第4話 そんなに見られると、恥ずかしいです!

「あらあら、この娘ったら。悶絶しておりますわ」


 森の中で急に内股に両手を挟んで気を失ったティナ。その様子をブラッディレイクの魔女は呆れたように見下ろす。


「悶絶!? どういうことですか、魔女様!?」

「しょうがない娘ねぇ。若い騎士様。ひとまずお守りいただけます?」

「それはもちろん――きたっ!」


 シザーリオは魔女に答える間もなく、再び襲いかかってきた魔獣のかぎ爪を剣でうちはらって退けた。

 シザーリオはティナを背中にかばうと、何度も襲いかかってくる魔獣の攻撃を何とか剣で防ぐ。


「シザーリオ様……」


 ようやく意識を取り戻したティナが、その様子を薄眼を開けて見つめた。


「ほら、ティナ。剣では魔獣には分が悪い。起きなさい。途中で折れてる場合じゃないわ。早く立ち直りなさい」

「く……」

「守られることも結構。だけど、あなたは守られるだけの男の娘なの、ティナ?」

「はい、お師匠様……いくよ! パオパオッ!」


 ティナは師匠の言葉によろよろと立ち上がると、最後は今まで以上に気合を入れて魔法の杖を前に突き出した。

 杖の先から出た炎は、シザーリオの頭上をかすめるように飛んで魔獣に襲いかかる。


「――ッ!」


 今度こそワシの魔獣は声にならない声を上げて虚空へと消えていった。


「あの魔獣を!?」

「ああ、一瞬で消し去った!」


 周りの兵士たちが驚きの声を上げる。


「ふふ。さすがはティナ――私の弟子。まあ、及第点ね」


 兵士たちが苦戦した魔獣が一瞬で消える光景に、ブラッディレイクの魔女が満足げに目を細めた。


「よくやったわ、ティナ」

「はい、お師匠様」

「さて。魔獣討伐を任された皆様ですわね――」


 魔女は兵たちに向かって笑顔のまま振り返る。


「私はブラッディレイクの魔女と呼ばれる者。自己紹介は不要――いえ、ご迷惑でしょう。この娘はティナ。ティナ・ナイティンゲール。私の愛弟子。いわゆる男の娘ですわ。出身はアマゾネス連合王国。女性が力強いあの国では、こちらの国の女性のような感性を持って育った男の娘です」


 魔女がティナの両肩の上に両手を優しくおいて愛弟子を紹介する。


「ティナです! 初めまして!」

「パオッ!」


 ティナの手にした魔法の杖がゾウの姿に戻るや、その頬に抱きついてくる。


「あはは。やったね、パオパオ!」


 ティナもパオパオを迎えて抱きしめるや、お互いに頬ずりして喜びをあらわにした。

 動くぬいぐるみとじゃれつく少女。傍目にはそうとしか見えない。


「つまり……それが……ティナ君の……その……男の娘パオパオ……」


 だがその光景に、シザーリオはなぜか人一倍顔を赤くしながら呆然とつぶやく。


「――ッ!」


 シザーリオの言葉にティナがまたも真っ赤になる。

 その感情と連動してパオパオが慌ててティナの後ろに隠れた。

 パオパオはティナの背中に隠れると、今度もその背後を這うように下がっていき、最後は後ろからスカートの中に隠れてしまう。

 ティナのスカートが内から一つ揺れて、その後何事もなかったように沈黙した。


「モガれたとか言っていたな……」

「あの珍獣……外に出てくるときに、ムクムクと大きくなったぞ……」

「それに、ぬいぐるみのような柔らかいものから……固く立派な棒状のもの――杖にも変わった……」

「ああ……しかも攻撃を受けて、悶絶もしていたような……」


 シザーリオを始めとした兵士たちの視線が、示し合わせたように少女のスカートの一点に集まる。

 男の娘魔女見習いティナは内股で半身に腰をひねるや、


「キャッ! そんなに見られると、恥ずかしいです!」


 とても可愛らしい声で慌ててスカートの前を両手で押さえた。

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