第11話 可愛くっても、人の珍獣勝手に覗いちゃダメです!

「やあね、ティナ。痛いじゃない」


 スカートの中から強制的に蹴り出されたブラッディレイクの魔女。魔女は一度横向きに転がるが、わざとらしいまでに腰をさすりながら立ち上がる。


「痛いのは、お師匠様の行動です」

「命を救ったお礼よ! 褒美よ! 役得よ!」

「役得って! お師匠様は、自分の欲望に率直すぎます!」

「ティ、ティナ君……ブラッディレイクの魔女様を足蹴にするのは、どうかと……」

「いつものことです、気にしないでください。これぐらいしないと、お師匠様は分からない人ですから。そ、それより……」

「ん?」

「み、見ました? この娘の?」

「何を? あっ!? いや見てない! 見てません! 魔女様の動きが早すぎて、何も見ていません!」

「本当ですか?」


 ティナがすねたように頬を膨らませ、疑いの横目でシザーリオを見る。


「騎士の名誉に懸けて」

「嫌ね、ティナ。素早く潜り込んだわよ。他の誰にも見えてないわよ」

「素早くっても、潜り込んじゃダメですってば!」

「可愛い珍獣がいたわよ。ティナも見たいでしょ?」

「可愛くっても、人の珍獣勝手に覗いちゃダメです!」

「そう? まぁ、議論の余地は後で。あっちのお相手をしないとね」

「あっ!?」


 魔女の言葉にティナが後ろを振り返る。

 胸にぬいぐるみを抱いた少女の一団が、河原に向かって森の中から抜け出してきた。


「ぬいぐるみ? いや、珍獣か!? ティナ君と同じもがれた男の娘!?」

「ええ、シザーリオ様。おそらく空白の魔女の手の者によるものです」

「く……空白の……」

「おやおや。私の名前以上に、その名を口にするのは、はばかられますか?」

「いや、それは……」

「そこの魔女たち! その娘を渡してもらうわ! わたくしやりますわ……待っていて下さい……」

「キャーッ! 何か魔女がいる! どうせ雑魚魔女ね!」

「ままま……魔女! 他所の魔女! うざい!」


 襲い来る男の娘の中から、明確な敵意が向けられた。 


「あら。間違いなく狙いはこの娘ですね。ティナ、私はこの娘を見てるわ。分かってるわね? 相手は空白の魔女の手の者――指ひとつ、触れさせずに倒しなさい」

「……」


 魔女の謎めいた指示にティナが息を一つ飲む。


「大丈夫ね?」

「はい、お師匠様! パオパオ……エレクション……」


 ティナが珍しく小さくつぶやいてパオパオを魔法の杖とした。

 パオパオが内から光を放ち、緑色の宝石がついた長い杖がティナの手元に現れる。

 風属性の魔力があるのか、杖は現れるや河原の砂塵を巻き上げた。


「シザーリオ様もお願いしますね」

「もちろん。この剣にかけて」

「魔女とその弟子って感じね! あなたたち! あのお方の為に、その娘を渡してもらうわ!」


 胸にぬいぐるみを抱えた男の娘の集団が、ぐるりとティナたちの周りを囲んだ。

 皆が上品な上着に長すぎず短すぎずのスカートを履いている。

 髪も長い短いはあるが、どれも手入れが行き届いていた。

 足元の靴下や靴も可愛らしいものが選ばれており、どう見ても一見には少女のようにしか見えない。


「わたくしたち空白の魔女様の男の娘が――」

「――ッ!」


 空白の魔女という単語に、ティナの杖を持つ手に力が入る。


「そこいらの魔女や魔女見習いとは、格が違うというのを見せてあげるわ! エレクション!」


 空白の魔女の男の娘集団の手にも、珍獣が変身した色とりどりの宝石を付けた杖が現れる。

 男の娘の一団が狙いをティナに定めや、それぞれの杖から炎や雷を向かって打ち出した。

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