第3話 王国図書館

 整備されている首都オルティアの街並みは地球の中世で見れそうな盛んだ都市の風景が広がっていた。

 数々の5から8階の石造の建物が並んでいて、交差点には必ず緑の公園と花畑があり歩く人も多く時々馬車の移動も見えていた。

 街中には緑も豊かであって道通りにある街路樹より石造の建物と調和しその光景は、見る人の心を響かせるものであった。街路樹の下にいるベンチには朝から老人たちにより満席になっていて彼らは毎日の日課のよう御互い世間話をしているのであった。


 ニテの家族が住んでいる街は堕落人族の中でもかなり上位、つまりは聖人族と何らかの関りを持っている人達が住んでいる街であった。1城郭と2城郭の間に位置しているこの地区は3城郭城下町や4城郭城下町に比べて人は少ない方であったがそれでも沢山の人々が朝の仕事の準備で忙しい。オルティア王国の領土はとても広いのであったが、人口は各城郭都市に集中していて、その理由は外部の化け物に比べ普通の人間は自分の身を守ることすらできなくとても危険であるからだった。

 第2区その中でも王国図書館の司書だった父カステトのおかげで1城郭の正門と近い場所に彼らの家があった。2区域でも1城郭に近いほど個人の住宅が多くなり、外側になるほど多人数が住む共同住宅になっていた。

 ニテも色々と王国の知識を得るため外を出回る際に1城郭の正門を頻繁に見たことはあるが実際に2城郭から1城郭の内側に入ることは初めての経験であった。

 朝の活気で動き出した街の中を親子がしばらく歩くと、二人は1城郭の正門にたどり着いた。

 1城郭は防御重視というより、王国の力を見せつけようとしている、つまりは王家の偉大さを表現している形式の城郭であった。800年前にはきっと防御を重視して築いたはずだが、長い年月の中その意図は穢され王族の威厳を表現するようになったのだろう。巨大な城門は王家を象徴する猛禽類の鳥の絵が描かれその城門は斜めに開かれていた。その城門の近くには銀色の鎧を装着している騎士も多く配置されていた。その騎士達がおそらく通行の確認をとっているようだった。

 通行確認の待機者はニテの目でも数えるほど少なく、資格を持たないと1城郭の内側に入ることができないからであろう。親子は短い並びに待機し、ニテがそう周りを観察していたらそんな長く待たずに彼らの順番になった。

 検問所は3つのゲートがあり各ゲートは少し離れ位置されていて、検問の順番を待っている並びから順番に従って検問所ゲートへ向かうようになっていた。

 順番になりゲートに向かう親子に城門騎士の一人が父カステトに親しく話をかけてくる。


「話は聞きましたよカステトさん、王国図書館で貴方がいなくなると大変になるだろうにあの貴族様は…」


 その言葉を聞いたカステトは騎士の話を途中で切り


「パーレル、よしておきなよ、それ以上言ってはいけない」


 パーレルという名前の騎士は口を手で塞ぎ周りの目を意識してから、自分の仕事を優先に行動しだした。彼は誰も聞いてないことを確認した上でカステトに話す。


「すみません、ありがとうございます。はい、身分証明確認ができました。通行許可です。ところでこの子が前に話してた息子のニテ君ですか?」


 質問をしながらもパーレルはしっかりと自分の仕事をこなし通行証を出してくれた。

 彼の質問にニテが父を見上げると父と目が合いカステトは笑顔でニテを抱き上げパーレルの質問に答えだした。


「そうだとも!家の専門書までもう読んでいる賢い子やぞ!」


 自分の子供の優れさを誇りたくなる親の気持ちはどこの世界でも同じであってそう嬉しく答えたカステトの息子にパーレルは笑顔で質問する。


「今日はお父さんと王国図書館にいくのかい?」


 その質問にニテは父に抱かれたまま答える。


「はい、今日はいつか私が必ず父さんのよう司書となって働くことになる図書館の下見をする嬉しい日です」


 パーレルは少し驚いた顔でカステトに話す。


「ニテ君は自分が司書になるということが以前より厳しくなっていることを知っているのですね?」


 カステトは沈黙で頷く。パーレルもそれ以上は何も話さず、親子を1城郭内に入るよう手で指示し、自分の仕事に戻って行く。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 親子はパーレルの指示通り城門を通過すると豪華な街並みが目に広がり続くようになった。2城郭の街よりも更に綺麗な風景で建物が沢山建っているのではなく、芸術品みたいな貴族の屋敷が街を構成していた。

 歩く人なんて1城郭の中に仕事を持っている堕落人族くらいしかなく、まるで地球での交通システムみたく馬車が規則正しく通行していた。各馬車には紋章があり、おそらく貴族の馬車であろうとニテは考えるのであった。貴族の紋章など一つの知識もない彼はただ知性を持つ人間という生き物はどうしても偉くなってからは自分を象徴する何かをしたがるとそう考えるようであった。

 豪華な1城郭の街を歩きしばらくすると目的地である王国図書館が親子の目に見えてきた。

 図書館の正門には王国の象徴である爪を強調した鷲みたいな、金色の鳥像が飾られていて、大理石なのかわからない凄く丁寧に作られた綺麗な床と柱が印象的な図書館であった。図書館の大きさは地球でも見ることはできない中世のようなものでニテもビールではなくここまで巨大なルネサンス式の建物は初めてみたという顔で思わず声が口から漏れてしまう。


「凄い…」


 ニテの呟く声を聴いたのか父カステトが反応する。


「凄いだろう?ここがオルティアの最古であり最高の王国図書館だ!王国のほぼ全ての知識はここにあると言っても過言ではない」


 カステトは1城郭城門から図書館までしていた複雑な顔を辞め、しっかりとした顔立ちに戻り彼は続いて語りだす。


「俺はここで働いた事に誇りを持っているんだよ、例え首になったとしてもな」


 彼は凛々しい顔で話したが、後に顔色が少し暗くなっていく。きっと二度と息子にいい環境を与えられない自分を責めているのであろう。彼は床に膝をあて、両手をニテの肩にあてると息子の目を優しく見つめながら語る。


「ニテも肝に銘じておきなさい、オルティアでは聖人族である王族や貴族の機嫌を損ねる行為は絶対避けなさい。父さんもね、逆らったりしたわけではない、王国図書館にもない書物に関してここにはいないと申し上げただけ、それでも要求され続けると税金の無駄だという名目でこのような結果になったんだ。皮肉なことに昨日その貴族様の案内役だったのが私だっただけさ」


 なんてわがままなことだろうとニテは思い、父が大きな過ちをし左遷されたと、それでも個人資産を保証してくれたと勘違いしていた思考から生まれた甘い認識を変えるべきだと彼は思うのであった。

 責任者を罰するか書物を用意しろと命令を出すのではなく、だた案内役だった人を罰する、つまりは貴族の気分次第であろうと、ニテはそう認識を変えるようだった。

 そうニテが考えてた時、騎士の鎧紋章が飾られている豪華な馬車がニテ達の前を通って行き、図書館の正門に止まるのであった。

 紋章を目にしたカステトは自分の話は一旦やめ、お辞儀を始める。聖人族の貴族であろうと思ったニテも父に続いて頭を下げた。


 馬車の門が開き、そこからはニテと同い年くらいのブロンドの髪をした少女が現れた。

 短髪の少しウェーブが入った髪は鮮やかなブロンドの色をして遠くで見てもとても可愛らしい少女であるとニテはチラチラと少女を見た感想を一人で考えるようであった。

 少女はメイドに見える自分より少し年上に見える人の手を借りながら馬車から降りすぐ図書館に向かって足を動かした。

 少し距離があったためかニテははっきりと服装はわからなかったが、少女が着るようなスカートやドレスではなくズボンのように見えていた。

 父は少女が図書館に入ったことを確認した後、下げてた頭をあげニテに語り始める。


「王国図書館の、『ヴァインクラッディ公爵家の』様だ。いつもこの時間になると図書館に足を運んでいらっしゃる、とても聡明な方で聖人族とは思えないくらい他人を見下すことはなく、ただ本を読み知識を求める。司書の我々の中では『読書の姫様』とも呼ばれている」


 『読書の姫』、ニテも家の難しい本は勉強しているはずだが同い年くらいの少女は既に王国図書館の難しい本を読み知識を得ている。賢い息子を称える父でもそういうのだ、つまり聖人族とは堕落人族と各が違う存在であろうとニテは思うようだった。父が言ったニテは聖人族に生まれるべきだったかも知れないということはこういうことを示しているのだろう。


 「エレニア様は第一王子、つまりは皇太子『カビル・エラダスケダニア』様の婚約者であり、英才教育も受けていると。ヴァインクラッディ家はかの有名な王国『パラディン』を多く輩出した公爵家でもあって、エレニア様もあの年齢でパラディンの訓練をうけている噂を耳にしたことがあるんだよ。噂であり、本当かは俺にはわからないが、聖人族というのは私達とは違う存在ということだよ」


 ニテはカステトが話したのはやはり聖人族が如何にも自分たちより優れているかを説明するものだと理解した。父の話からでてきた『パラディン』に関しても王国の一番の戦力となる者たちで、『アークビショップ』などの聖職者よりも更にの聖職者ということをニテは本から学んでいた。

 ニテがこの世界にきてから世界の知識を得て数年生活してから疑問に思っていたことが一つある。

 語順が日本語とほぼ同じであるが英語やラテン語だけははっきり混ざっていること、何故かは彼にはまだ分からないが要するに地球で西洋やファンタジーなどに関連することには英語とラテン語が使われていることが多くみられていた。

 おそらく自分みたいなケースの人は過去に存在していて、彼らが地球の言語である英語とラテン語を文化に混ざりだしたと考察しながらパラディンに関してカステトに質問した。


「王国パラディンは具体的にどのような仕事をしているの?」


 ニテが本で読んだ聖職者に関しては聖職者の階級のみだったのでこの国でどのような働きをしているかはまだ知らなかったんだろう。

 カステトは知識を求める息子のきらめく目をみると笑顔で答える。


「王国パラディンは、土地に祝福を与えたり、堕落人族にも祝福を与えたり、戦時には指揮を執ったり、プリーストにもできない治癒奇跡を行使したりで王国においては最重要な存在だよ」


 指揮を執る?戦わない?疑問に満ちたニテはまたカステトに答えを求める。


「戦わないの?」


 説明不足だと気付いたカステトが答え始める。


「パラディンは主神『ヴォリチェド』様に忠誠している聖職者、つまりは神の手でもある彼らは同じ主神の信者たちを直接殺害することは禁じられているんだよ。怪物とはちゃんと戦って国を守っているから心配しなくていいんだよ」


 カステトは優しい声で答えた。

 その返答からニテはこの世界において人族達は同じ主神を信仰していることを理解した様子であった。

 親子の会話の間ヴァインクラッディ家の馬車もどこかに移動して行き、カステトはニテの手を繋ぎ図書館の正門に向かうのであった。

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