第24話 変人
時刻は午後四時。
生徒会室へと足を運び、扉をノックしても反応がなく鍵がかかっていた。
生徒会への入会希望を昨日の放課後に言いに来たのだが半数以上の役員がいなかったため、一応日を改めて来たわけなのだが、またしてもタイミングが悪かったようだ。
二度も失敗したとなると、さすがに学習しないとな。次からはちゃんとアポとって…そういえば誰とも連絡先交換していなかった。
このタスクは別日に片付けるとして、今日やるべきことを少し繰り上げることにし、駐輪場から自分のチャリを引いて、一般利用の駐車場で『彼』が到着するまで待つ。
その間に今日の出来事を振り返り、自己分析する。
分析と言っても『普通の生徒』と思われているか、思われていないかを振り返る時間だ。入学二日目にも関わらず、変に目立ちまくりだったオレには反省すべき点が多すぎる。もはや自己分析ならぬ、一人反省会みたいなものだ。
こういうのは毎日のルーティンみたいになっており、これをするかしないかで、結果は大きく変わってくる。
例えば英語の勉強で英単語をその場で覚える。それからすぐ別なことを考えて頭をリフレッシュさせるか、覚えた単語を頭の中で再度反復させるかで
英単語の記憶の定着率は、当然後者のほうが高い。オレのルーティンも同様なことで、自分の過去を振り返らず、失敗を見出す努力を
一歩でも判断ミスすれば、その最悪な事態につながるであろう平野ツバサ先生の存在が気がかりだ。彼女は一般の教師ではない。今のところそれしかわからない。入学試験のオレの解答について学校関係者、特に校長側の人間に知られるとまずいことを知った上で適切な言動や行動、協力姿勢を示した。
彼女が校長側の人間か、それとも味方なのかを早々に調べ上げる必要がある。
多少こういう状況に陥るかもしれないと予測していただけに、焦りはないが具体的な対抗策を講じていたわけでもない。
今はただ冷静に状況を分析し、彼女の正体について推測することが賢明だ。
__________
そうこうしているうちに『彼』がようやく来た。
「りくとぉ~!!」
端から見て荒い運転技術をかましては、いきなり停車し、駐車線から大きくはみ出した、下手くそな駐車を見せる。
オレの目の前で車の窓を開けては、不満に満ち溢れた顔を覗かした。
「まったくぅ〜ん!迎えの予定時刻は午後七時なはずだが、急な呼び出しとは何だね!?私はとても忙しいのだぞぉ」
「久しぶりだなジーニ。こうして対面するのは何年ぶりだろうな…相変わらず
「うっさいわ!陸人、お前は図体がでかくなっただけで相変わらず口の利き方がなってないな。ふんっ、久々とはいえ感動の再開とか期待していたか。だぁが、それは残念!それは取り越し苦労なこったぁ!
ジーニアスである私はお前のような奴に仕方なく協力してあげているだけで、友達感覚として接しているわけでぇはないのだぁ!ふっくくははは!」
「USA」と書かれたTシャツの上に白衣、口が減らないところや気持ち悪い独特な笑い声、自意識過剰なところが目立つこいつはジーニ。ただの変人科学者だ。ジーニとはジーニアスと口うるさくいっているので、ジーニアスを略して周りから呼ばれているあだ名だ。
ちなみに本名は
「そうか…どうやらその様子だと、今でも友達と呼べる仲を築いていなさそうだな」
「ふんっくくくく、はははははは!…ジーニアスである私に友は不要!
「…悪いが声量を下げろ。ここは高校だ。目立つ行動は
「かっ…」
自慢の名言を否定され、一瞬出鼻をくじかれたような表情になる。その後のフォローは一切入れず、ここで立ち話するのもなんだと思い、後ろの荷台へチャリを乗せ、勝手に車の助手席に乗り込ませてもらうことに。この男に対する扱いが雑なのではとそう思われても仕方ないが、実際こいつと話せば分かる。面倒くさいやつだと。
「ずかずかと我が神造兵器内に足を踏み入れるとはっ、今回は特別に見逃してやるが…それはさておき、迎えの予定時刻は午後七時ジャスト!…のはずだがぁ…この私を緊急の呼び出しで足を運ばせるとは、それ相応の理由があるのではないかぁ…待て待て、言うな…当てて見せよう……」
「特に理由はない」
間髪入れず、ジーニが当てにいこうとしていたその理由を言う。
「噓をつけぇい!本当にホントぉーに少しだが、お前はこの私が評価している人間だぁ…何の考えを持たないで行動するなどあってはならん!」
どうやらこの男の頭の中は、常人よりも快適なつくりになっているらしいな。
「…本当にないんだが」
「…はっ、また私は試されているようだ…あの時の
「ない」
ここまで否定され続けると、流石に芯が折れるだろう。
「…なに、理由もなくこの私は呼び出されたと?」
すぐさま表情が真面目になり、ようやくまともに話を聞いてもらえそうな流れになる。ほんとにこいつとのやり取りは面倒だ。
「本来なら生徒会のところへ行く予定だったんだが、その予定がつぶれた。だから早めにお前の研究所に行くようにした。以上だが?」
「なにいぃ~!?」
何かしら理由を言わないといけない空気で、本人がそれをご所望だと顔で訴えてきたのにも関わらず、分けがわからないことに、オレの胸ぐらをつかんでくる。
一瞬手を振り払おうとしたが、すきあればいつでも対処できるので様子見することにする。
「そんな、そぉんなことで!呼び出しだぁ!? なんだ、この私を
みたいにお前は飼い主、私は犬の関係か…否!その関係性は逆でならなくちゃぁいけない!今度そんな軽率な行動した場合この私の正義の鉄拳を下してやる!っくくくくくくはははははは!」
訳の分らん例えを出したり、意味不明に笑い出すのは、いい加減やめてほしい。
言いたいだけ言って満足したのか、ジーニは胸ぐらをつかんだ手をあっさりと離す。
めんどい…
「はいはい、じゃあ早く向かってくれ。時間が惜しい」
「命令するな!全くぅ~ん!…行くぞぉ神造兵器ケイリートラックン!…念のため忠告しとくが振り落とされるでないぞぉ?ふんっくくくくっははははは!」
「だから静かにしろ。窓全開だし、ほら見ろ。下校中の生徒がチラチラ見ているんだぞ」
先程から神造兵器と呼称され、ケイリートラックンという名が付けれられたこの車、軽トラに哀れみの感情を抱かざるをえなかった。
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