船着場と入道雲
「おかえり、『めい』!」
【島】の船着場で船から降りてきためいを、あいはいつもにっこり笑顔で迎える。ほうれい線は出ないけど、えくぼがくっきりでる、あいのいっちばん可愛い顔で。だって、あいはいつだって可愛くなきゃ‼︎
「ただいま、あい。いつもアタシのお迎えありがとね」
めいはいつもそうやってあいに柔らかく笑いかけてくれる。あいは、あいに優しくてあいをだ〜いじにしてくれるめいが大好き!
「んーん! 今日もめいは『メイク』、上手だねぇ!」
「ありがと。まーこれ、アタシの特技だし? あいはそのまんまでも可愛いから、羨ましいよ」
あ、もちろんいい意味だよ? と髪が乱れない程度に頭を撫でられて、あいは嬉しくなってへへへって笑った。
「あったりまえだもん! あいは可愛くなってみんなに『愛されたい』の。その為の努力なら惜しまないよ?」
海辺のコンクリートの土手を2人、学校に向かってゆったりと歩く。向こうの入道雲はソフトクリームみたいだ。めいの長くて綺麗な金に近い茶に染められた髪が、太陽に照らされて輝いた。
「今日、【主様】どんな感じ?」
「いつも通りバッチシ可愛いよ、薄めのスクールメイク。メイク初心者にしては上出来じゃん?」
「へぇ〜‼︎ 見たいなぁ‼︎」
「あいも【主様】に今日お呼ばれしたらきっと見れるよ」
アタシは【主様】がメイク直しするまでは呼ばれないだろうからちょっとゆっくりできるな、とめいはうんと背伸びをした。モデルさんみたいにすらりとしためいは、たったそれだけの動作も様になる。
「メイク終わったから、くるにバトンタッチだったんだね」
言いながらあいは、くるの無造作だけど綺麗な黒髪のショートカットを思い出す。くるは、可愛いよりもどっちかっていうとかっこいい、が似合う子だ。『クールな女の子』だから『くる』。可愛いぬいぐるみとか、パフェとかが好きで、でもそれを「キャラじゃないから」なんて言って隠したりしないで大好きだって言うところなんて、特にかっこいいなと思う。隠されちゃうのは、悲しいからあいは嫌い。
あいも、くるとおんなじで可愛いの好きだけど、かっこいいのもどっちも好きだから、くるのことも好き。何より くるはよくあいのこと可愛いって言ってくれる。とっても嬉しいの。あい、『愛され』なきゃ死んじゃうから。
「そそ。学校にいる間は基本あの子とあいが適任っしょ?」
めいがそう言った時、遠くの方でぼー、ぼーと短めに2回、汽笛の音がした。
「あ、これ、あいを呼んでるやつだ!」
「くるが呼ばれたすぐ後にあいを呼んだってことは、今日もあいとくる、2人でお仕事だね」
「うん、そうみたい!」
いってらっしゃい、と言うめいに、いってきます! と大きな声で返して踵を返す。
【主様】に必要とされているのが嬉しくって、あいは地面を蹴った。
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