第7話
3度目の今日が来た。残されたリセット回数はあと1回。
ノエルの暴走を止める希望は生まれたけど、今回ノエルを牢から出すのはやめておこうと思う。いくらリセット魔法があったって、時限爆弾同様の危険性があることに変わりはないから。
ーー今日はとりあえず、ミーナをなんとかしなくちゃ。
前回同様に、朝のうちからサリーを部屋に呼び出して、ドレスを着て朝食を食べた。前回はこの後に奴隷たちを解放しに行ったけど、今回は一旦奴隷たちには触れないでおく。
レオンと一緒にいるところをミーナが見たら彼女を刺激をしてしまうかもしれないけど、昼食に毒を入れてくれなければミーナの件は今日解決できないかもしれない。ミーナがいつ私を殺そうとしてくるのか怯え続けるのは避けたいから、コーンスープに毒を入れて貰わないと。
部屋を出ると案の定レオンは目を丸くして、私の後をついてきた。図書室でまた数冊本を選ぶ。前回選んだものは選ばずに、まだ読んだことのないものを手に取った。
ーーリセット魔法をうまく使えば、私は人の倍時間を使って知識を増やすことができるってことね‥。でも、死亡フラグしかない今の状況でそんな悠長なこと言ってられないか。
レオンに分厚い本を数冊持ってもらいながら廊下を歩くと、背後から視線を感じた気がした。振り返ると遠くからミーナがこっちを見ていて、私の視線に気付いた途端に彼女は視線を逸らした。
きっと彼女はいま、今日皇女を殺してやるんだという決意に満ち溢れているんだろうな‥。
前回はレオンに『少しでも大きな物音がしたら部屋に入ってきて欲しい』とお願いしていたけど、今回は特に何も言わなかった。
昼食を運んできたミーナにお礼を言って、まじまじとスープを見る。今回も前回とメニューは変わらない。
「ミーナ‥、私、予知夢が見えるんだ」
私がスプーンでスープを掻き回しながらそう話した途端、ミーナの顔は一瞬にして青ざめた。普通は予知夢だなんて悪女の戯言だと聞き流すだろうけど、ミーナは聞き流すことができないようだった。
ーー毒を仕込んだその日に突然そんなことを言われれば、嫌でも信じるしかなくなる筈だ。
それでもまだ私が毒について触れない限り、ミーナは自分から何かを発することができない。カタカタと体を震わせながら、私の言葉を待っていた。
どうか嘘であってくれと心の中で願っているようだけど、青くなって震えている時点で毒入り確定みたいなものでしょ。
「‥‥こ、皇女様‥‥」
「‥あのね、ミーナ。貴女に伝えたいことがあるの」
「‥‥なんでしょうか‥」
「‥‥ミーナのこと、深く傷付けてしまってごめんなさい」
「‥!!!」
ミーナは口をあんぐり開けた。私の口から出た言葉がよほど信じられないみたい。そりゃそうだ。魔女は、道徳心なんてまるで持ち合わせていなかった。
以前スープの味が口に合わなかった魔女は、そのスープをミーナに投げ付けた。熱々のスープを浴びたミーナは「あぁっ!」と叫んでスープ皿をぶつけられた頬を押さえていた。
そんなミーナの様子を見て、魔女はあろうことか心から楽しそうに「ははっ、変な声ね」と、笑ったのだ。
ミーナだけに関わらず、沢山の人たちを信じられないほどに傷付けてきた。誰かを傷付ける度に、魔女はうっとりと笑っていたのだ。
私がやったことじゃないけど、でも、魔女は間違いなく私として生きてきたから‥。
「‥‥‥謝って許されるようなことじゃないけど、謝らせて欲しくて」
ミーナは口をぱくぱくと動かして、それから息を大きく吸った。もしかしたら前回みたいに『申し訳ありません!』と大きな声で謝るのかもしれない。
私は「静かにっ!」とミーナを止めた。
「ひっ」
「しーっ!大きい声を出すとレオンが来ちゃうかもよ」
「‥っ!!」
「ミーナが私を恨む気持ちはもちろん理解できるから、私は穏便に済ませたいの。‥これ、紹介状よ。悪いことは書いてないから。私の紹介状なんて信頼されないかもしれないけど、貴女だってもうここにはいたくないでしょ」
「し‥しかし、私は‥その、決して許されない大罪を‥!」
私はスープ皿をひっくり返した。床に毒入りのコーンスープが広がっていく。
「‥‥大罪?ミーナ、貴女何かしたかしら?私は嫌な夢を見たから、コーンスープを飲まないだけよ」
そう言うと、ミーナはヘタリとその場に座り込み、ごめんなさいと何度も繰り返しながら、ぽろぽろと涙を流した。
これで、ミーナの件はうまく収まったかな‥。
予知夢を信じているミーナは、きっともう私を殺そうとも思わないだろうし‥。メイドが減ってしまうことでサリー達の負担は一時的に増えてしまうかもしれないけど。
ミーナもレオンに見放されたことに絶望して自殺することもないし、奴隷達を解放していないからノエルが皆殺しをすることもない。
今日はこのまま、何事もありませんように‥‥!!
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