第17話 履きなさいよ、毛糸のパンツ! モガれない為にも!
「あなたをこんな目に合わせたのは、空白の魔女ね」
「はい……」
ブラッディレイクの魔女が、まだベッドの上で警戒を解かないリンに問いかける。
リンはシーツを両手でつかみ、それをタートルネックの首元まで引き上げていた。
その薄い布地で少しでも自分を守ろうとしているようだ。
「空白の魔女……」
その名を口にしたティナのパオパオを抱きしめる手に力が入る。
「そうよ、ティナ。間違いなく、あの魔女にもがれたのね」
「……じゃあ、リンちゃんも珍獣いるんだよね! 見せて見せて!」
一瞬暗い顔をしかけたティナが、努めて明るくリンに笑顔を向ける。
ティナの腕の中で、少々わざとらしげにパオパオが左右に揺れた。
「へっ……ウチ!? ウチの使い魔? その……」
「なぁに? リンちゃん?」
「ウチの使い魔……とっても恥ずかしがり屋さんで……」
リンがシーツの向こうで内股をもじもじと動かす。
「リンちゃんそっくりだね」
「うん……いつも頭を隠して隠れてるの……その……こっちからおいでおいでしてあげないと、顔も出してくれないの……」
「へぇ。それもリンちゃんと一緒だね」
「ずっと頭が隠れててもいいって、皆言ってくれるけど……でもいい子なの! いざ本番って時には、勇気を出して顔を出してくれるの! ウチの為に……」
「へぇ、見せて! リンちゃんの珍獣見たい!」
「は、恥ずかしい……無理です……」
「残念」
「ふふん。私はもう見たわ!」
「へっ? いつの間に……」
「ごめんね! リンちゃん、勝手に! お師匠様には後できつく言っておくから!」
「リンさん。あなたひょっとして、アマゾネス連合王国の男の娘?」
ティナが軽蔑に横目で見てきたせいか、魔女が唐突に話題を変える。
「はい……かなり北の方ですけど……」
「そうなんだ! ボクもそうだよ! ボクは西の方!」
同郷だというリンの返答にティナが目を輝かせる。
リンの怯えた様子を気にかけることもなくベッドに腰掛けその身を近づけた。
その腕に抱いたパオパオとともに、鼻先までその笑顔を近づける。
「それで、そのセーターなのね?」
「はい……これは父様が編んでくれた、手編みのセーターなんです……」
「そう……お父様の魔力と思いが、あなたを守るセーターになっているのね。私の魔力も通じなかったわ。すごいセーターね!」
「そんな! ブブブ……ブラッディ……レイクの魔女様の魔力に比べたら……」
「謙遜しなくっていいわよ! 何より思いがこもってたもの! よっぽど大事にされてるのね、リンさん」
「そうですか……」
魔女の言葉にリンの目元しか見えない顔が赤く染まる。
そしてシーツの向こうで己の上半身を抱きしめた。
いや父からもらったセーターを抱きしめる。
「いいなぁ……リンちゃん……」
「あら、羨ましい? ティナ」
「それはもちろん」
「じゃあ。私も大事な弟子に、一つプレゼントといこうかしら」
「えっ、お師匠様?」
「ティナ。今度編んであげるわね、毛糸のセーター」
ブラッディレイクの魔女が優しい笑みを弟子に向ける。
掛け値なしで相手を思いやる笑みを、その名を聞いただけで時に人を失神させる魔女が浮かべた。
「お師匠様……」
「だけど……このセーターも、あの魔女には通じなくって……」
「まあ、セーターだから。守れるのは、上半身だけだしね」
「お師匠様。それは仕方ないですよ」
「一緒にもらったけど……恥ずかしいから履いてなかった毛糸のパンツ……」
「はい?」
突然出てきた単語にティナの目が点になる。
「あれも履いていれば……モガれることもなかったかも……」
リンが一人思い出しシーツに顔を埋めて泣き出した。
「ティナ。今度編んであげるわね、毛糸のパンツ」
ブラッディレイクの魔女が先と同じだが、どこかわざとらしい笑みで弟子に微笑む。
「要りません!」
「いいじゃない! 履きなさいよ、毛糸のパンツ! モガれない為にも!」
「もうモガれてます!」
「お腹冷えないもの! 夜中にポンポンいたーいっとか言って、起きなくって済むようになるわよ!」
「誰がいつ、そんな子供みたいなこと言ってましたか!?」
「魔女様。ティナ君。よろしければ、領主がお会いしたいと」
魔女と弟子が毛糸のパンツで言い争っているところに、シザーリオが少々暗い顔でドアのところに現れた。
男の娘魔女見習いティナは、モゲたアレで戦い、時に悶絶する! 朝香雪定 @chu
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