第14話 珍獣は……ダメだってば……

「はい。ボク、ティナっていうの。よろしくね」


 一瞬で悶絶させた男の娘の集団に背を向けて、ティナがくるりとリンに振り返る。

 悶絶した男の娘たちは、皆例外なく内股に両手を挟んで河原に転がっていた。

 急所を一撃でやられて倒れている男の娘たちには目立った外傷がなく、ティナの方は手足の柔肌と艶やかな頬に傷が付いていた。


「あ、ありがとうございました…怪我、大丈夫ですか?」


 リンが自分を守って傷だらけになった相手にまずをその具合を気遣う。


「大丈夫。大丈夫。いつものことだから。それより、お名前教えて」

「ウチ、リンっていいます……リン・マーズ・スクエアです……」

「リンちゃんか! リンちゃんって呼ぶね! いいよね! ボクのことは、ティナって呼んでね!」

「えっ? あの……その……」

「それにお礼を言うのは、ボクの方! あの炎から守ってくれてありがとう! リンちゃん!」

「そんな……お礼だなんて……ウチはただこのセーターの力を借りただけのダメダメで……」

「何言ってるの? あそこで飛び出してきた娘が、ダメダメなわけないよ!」

「そうですか……」

「パオッ!」


 ティナの傷だらけの手元で魔法の杖が内から光った。

 魔法の杖が光とともにゾウのぬいぐるみに姿を変える。


「あはは。そうそうパオパオもいるよね! この子も、一緒に助けてくれたんだよ!」


 パオパオがティナとリンの間に自慢げに胸を張って飛んだ。


「ひぃ……つ、使い魔!? 男の娘珍獣!? 嫌ッ! こないでッ!」


 だが突然目の前に現れた珍獣に驚いたリンは、反射的に両の手を前に出して突き飛ばそうとする。


「パオッ……!」


 リンの唐突に突き出された両手にみぞおちを突かれ、パオパオが白眼を剥いて空を仰いだ。


「うっ……」


 それと同時にティナがスカートの前を両手で押さて真っ赤になって息を詰まらせる。


「ティ、ティナ君!?」

「ち、珍獣は……ダメだってば……」

「ティナくーん!」


 ティナは真っ青に顔色を変えると、そのまま横に倒れていく。

 シザーリオがとっさに手を伸ばして支えようとするが、間に合わずにティナの体は河原に崩れていく。


「きゅ、きゅう……」


 真横に倒れこんだティナは、そのまま両手を内股に挟むと悶絶した。


「あっ!? ご、ゴメンなさい……」

「ティナ君! しっかり!」

「ウチ……こんな可愛い娘が、男の娘だったとは思ってなくって……驚いちゃって……」

「いいのよ。ティナなら、いつものことだから。それより、何があったの? 教えてくれるわね?」


 ブラッディレイクの魔女が河原で気を失っている弟子をちらりと見ずにリンに問いかける。


「それは……」

「それは?」

「その……ウチ、恐ろしい魔女に……」

「恐ろしい魔女? そういえば珍獣がいると……まさか?」

「そのまさかでしょうね。ねえ、あなた。怖がらなくていいわ。詳しく教えてもらえるかしら? 力になるわ」

「その名を聞いただけで……皆が失神してしまうような魔女……皆さんを関わり合いには……」

「大丈夫よ。もがれた珍獣がいるってことは、おおよそのことは見当がつくわ」

「でも……」

「ご心配なく。私もちょっとは、名が売れた魔女なのよ」

「どんなに有名な魔女さまでも……」

「ふふん。聞いて驚きなさい。私――ブラッディレイクの魔女なのよ」


 ブラッディレイクの魔女が胸に手をやって己の名を告げると、


「――ッ! ひっ……ブラッディレイクの魔女!」


 リンはその名前を聞いて驚くや一瞬で気を失い、ティナと一緒に仲良く河原に転がった。

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