1章 オルティア王国
第1話 新たな誕生
真夏の季節、広闊に広がっている平たい緑の土地に自然と不自然に人々が作り出した灰色の城郭でできた都市が築かれていた。その都市はオルティア王国の中心首都であったがその都市は領土の東側に偏った場所にいた。
オルティア王国の首都オルティアその城郭都市は4つの頑丈な円に近い形の城郭で囲まれていて、中心部に行くほど誰がみても上品な人が住んでいるような都市であった。
外側から4城郭、3城郭、2城郭、1城郭と構成されている王国の都市は人々の技術の発展と伴い城郭の規模もより大きくなっていた。
その中心地区である1城郭の内側のヴァインクラッディ公爵家は日が沈み始める夕方になってから家の者だけではなく執事やメイドまで慌ただしい様子が広がっていた。
赤と茶色で飾られていて、本はあまり見えなく本当に仕事だけの机がポンとおいている執務室に緊張しているはずが強がり、処理しなければならない書類に目もくれてない男が足をガタガタしながら座っていた。
薄っぺらな金髪をし、少し老けた青い目色の彼はヴァインクラッディ家の主人であり、どうしても執務室から出て愛している妻の元へ行きたくて何も頭に入らない様子であった。
妻の十年ぶりの妊娠で今日その子供が生まれるかも知れないと報告を受け、彼の様子は見たの通り公爵としての威厳はなくなっているのであった。
「父上、そんなに慌てる必要はないと思いますが」
執務室にあるソファーで座って彼の様子を見ていた金髪で凛々しい顔立ちをしている、また、父と同じ青い目を持っている若い青年がそう自分の父を落ち着かせようと話をかけた。
「慌てるなど、そんな、このレオンが慌てるわけがない!エルニッツお前はこの父がただの出産に慌てていると思っているのか!」
大声で息子に返答するレオンという男は口で発する言葉とガタガタ緊張して動く足の動きと一致していなかった。
成人になってから見たこともない父のそのような行動を理解できないのか、エルニッツは続いて口を開く。
「結果を待つことしかできないので冷静沈着にし、待つのが一番だと言いたいだけです。父上もまた聖騎士パラディンとして名を広めたヴァインクラッディ家の当主ですから今見せてる姿は他人が見ていないといえ、とても公爵としての振る舞いとは思えないのです」
エルニッツという名を持つ青年はそう自分の父に話すのであった。しかし、出産の危険性を理解している彼の父はその言葉に完全に落ち着くようにはならず
「ふむ..成人したばかりのお前には理解できないだろう」
「左様ですか」
貴族でありながら多くのパラディンを輩出したヴァインクラッディ家の長男であるエルニッツは成人になってからと言ってすぐに妻を迎えたわけではなく独り身であった。その理由は聖職者でありながら王国の最高戦力であるパラディンになるために努力する時間がより大事だったからであろう。愛、そしてその愛する人との子が生まれる、また、その生む過程には危険が伴うということを知らない彼にとっては父の行動はとても理解できないものであった。
そう理解できない結果を待つことに苦痛している父の姿を見ているとドアの外側から執事がノックをし、主人に報告する声が聞こえてくる。
「レオン様、偉大なる聖人族が無事に生まれました。エリン様も少し疲れていますが、御無事でございます」
「おぉ!今すぐ向かうとしよ!エルニッツも来なさい」
「はい、わかりました。それで父上はどっちだと思いますか?」
レオンとその息子は席から立ち急いで執務室から出ながら話し合うのであった。
「知らん、ロッティは知っているか?」
執務室から二人の後をついてきている執事がその質問に答える。
「いいえ、私も外で待機してから報告に来たもので..性別がどうかは聞いておりません」
「男の子であったら、パラディン3兄弟と心強いな」
「僕は妹の方がいいと思いますが」
「
「息子だけだと母上が寂しいのではないのでしょうか」
「お前らはそうしてないはずだ、エリンはそんなこと口にしたこともない」
「いや、そうではなく..」
言っている意味を理解しない興奮している父にガッカリしながら、この人が本当に憧れのパラディンの一人だったのか疑問になってしまうエルニッツはこれ以上話すのは今の父には意味のないことだと話す口を閉じるのであった。
後に3人は出産のために用意されていた部屋に着きそのドアをゆっくりと汗まみれの手でレオンが開くと簡素な部屋には赤ちゃんを抱いてとても幸せそうに笑う顔で泣いている、レオンと違い濃ゆいブロンドの髪をもっている妻エリンと5人のメイドの姿が見えた。生まれた赤ちゃんは泣きを辞めていたのか静かに目を丸くして抱かれていたのであった。
「エリン大丈夫か!どこか悪いところはないか?」
「見てくださいレオンとても可愛らしく、青い目に少し私の緑が混ざっている不思議な目色をしています。生まれたばかりの赤ちゃんがここまで綺麗な肌をしていてこんなにも愛おしいのは初めてです。エルニッツとエルキッドとは全然違います」
「どれどれ」
レオンは妻の激賛に期待を抱き、エリンが大切に抱いている生まれた赤ちゃんに近づきその顔を見る。彼女が言ったよう長男と次男の時とは全く違くて羊水によって肌がしわしわするはずの赤ちゃんではなくとても綺麗な肌をした赤ちゃんが彼の目に映るのであった。
「でしょ?この子は将来オルティアで一番美しい美人になるのに違いないのですよ」
「美人?女子なのか?」
「そうですけど」
エルニッツは父のその言葉に苦労した母上に変なことを言わないようにと神に祈るのであった。しかし、彼の心配とは違う反応を父レオンはするのである。
「女子か!これはこれは!ヴァインクラッディ家にもやっと女子が生まれたのか!この子を見ろ!この子綺麗な目をコロコロ動かして私たちを観察しているぞ!泣き声がうるさかったエルニッツとは全く違うな!パパだよー、ほらほら」
エルニッツが想像したのと全然違う反応をする父の姿に彼は有り得ないと、さっきまで娘に否定的だった父はどこに消えてしまったのか、親の気持ちっていうのは全く理解ができないとそんな顔をしていた。
「貴方子の名前はどうするの?」
「そうであった。女子か…エリンには何か言い名前はないか?」
「私が付けてもよろしいので?」
「娘だからな」
「それじゃ…。んーエリンとレオンの聖女として『エレニア』はどうですか?」
「ほー御婆様のように女性パラディンにか、それはいいな」
「いいえ、そういう意味ではなく..貴方この子もパラディンに育てるつもりですか?」
「もちろんだとも!ヴァインクラッディ家の子は皆パラディンにならないとな」
「私は反対です。こんなにも愛おしい子にそんな辛い訓練はさせたくありません」
「違うな、愛おしい子であるこそ自分を守れる力は必要である。名前はエリンが提案したようエレニアと名付ける!」
レオンの父、エリンの母、その二人の間から生まれたエレニアは初めての人生をオルティア王国で始める。
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輪廻、それは生き物が命を落とし、また別の命を得ること
輪廻の輪の中で微生物、植物など命はあるが思考はできないものに生まれた知的生命体は生前の記憶が途切れ、やがて全ての記憶を失うことになる
輪廻の輪は全宇宙に広がっており生物には逆らうことができず、救われることもない
つまり数え切れない生物の中で知的生命体にまた生まれ変わるというのは不可能であり、死後には何も存在しないということになる
日が昇り空気が温まろうとする朝、農村の家から老けた爺さんがでてきた
髭をきっちりと剃り、端正な恰好をした爺さん片手には農業用の小さめのつるはしを持ち、首には紐で繋いでいる、涼しそうな飲み物のボトルがぶらさがっていた
畑の仕事をするため、家からでてきた爺さんは朝日が眩しいと思ったのか空いている左手で目を隠した
太陽は以前より暑くなり、地球温暖化の進みは毎年深刻になり続けていた
人間の欲望は住処の星を自ら破壊していると彼は考えていた
とすると隣の家の窓から男の声が聞こえてき、爺さんはそこにいる男を見上げた
「梶原の爺さん今日もいい天気ですね!」
梶原と呼ばれた爺さんは暑くなっていく朝風を皮膚で感じながら声の主に挨拶を返した
「田中さんおはようございます、そうだね。今日も暑くなりそうだ」
田中という苗字の男もそれに賛成だという表情で返答する
「今年の夏は尋常じゃないですからねー、梶の爺さんも昼前にはちゃんと休むのですよ?心臓にも悪いですからね」
田中が老けた老人の心配をしてくれているようで、そう話しかけると
梶原は平気だという表情で笑い感謝の気持ちを込めて答る
「いつもお世話になってるよ、自分の体の調子は自分が一番わかってるから、疲れたらちゃんと休むわ、それにまだ71歳だし動かないと体が訛ってしまうからね」
田中は安心した表情で答えだす
「そうですか、でも爺さんが倒れたら村の子供たちも悲しみますから水分はちゃんと取ってくださいね」
梶原は若かった頃の知識を用いて村の子供達に色々話してあげることが日常のルーティンになっていることを田中は言ったのだろう
梶原は笑いながらボトルを左手で持ち揺らし畑に向かう足を動かしながら田中に言いだした
「ほらよ、私はちゃんとしているから心配しすぎだって」
そう彼は畑の方向に歩いて行った
2095年世界は梶原が若かった頃に想像していた世界とは程遠く、地球の技術もあまり発展せず人間は限界に立ち止まっていた
紛争地域は相変わらず戦争で騒がしく、平和な地球はどこにもなく人間の欲望のまま地球は汚れて生き苦しくなっていくだけ
地球の環境は疲弊し、資源も枯渇、人間という種族は自ら滅びの道へ進んでいるようにもみえた
歳を重ねっていくたびに『人間は正しかったのか?』という質問の答えが彼の若かった頃に比べ随分変わることになったのだろう
地球に住んでいる人間という生き物は、表では地球を大切にするべきだと大騒ぎするが、裏の顔では欲望に満ち、平然と他の生き物との共存を切り捨て、破壊している
人類はこのままだと滅ぶと老けた老人は何の変哲もない答えを考えながら畑に向かっていた
向かっていたはずだった
しかし、彼の周りの風景が何も見えなくなり、全てが暗くなって息をしているかどうか、どのような状態なのかわからなくなった
ただ暗い場所の外側から聞いたことのない言語が聞こえてくるだけだった
しばらく会話のパターンを聞いてみると、語順および話し方により、文法的には日本語と似た形式の言語のような気がするが、彼には理解できないものであった。
彼は体も動けない、鼻で息をしているかもわからない状態のまま外側の声に耳を澄ませるだけだった。
彼はここが死後の世界ではないかと思いきや、彼がいる暗い場所は揺れることが多く、また狭くなったり、動こうとしても何か滑らかな物に足が塞がれるだけであった
いきなり彼の頭に浮かんだのは「これはもしや私は今、ある生物の子宮の中にいるのではないか?」という疑問と一緒に理解が追い付き始めた。
恐らく、ある生命体の子宮の中にいる赤ちゃんになったと彼は仮定し、考えてみても、まだ脳が小さいはずで、その発達していない脳で思考ができるわけがないと思ったが、それでも彼は思考ができるということに感謝をしていた。
地球での言語でも日本語と語順が似ている言語は数少なく、彼が聞いたことのない言語ということは、もし人間に生まれ変わることになったとしてもアフリカやあまり発展していない国であろうと思いつつ、村の子供達を思い浮かべ少し悲しくなっていた。
71歳の夏、幼い頃から心臓が弱かった一人暮らしの彼は畑に向かう途中、熱中症で気絶し、心停止がきて何の苦痛もなく死に、命を落としたはずだった。
しかし彼は暗黒で包まれている場所にいるようで、その場にいると認識してからどれくらいの時間が過ぎたのだろう、暗い空間はどんどん広くなっていき、少しだけなら体を動かすことができるような感覚を彼は感じることができた。
外から聞こえてくる言葉も長い間、聴きなれたか少しだけなら会話の流れを理解することができていて、単語に関しては物体を目にしてないため推測するくらいしかできてなかった。
何らかの生命体の子宮の中にいると推測している彼は、理性はあるが、食べることもできず、喋ることもできず、欲求を解消することができないまま長い長い時間が過ぎていった
そう彼が考えていた頃、普段とは違う現象が起き始め、彼がいる場所が収縮したり拡張したり動き始めた。
外側の声も騒がしくなっていき、彼は出産の過程だということを理解した。
数時間が経過しただろうか、やがて子宮の収縮が激しくなり、彼の体が押されて子宮から追い出される感覚が激しくなっていった。
またそこから数時間後、頭が出され外の空気に触れる感覚がした後、順調に体も秋の涼しい空気に触れる感覚がした。
彼は数時間の収縮に身体的にも精神的にも辛い状況であったが、目を覚めどんな生物なのかを確認したかったが、暗い世界からの眩しい外はとても辛く、目を閉じていても眩しく、眼球が凄く敏感になりそのまま声がでてしまった
しかし、舌もちゃんと動かず新生児の泣き声しかでてこなく、その声は部屋を埋め尽くした。
「おんぎゃあぁぁぁぁぎゃあぁぁぁぁ!」
彼は心身ともに疲れそう叫ぶことしかできず、何も見えず、何かを喋っている声もボヤっとして聞こえるだけであった
「奥さん男の子です!おめでとうございます!」
産まれた赤ちゃんを受け取った医者のそう叫ぶ声が響く。
丁寧に抱いて母に見せてくれるその姿と、疲れているにも関わらず、幸せそうに笑っていて、自身が産んだ赤ちゃんを受け取る母の顔がその場にはあった
産まれた赤ちゃんは泣きを繰り返していたら、小さい体では耐えられることができない出産の疲労でそのまま眠ってしまった。
眠ってしまった赤ちゃんに向かって母の肩に手をのせていた嬉しい涙で顔が濡れている父に見える人物が話しだした。
「健康に生まれてくれてありがとう、あなたはカステトとニアウレの息子『ニテ』だよ!」
カステトという父、ニアウレという母の間で産まれたニテは自身が経験してきた世界とは全く違う常識とルールの中、新たな世界で人生を始める。
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この年、新たに誕生した前世を持たない彼女と前世を持ちその記憶も持っている彼の物語が今始まるのである。
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