第6話 友達
二十分くらいで高校に到着し、自転車から降りて大きな正門をくぐる。
同じ新入生や彼らの保護者も多く見受けられた。
一緒に記念撮影をしたり、ご
きっと幸せな空気が充満しすぎて、そう見えるだけだな
錯覚した目のまま、オレは正門近くにある駐輪場に自転車を停めると
「新入生はこちらの方に向かってください!よろしくお願いします」
新入生案内係の先生に、そのまま小体育館へ行くよう指示されたため、そこへ向かっていく。
式の前、新入生は自分たちのクラスに行くことができず、そのまま小体育館で待機させられることになっていた。そうする理由は主役は遅れて登場するといったものだろうか。
式が行われる大体育館に、
このネタを知ってしまった新入生は、きっと入学式を楽しむことができないだろう。
__________
式が始まるまでの待ち時間、今この場には新入生しかいない。
「加藤さん!私と同じ中学だったよね。これからよろしくね!」
「同じクラスメイト同士仲良くしようぜ!」
周りを見てみれば、あちこちで友達を増やすやつらが見受けられる。
「……今がチャンスだよな」
今日まで勉強してきた友達の作り方をここで生かす時…ここを逃せば、クラスでも孤独になり、その後の学校生活も、きっと
「自信はないが…行くしかないか」
勇気を出して、その流れにオレも乗ったわけだが……
友達をだれ一人作ることができず、初日から失敗に終わる……なんてことはなかった。
まさか、こんなあっさり友達を作れるとは思っていなかった。
上手く会話はできた気はしないが、ほとんどの相手はオレと同じように友達を作りたい一心で行動していたため、こちらとしても好都合だったのである。
しかし、簡単に友達を作れたとはいえど、実際長い間同じ歳のやつと話して来なかったためか、付け焼き刃の知識で、相手の趣味や話に合わせなければならなかったことには一苦労した。
恐らく「こいつ、この日のために頑張って、流行について勉強してきたんだな」みたいに思われているだろう。
「陸人はどこ中だった? 部活は何していたんだ?」
オレに一番最初に話しかけてきたのは、同じクラスの
背丈は小さく、150後半あたりだろうか。大きなハンデを抱えているといえ、中学ではバスケ部だったやつだ。
勇気を出して、話しかけようとしたが、結局相手から話しかけれられて、
出身や中学の話などの質問は、必ずされると予想はしていたため、あらかじめ用意していた答えでうまく流す。
「オレ、実は県外から来たんだ。中学の頃は、病気で全然通えなかったから、病院で勉強する毎日だった」
実際にこの高校の願書にもそう書いたし、特に相手に説明するための補足情報は不要だ。
そうしたらなぜだろうか。その話が耳に入った周りのやつらは、話の対象をオレに変えてきて、珍しいものを見つけたみたいに寄ってかかってくる。
「えぇ!どこの県からきたの?」
「どんな病気にかかっていたんだ?」
「看護師は美人だったか?」
最後の質問は訳が分からなかったが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。
病気に同情してくれたり、闘病生活について言及してきたり、次々と質問してくる。同情してくれる彼らには申し訳ないが、病気にかかっていたことは勿論噓だ。
一応、肺炎という設定なのだが、闘病生活についてはどう答えれば……
実際オレは心を病んでいた時期があったが、病気という病気は一切患ったことはないし、
「えっと……」
こんな状況で噓をつきたくないし、中学、ましてや小学校すら通っていない。なんて言ったらどうなることやら。
「悪い。また後で…」
「ちょっ…陸人くん!?」
「どうしたんだ?」
この流れでは、ボロを出してしまうかもしれないと思い、この場から一旦退くことを決め、無難にトイレへ行くことにした。
その後は、クラスの人たちから更に離れた、目立たない壁際のほうへと移動する。
「なんだか想像していた場面とは、程遠いものになってしまったな」
こんなにも身の上話について言及されるとは思わなかったし、都合のいい
何よりこのままの状態じゃ、早々に校長やその刺客たちから目をつけられる。
おまけにオレの苗字は佐渡だ。式でPTA会長を務める銀二と同じ苗字。その関係性に気づいただけで、存在を
とりあえずこの場を乗り切って…
「ねぇ、陸人くん…」
「…ん?」
考え事にふけていたせいか、顔を
確か、ついさっき話していた連中の…
「…たしか成田涼だったよな?よろしく」
ここは彼女のフルネームをおぼろげに覚えている、という感じでいこう。会って数秒の人間を一方的に知っているなど、不審者でしかないからな。
「覚えててくれたんだ!よろしくね!…こんなところでどうかしたの。体調悪い?」
「いや、全然大丈夫だ。それよりオレに何か用か?」
トイレに行って逃げるまで、涼はオレに質問を投げかけながらも、他のやつらにつかまっていたはず。こんなにも早く友達から離れて、ここに来たということは、何かオレに用事でもあるのではないかと思ってしまう。
周りにはほとんど誰もいないし、ほぼ二人きりな状況。敵の狙いかもしれない。
意図せず異様な空気を感じ取ってしまう。
「…あのね。どうしてもききたいことがあるの…」
「その口ぶりからして、余程重要な話っぽいな」
先ほどから予想外のことばかり質問されてきたのだ。決して油断してはいけない。
「野暮なこと聞くけど…陸人くんはさ…本当に人を嫌いになったことがある?」
「え?」
いったい何を言っているんだ。この子は…
そう思わざるを得ないだろう。初対面の人にこの質問は謎すぎるし、重要な話でも何でもない。
…しかし、この子の意図するものとは何なのだろうかと探ってしまう。
本当に人嫌いになったことがある……か
嫌いの度合いにもよるが、普通の人間なら誰しも、そう感じてきたことがあるのではないか。自分の過去を振り返えってみれば、人間不信であるオレには案外的を射た質問だと思えるが、どう考えたって不自然極まりない。
「…なぜオレにそのことを聞くのか、理由を知りたいんだが…」
「…えっとね、少し恥ずかしいんだけど」
涼という女子生徒はオレのことを上目遣いで見てきて、妙な視線を送ってくる。怪しさ満点の彼女からは、
「…陸人くんは、ずっと前の人間嫌いだった私の目によく似ていると思ったの。その時の私は、悪いことばかり考えていて、犯罪とかひどいこともしようかなって…思っていてね。つらかったんだ。こんな話入学式で話すのは場違いだよね!?ごめんね……でも、なぜか陸人くんを見てたら…どうしても伝えたくなって…」
どうやらおかしなことを言っていたと、自覚はしているようだ。だが他人事として捉えてはいけない。そう思ってしまっていた。
…似たような経験をしてきた人には自然とひかれることもあるよな。それは理解できる
彼女は申し訳なさそうにしながらも、こちらの反応をうかがってくる。彼女はオレとは違い、自身の弱さを克服した強者であるため、そこは見習わないといけない。
「いや…話してくれてありがとな。過去の自分の弱さをすぐに相手に言えるやつは早々いないし、お前はすごいやつだ。確かにオレも人を嫌いになったことは、もちろんある。特に大人たちは都合のいいように子供をもてあそんでいる感じとかして、気に食わないと思うことも多々あった。まぁ、今でもそう感じるときあるけどな。涼もそれに近しいものを感じたことあるか?」
「……」
ボーっとこちらを見たまま返答してこない。何かオレもおかしなことを言ってしまったか。
「ん? あぁ、勝手に呼び捨てにしてすまない。馴れ馴れしかったな」
とりあえず自分が発言した中で、非があった部分についての謝罪を試みる。
「えっ…いや!すごくうれしいよ!」
呼び捨ては親近感を感じさせるものと思っていたが、初対面相手にはまずかったか。
「そっかぁ、やっぱり陸人くんも私と同じこと考えてたんだ!…勇気出した
オレが吹っ掛けた話題について、涼にも通じることがあったのか。どんどん話の輪が広がっていく。
入学式が始まるまでの五分間。ほんのわずかだが、お互いの心の痛みを共有できた気がした。
そうか…友達とはただ会話したり、一緒に途方もない時間を過ごすことだけではないのかもしれない
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