第16話
サリーが手配してくれたメイドは早速今日の午後に離宮に来てくれるらしい。私に仕えるなんて心底嫌でしょうけど、魔女から解放された私は、従者をいじめ抜いたりしないから安心してほしい。
奴隷たちは結局4人のうち3人が残って、庭の整備や離宮内の掃除をしてくれることになった。夜な夜な私に遊ばれていた筈なのに残ってくれるなんて、魔女は案外奴隷たちに優しく接してたのかな?ーーいや、そんなわけないか。きっと嫌な思いをしていたに違いない。それでも生きていく方法が他にないから、ここに残ったのね。
ろくなことにお金を使わなかった魔女には、自由に使えるお金は殆どない。とはいえ、何故かドレスなどは買わせてもらえていた。
魔女が散々買い込んだ宝石も沢山あるし、宝石や要らないドレスを売れば、元奴隷たちのお給料なんていくらでも払えるわよね。
バートン卿を追い返した後、私は庭園に移動して暫く放心状態になっていた。テッドやレオンは私がバートン卿と何を話してこんなにも落ち込んでいるのか気になっているみたいだったけど、私とバートン卿の関係なんて誰にも話せない。
あまりにもショックすぎて厳しい態度を取ってしまったけど、バートン卿だって好きでこんなことしてたわけじゃない。実際魔女を殺そうとしていたわけだし、魔女を憎んでいた筈だ。
殺したいほど憎んでる相手に対して理性を失ってしまうなんて‥どれほどの屈辱なんだろう。
魔女のことだから、そのバートン卿の苦しみも含めて楽しんでいそう‥。
「はぁ‥。とはいえ‥やっぱりショック‥」
レオンや元奴隷たちと夜な夜な交わっていたというだけでも実際相当ショックなのに。
ーー処女に戻してくれたとはいえ、相手には覚えられているわけで。自分の知らないところで自分ですら知らない姿を見られていて、それを踏まえた上で相手は今も私に接しているわけで‥。
「‥‥消えたい‥」
魔女への憎しみだけが募る。まぁまた乗っ取られたりしたら堪らないから、もう関わりたくないんだけど‥。
「こ、皇女様、大丈夫ですか?」
少し離れたところにいた筈のレオンがすぐ近くにいた。
ちょうどレオンたちのことを考えていたところだったから、私は気まずさ全開の顔をしてしまった。
「‥‥‥‥レオン、その‥」
「は、はい!なんでしょう!!」
「‥‥レオンは、ミーナと恋仲だったんでしょう‥?」
「え?!え、あ‥‥その、もう過去のことですが‥」
レオンはもう過去と割り切っていることでも、ミーナはまだ苦しみの渦の中にいた。原因は、魔女。
「私がレオンに手を出したせい?」
意識が飛ぶ間際、魔女が扉の前にいたレオンの腕を掴んで、無理矢理部屋の中に招いたところを何回か見ていた。
「へ?!え、いや、それは関係ありません」
レオンは顔をボッと赤くして、顔の前でぶんぶんと手を振った。
「‥‥‥そう」
「‥‥あ、の、ちなみに、その‥皇女様はその時酔われていたのでお忘れになっているのかもしれませんが、わ、わ、私と皇女様はその、決して、一線を越えてはおりません」
レオンが湯気が出そうな顔をしながら、しどろもどろになってそう言った。情けなくも可愛くも見える、困り顔。
「え?そうなの?!」
「は、はい!!」
「‥え?本当‥?じゃあ一体何してたの?」
あの魔女が部屋の中に誘惑したっていうのに、どうして‥?
「‥‥‥‥」
レオンは顔を真っ赤にしたまま、ついには口を開けなくなってしまった。ここまで全力で恥ずかしがられると、私まで恥ずかしくなってくる。
結局口にできないことをしていたのには変わりないわね。
「もういいわ。‥その、今までごめんなさい。もう部屋に呼んだりしないから安心して」
レオンにそう伝えると、レオンはまるで捨てられた犬のように眉を下げて明らかにしょぼくれた。レオンは魔女の何が良くてここまで懐いていたんだろう‥。
勇気をだして尋ねたことで、レオンと最終的な行為まではしていないことは分かったけど‥。レオンの赤面を思えば何かしら淫らなことがあったのだと想像できてしまう。
「‥‥かしこまりました」
「もう下がっていいわよ」
「‥‥‥はい」
レオンには悪いけど、これからは少し壁をつくらせてもらおう。‥魔女と濃い時間を過ごしていた人とは出来るだけ関わりたくないもの。
ーーノエルに関してもそれは同じだけど、ノエルは私が魔女に体を乗っ取られていたことを知っているから、そこは強みなんだよね‥。
満月の夜のことについてバートン卿とやり取りをしなきゃいけないときも、ノエルだったら魔女についての話題が出ても大丈夫だから、私の近くで護衛してもらえるし‥。
本来なら元奴隷の護衛なんて、皇女の近くには置くわけないけど‥。私は孤城に追いやられて放置されている悪女だから、誰もそんなこと気にも留めないはず。
ーーこうして私は、ノエルに護衛をしてもらうことにした。もちろんそれを、騎士たちはよく思わなかった。
元奴隷たちが離宮内で働きだしたことについても、離宮の近くにある騎士団の屯所には報告されていたらしい。ノエルが私の近くで護衛をするということに関しても同じように報告されたみたい。
レオンやテッドからすれば、いくら他国の貴族とはいえノエルの存在を許容することは難しかった。
でも、騎士たちに対してノエルの存在を許可するようにと命令したのは、バートン卿だった。
体を解放された私があえてノエルを近くに置きたいと望んだ理由を、バートン卿はなんとなく察してくれたのかもしれない。
表向きにはノエルの存在は“他国の貴族を離宮で丁寧に保護している”ってことになっているみたいだし、バートン卿が許可をしてしまえばレオン達もその存在を認めるしかなかった。
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