第53話 会議8 固唾
「先ほどはすまなかったね、宮田さんたち。深くお詫び申し上げる。この通りだ」
目の前に座った青柳さんは深く頭を下げ、謝罪した。一体全体何が起こっているのかわからない。さっきまで私たちは青柳さんたちに殺されかけたというのに。それに、
「頭を上げてください。許すか許さないかはいったん置いといて、私たちが今どんな状況に置かれているのか教えていただけませんか。あと、なぜあなたと陸人さんがいるのかも理解できません」
信じたくはないけど陸人さんは青柳さんたちの味方だった…?
「何の理由もなく君たちを殺そうとしたわけではないんだ、色々あってね…。陸人君とは和解したんだ。実際僕は君たちと同じように陸人君を殺そうとした。不可能だったけどね」
「不可能だったとは…」
「少しややこしい事情があってな。円谷校長も手を引かざるを得ない状況になったんだ。オレたちは運よく青柳たちに見逃してもらうことができた。おそらく宮田…いやお前たちはこの騒動は国が関連しているものだと考えることができたんじゃないか?」
私たちが三人で話し合った内容を陸人さんに的確に指摘され、内心驚きを隠せなかった。
「え…えぇその通りですわ」
「陸人くん、なんでそのことを…」
涼さんも驚きを隠せないようで、再度確認を求めていた。
「この高校の異変に気付いているなら、簡単に考えることができるだろ。それにオレたちは青柳からの説明を聞かなければならない。この騒動にかかわってしまった以上逃げることはもうできないからな」
「やはり…私たちが立てた推測はかなり正確だったのですね」
涼さんと弓さんは顔を見合わせた。
「どうやら話は短く済みそうだね。僕から君たちに言うことは一つ。このことを一切他言無用にしてほしい。そして君たちに危害を加えることはしないと約束しよう」
そう言って青柳さんは先ほど私たちを殺そうとしていた人とは思えないくらいの誠実な態度を向けてきた。
「そ、そうですわね。このことは誰にも言えるような話ではないですが…それよりも私たちの命が本当に保証されるとは限りませんわよね。あなたのような犯罪者は容易く私たちを殺すことができる」
「犯罪者呼ばわりはきついな…まぁ、そう簡単に分かりました、なんて言うとは思っていなかったからこうして陸人君を連れてきた
「陸人くんがなんでそんなことをするの…?危ないよ…」
心配する涼さんの気持ちはわかる。だけど
「心配するな、涼。ただ監視するだけだ。お互いに干渉し合わないと約束したし、何も問題はない」
「で、でも…」
「涼さん、私たちがどう足掻こうと結果は変わらないのですから、ここは陸人さんや青柳さんを信じましょう」
なぜ普通の生徒である陸人さんがこんな危険な役割をすることになったのか納得がいかないし、理解できない。だけどこうする以外の解決法が思いつかない。
「ありがとう、宮田さん。他の二人はどうかな?」
二人も私と同様に腑に落ちないでいるが、コクンっとうなづき、話を承諾した。
「話し合いは以上かな。それじゃあ明日人君たちが危害を加えないように僕から言っておくから安心していつも通りの学校生活を送ってほしい。念のため今日は三人で帰るといいよ」
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まだ店にいる宮田たちと別れ、俺と青柳は並んで商店街の通りまで歩いて行った。
「ここの通りは始めて来たよ」
ところどころシャッターが降ろされてはいるが、明るい雰囲気の雑貨店や食肉店などがあり、それなりに活気づいている。
「宮田たちに言わなくてよかったのか。あのことを」
あたりを見渡して何やら嬉しそうな顔を浮かべる青柳に話しかけた。
「あのことって?」
「近いうちに『防衛作戦』とやらを高等教育高で行われることは知っている。そうなれば宮田たちは人質として捕まることになる。いつも通りの学校生活を送れと言った彼女たちに、後々恨まれるぞ」
「彼女たちに恨まれてもどうもしないさ、意味がないからね。そんなことよりも『防衛作戦』という単語を知っているなら、君はその内容も知ってそうだね。どこからその情報を入手したのか気になるところだけど」
「さぁな。ただの風の噂だ。それよりもお前には聞きたいことが山ほどある。…」
「陸人くんっ!待って!」
背後から大声で名前を呼ばれ、さっと振り向く。
「涼か。宮田たちとは別れたのか?」
「はぁ、はぁ…う、うん!」
リュックサックの肩ひもを落とし、激しく息を吐きながらオレの質問に答えた。
「今日は三人で帰った方がいいと、別れ際に青柳が言ったはずだ」
「…はぁ、はぁ、わ、私…陸人くんと…一緒がいいっ!」
最後の声は大きく、それを聞いた周りの人達の視線がこちらに集中した。
「俺と…?」
自分でもよく分からないくらい変に答えてしまった。
「そうか…。じゃあ僕は邪魔みたいだね。二人とも気をつけて帰るんだよ」
空気を読んだんのか。どこか暗い表情を浮かべながら青柳は早足で去っていった。
____
「涼…」
膝に手をつき、息を整えている涼を見て、なぜこんなことになったのかと少し疑念を抱いた。涼は間違いなくオレを…
「一緒に帰るか、涼。一人じゃ危ないし」
「…うんっ!」
固唾を飲み、これから大きく変わる学校生活を想像しながら、同じ思いを共有する涼と二人並んで歩いて行く。お互い自転車がなく、心の距離も短くなったためか、肩が触れるほどの間を保ちつつ、活気のいい商店街を抜けて見慣れた帰路へと就いていった。
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