珪素族系異能ツチミカドが挑みし、陸上自衛隊施設科の下剋上史
十夜永ソフィア零
序 土煙のバディ
琵琶湖の北方、若狭湾へと至る渓谷の低地。普段は湿地に近いその地は、天上からの日輪に3日間さらされたことで、乾燥している。
突如の爆砕音と共に、大きな土煙が立つ。
しかし、土煙はまもなく消えていく。
その土煙の動きに、彼は満足した。
☆
「いや、お前とバディを組ませていただいたおかげで楽させてもらって、身体がなまりそうだわ」
そう言う安岡の身体はなまっているようには見えないが。
「さて、昼食の時間だぞ」
安岡は形式上の上官として、和希に食事の時間を伝える。
☆
施設科のテントへと戻り、防塵マスクを外した二人は、一礼してから糧食をもりもりと食べる。
「まぁ、業務の進捗の方は夕刻にまとめるとして、だな。ちょっと聞いてくれ」
安岡は、以前の気安い兄貴分の口調に戻って和希に話しかける。
「昨晩公開されたジミカでな、ついに、友利聖女長の巫女姫姿を拝むことができたぞ。眼福、眼福」
口をもしゃもしゃさせつつ、地域情報誌ジミカに登場した巫女姫様に安岡は手を合わせる。
安岡は施設科隊員内の友利ファンクラブの筆頭格である。ファンクラブ会員が聖女長と尊称する
宮古島市の非常事態の現況において、ミカ校生は文字通りの意味で学徒動員されている。近時は、物資調達、兵站確保の支援の命に当たるミカ校生たちの現場指揮の任に、当たっている。
「まぁ、自衛官としては、聖女長様の制服姿も、こうグゥ~っとくるんだけどな」
と、安岡は両の手でグゥ~っと握りこぶしを作る
現場指揮の任の命にあたり、
後方支援を任とする宮古島駐屯地の施設科の隊員たちは、任務において、
安岡たち独身の隊員たちは華のある彼女たちをどうしても見てしまう。
年配の隊員たちも、若いのに立派な現場指揮ではないかと、感心の目を向ける。施設科の友利ファンクラブは多いに盛り上がっている。
少し遅れて食べ終えた和希を見ながら、安岡はひとりごとのように呟いた。
「でも、巫女姫様の命を受けるっていうのは、帝国への
それから、安岡は謝るように付け加えた。
「すまんな、お前を前に巫女姫のことで愚痴っちゃいけないな」
和希はひと呼吸おいて、
「いいえ、構わないです。直になんとかしますから」
と安岡を見つめ返した。
その目に力が宿っていることを見て取った安岡は、
「そうだな、二之巫女姫の
と返し、真顔で、
「俺は生粋の施設科隊員としてお前の後方支援に万全を期す。今やバディだからな」
と続けた。
☆ ☆ ☆
2037年夏に宮古島市全域が、日輪国と呼ばれる異世界の日本に転移してから一年余が過ぎていた。
安岡たち、陸自宮古島駐屯地の隊員は、各方面と協力しつつ、総力を上げて事態への対処に当たっている。しかし、7万人に迫る人々の物資調達は容易なことではなかった。
島外の日輪国は、舗装路もない異世界なのだ。日輪国についての調査結果と、島の厳しい物資・兵站状況とを鑑み、駐屯地司令の嘉納守一佐は、日輪国を従属国として支配するエルメヌーム帝国の統治下に入るという案を承諾した。
すでに、日輪国に住まう人々にも異能を持つものが多いことが判明している。その日輪国を属国の一つとするエルメヌーム帝国がいかなるものかを、駐屯地では全く掴めていなかった。
エルメヌーム帝国の統治下に入った宮古島市は、帝国と日輪国との間の慣行に従い、命に応じ姫か巫女姫を
自衛ミサイル科学校の校長代理を兼任している嘉納一佐は、生徒の中から巫女姫の命を任じる決断をした。
日輪国の慣例に習い、一之巫女姫として当時の生徒会長である
こうして、
まもなく、島から100キロメートルを越えるはず。
それは、宮古島市が、
それでも、和希は決意している。自らの異能を磨き上げ、
そのために、まずは、琵琶湖から若狭湾に至る運河を、作り上げる。今度こそ。
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