案内役の仕事を始めた。


「わかりましたカステトさん、今日は私ポリンスが予約された通り案内役を務めさせてもらいます」


 ポリンスと名乗った司書は残念な気持ちは置いとき、仕事に集中するとカステトとその息子ニテの案内に入った。


「それではカステトさんを事務室まで案内した後、その間図書館案内することにしてもよろしいでしょうか?」


「はい、それでよろしくお願いします」


 退職手続きと私物の件についてはカステトは事務所へ向かわないといけなく時間もかなり消費するのでその間ポリンスがニテの相手をすることとなった。

 事務室はそんなに遠く場所にいるわけではなく3人は後に司書が沢山働いている案内デスクの奥側に着きカステトを事務室まで案内したポリンスはニテの手を繋ぎ図書館の案内を始める。

 子供が一人で広い図書館で迷子になると大変だろうと考えたポリンスなりの当たり前の行動だろう。



 朝早い時間の図書館には司書以外の人はほとんどいなくもの凄く静かな雰囲気だった。本棚に本を戻したり色々司書としての仕事をこなしている彼らも行動一つ一つに注意して図書館の雰囲気を崩さないようにしているようだった。

 ニテがそう感想している後に二人はニテが要望した技術に関連する本棚の区域に向かっているのであった。

 ニテは地球での知識が活用できることを知りたくポリンスに技術本の要望を出していた。前世の知識つまりは科学的に有効な物を技術者として持てるのなら司書になるための資金にも役に立つはずだと、もしくは司書にならなくても国家で管理する技術者を狙えると左遷になるが1城郭の内側に入ることができるとそう思ったのだろう。

 何も喋らず黙々とポリンスの手を握ったまま歩く姿にポリンスは父と離れ広い場所で初めて見る人の手だけを頼るのは怖いのかと思ったのか少し笑い技術書区域に入ってからニテに話しかけてくる。


「ニテ君は司書になることが目標と聞いたけど図書館の難しい本はもう理解できるのかな?」


 ポリンスは普通の4歳児に向かっての対応をし始めた。彼にとってそれは当たり前な対応だろう。


「難しい単語はまだ読めなかったり理解できなかったり全部とは言えない語彙力でありますけど、王国に関しているある程度の資料には目を通しているつもりなので完全とは言えませんが大体の本は理解できると思いますよ。御心配ならずとも大丈夫とは思いますが、もしわからない物がありましたらその時にはポリンスさんにお願いしてもよろしいでしょうか?」


 ニテの子供らしくない返答にポリンスは驚いた顔をした。意見を話せるようになっている子供は無論いるが、丁寧に聞く側を尊重する話し方に驚くものであった。


「君、面白いね。まるで様を相手しているようだ」


 ニテは図書館の正門で父カステトから聞いた少女の話を思い浮かべながらポリンスに話し始めた。


「ポリンスさん、それはちょっと危険な発言かもですよ?その方は聖人族、私などと比較するのは..」


「これはこれは私がまた!ニテ君が年齢に似合わない喋り方をするからつい!秘密にしてくれるよね?」


 ポリンスはまたやらかしたという顔をし、後に笑いながら答えた。しかしその笑顔は長く持つことはできないものとなる。


の相手をしているみたいですって?


 節度のある可愛いらしき少女の声が本棚の上の方向から聞こえてきた。聞こえてくる声にポリンスの顔は真っ青になりすぐに土下座をし始める。

 ニテはそのまま上を見上げるとそこには正門でみたブロンド髪の少女がいた。その少女は出してくる少女は二人の会話や行動を座って本を読みながら観察しているようだった。少女はドレスやスカートなどの女の子が着るような服装ではなくロココ時代の男性服みたいなコート、ウェストコート、プリーチズでできた赤色が主になる服装をしていた。


「とんでもございません!エレニア様!」


 ポリンスは土下座のまま焦り叫んだ。図書館に響くほどの声に周りの司書たちも一瞬驚くき視線を集めるのであったが本棚上に居た少女が手で指示すると皆自分の仕事に戻るのであった。少女は持っていた本を閉じると誰でも危なっかしいと思うだろう高い本棚の上で両足で立つのであった。


「確かに司書ポリンスの土下座に目もくれず私の観察を優先しているところ普通の堕落人族の子供とは思えないね」


 エレニアは土下座しているポリンスを見てからニテを見てそう話すのであった。しかし彼女はポリンスに対して司書という職をちゃんとつけて話をしていて、これがカステトが言った他の聖人族と違うところだろうとニテは思うのであった。


「王国図書館に来る子供なんて私以外では初めて見るけど、君は?観察はやめて会話にしない?」


 エレニアは階段の形式になっている本棚を下りながらニテに会話を求めてくる。彼女においても彼の存在は興味深いものだろう。


「お初にお目にかかりますエレニア様、私は王国図書館司書を目指しているニテと申します」


 ニテはできるだけ丁寧に長くも短くもない言葉で自分を紹介するのであった。彼の中ではこれは機会かも知れないという期待ももってからの行動であった。


「なるほど、子供らしくない。表現したい単語が分からず有耶無耶する姿は見えないし、丁寧に答えると。君、ただの堕落人族ではないのね。頭が良いとは若干違う何かを感じるわ」


 エレニアは何か見抜けたような答えをするとニテは少し動揺したがその動揺はほんの一瞬であり地球での年月で77年という経験は伊達ではなく冷静になった。

 するとエレニアがまた語り始めた


「やっぱりこの国の聖人族と堕落人族に関しての情報は何か間違っていると私は思うわ、堕落人族は感情の制御があまり得意ではなく7罪にも弱いと書かれそう学んきたけど、私が今までこの目でみて観察し、今現在ここで起こっている現状からも聖人族とあまり変わらないじゃない」


 続けてエレニアが語る。


「口が滑った司書ポリンスはさておき、昨日の騒ぎの中での君の父も自分の感情をちゃんと制御していた、寧ろアデスティア家の跡取り息子さんが感情の制御ができてなかったわ」


 本棚の階段を完全に下りてきたエレニアはポリンスの肩に優しく手を差し出し立つように命じる。ポリンスはその手によって土下座を辞めざるを得なかったが顔は真っ青なままだった。


「聖人族の子供も堕落人族と同じ環境に置かれたら多分優れるとかの才能を咲かせない馬鹿な子も多いはず、静かな図書館を騒がしくくれたあの馬鹿貴族がいい例だね」


 若干背がニテより高いエレニアは彼を見ながら話しするも彼女は彼が昨日の騒ぎの被害者であるカステトの息子だということを推測し理解しているようだった。顎に手を当て何か考える彼女はいきなりその可愛い口から理解できない言葉が空気を振動させ発するのであった。


「君、私の助手になってみない?」


 エレニアはいきなり凄い提案をニテにする。ポリンスも驚き失禁しそうな顔になって口をあけたままアホ面になって話す。


「エ…エレニア様それはどういう?」


「言った通りですよ司書ポリンス、私と同い年の彼が図書館での話相手になってくれたら、彼の父が退職にならないよう私が手を打つという契約さ」


「エレニア様それは無理な話かと…アデスティア家の要請により昨晩皇太子勅令がありました」


 ポリンスはその返答には残念という表情で答えるのであった。

 ポリンスの話を聞いたエレニアの顔色は急に悪くなり、恐怖するよう体が一瞬震えだすのであった。ポリンスは彼女に話すときは頭を下げていたのでその姿を見たのはニテだけであった。


「皇太子か…君は運が悪いね」


 そうニテに言って彼女は続き小さい声で呟く。


「私ほどではないけど…」


 ニテは呟きを聞いたがきっと歴史でもよくある政略結婚などの被害者だろうと考え何も喋らず父の罰に関しても受け入れることにした様子だった。王家との政略結婚となっても子供ではあるが頭の良い彼女においてはその結婚に関して不満なところもあるだろう。そうニテが考えている姿を見たエレニアが少し怒ったよう話をしてきた。あまりにも子供らしくないニテの行動にイラっと来たのであろう。


「君、ここまで聞いても何も喋らないままって可笑しくない?頭の良い子供なら目の前に皇太子の婚約者でありながら王国においてもかなりの権力を持っている私がいるのに父を救い出せる機会をそう簡単に捨てれるはずがないでしょ」


 エレニアは皇太子の話から少し感情が制御できなかったのか早口で話を続けていった。しかしニテは彼女の震えから彼女を利用するのはダメだと、その震えには理由があると自分が関わると彼女も危険になると思い何も話さないのであった。その無口で他の方法を考えるような顔は彼女にとっては変に見えたのだろう。


「まるで今の親が本当の親ではなく君はそれを理解しているようにしか見えない、私でさえ自分の親の問題となると自分を犠牲してまで頑張ろうとするのに、君は感情が死んでいるか、とにかく普通ではない」


 ポリンスは乱れたエレニアの姿を初めてみたのかずっと驚いた顔でぼーっとしていた。エレニアもそれに気づき一瞬で冷静になって話し出した。


「失礼したわ、別に君の性格などを責めようとしたわけではないから、ただ現状を受け入れ次を考え前に進もうとする強い目が羨ましかっただけ」


「私はそれができず政略結婚を受け入れ自分の知識欲だけ満たせばいいと諦めていたから」


 ポリンスは聞いてはいけないものを聞いてしまったようで絶望する顔のまま自分の耳を塞いだ。


「童話ではどの女の子も王子様と繋がりたいというけど、私は違う。頭の悪い男なんてこっちから願い下げだわ」


 そう不満そうに見えるエレニアはニテに話し始めた。


「私も知らない何かを知っているような君なら第11技術区域がお勧めよ」


 気分が悪くなったのか何も答えないニテへ好奇心まで失ったようなエレニアはそうニテに告げた後、他の区域へ歩いて行った。

 その後ろ姿が見えなくなった頃ポリンスは助かったという表情で語り始めた。


「メイドのアデリアは一体どこでさぼっているのよ!いつもいつもエレニア様は神出鬼没で心臓に悪いんだよ!」


 彼の話から推測するにエレニアは図書館に来てからは案内役も付けず自由に行動しているようだった。

 ニテは冷静なままエレニアが言った通り前に進むための知識の方が欲しかったのかポリンスに言い出した。


「ポリンスさん、時間がもったいないです。11区域に案内してください」


 そう冷静に自分が欲しがるものを探そうとするニテをみたポリンスは飽きたという顔になって答える。


「はいはい、この方向だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る