第2話 ティナの大事な男の娘パオパオ!

「うわっ!?」


 森の奥。ワシの姿をした魔獣が、革の鎧をまとった兵士の一団に空から襲いかかっている。

 一人の兵士が魔獣に狙われ、慌てて剣で顔をかばった。

 だが、兵士の剣はワシの鉤爪にもろくも砕かれた。

 後がない――周りにいた他の兵士たちが誰もがそう思ったその時、


「待ちなさい! あなたたちの狙いはボクでしょ!?」


 可憐な少女の声が森の向こうから響き渡り、ワシの動きが空中で止まった。

 質素な白シャツに、控えめなスカートに身を包んだ少女が、森の向こうの木の切り株の上に立っていた。

 息が荒い。駆けつけたティナだ。

 ティナは駆けつけた勢いのままに、前方を見渡す為にこの切り株に駆け上っていた。

 ワシの魔獣が、ティナの姿を見つけて振り返る。

 ワシはそのまま上空で身を翻すと、少女に向かって襲いかかった。


「君!? 危ない! 逃げなさい!」

「大丈夫です! パオパオ!」


 ティナがそうこたえると、スカートの裾が勢い良く内側から翻った。

 紳士的な兵士の何人かが、慌ててその後に見えてしまうであろう光景から顔をそらす。

 だが実際兵士たちの目に飛び込んできたのは、一匹のゾウのぬいぐるみだった。


「パオーッ!」


 ティナのスカートを内側から捲り上げ、ゾウのぬいぐるみは勢い良く飛び出してくる。

 ティナの使い魔――パオパオだ。

 パオパオは飛び出てくるやその身を大きくしながら現れた。

 パオパオは飛び出してきた勢いのままに、襲いかかってきたワシの体に体当たりする。


「ス、スカートの中から……ゾウの魔獣が?」

「魔獣じゃないですよ。この子、珍獣なんです」


 ティナが切り株から降りながら、驚きの言葉を漏らす兵士にこたえる。


「ち、珍獣!?」

「そう、ゾウの珍獣! ボクの使い魔――パオパオです!」


 パオパオはワシの体を跳ね返し、空中で一回転するやティナの頭上で浮かんでみせる。


「ティナ君! 一人じゃ危険だ! あっ、隊長!? 皆さん、ご無事でしたか?」


 ティナの背中の向こうに、切り株を飛び越えこちらも息を切らしたシザーリオが姿を現わす。

 シザーリオの方が頭一つ背が高く、その顔は自然とティナの頭上から向こうを見渡した。


「ない。ペッタンコ。お前が『空白の魔女』様の探している者」


 ワシの魔獣がティナの全身を見下ろしながら人の言葉をつぶやいた。


「ペッタンコじゃないもん! モゲてるだけだもん!」


 ティナが先と同じセリフを、今度はワシに向かって真っ赤になって言い返す。


「ティナ君。き、気にすることはない。魔獣の言うことだ。それに……その……年相応と言うか、何と言うか……」


 シザーリオが肩越しの見えるティナの胸元から、あえて視線を空に逃がしてなだめようとする。


「違います、シザーリオ様……モガれたんです……」

「はい!? モガれた? まさか……胸を!?」

「それも、違います……」

「ん? では、どこを……」


 シザーリオの視線がもがれたところを探してティナの全身を上から下へと巡る。


「パオパオは……ボクの――」


 ティナがゾウの珍獣の両脇を下からつかんだ。

 ティナの手はそのまま力なくだらんと下げられる。

 ゾウのパオパオはティナに両手で抱えられ、ちょうどそのスカートの前で垂れ下がる。


「ティナの大事な男の娘パオパオ! 絶対元に戻してみせるから!」


 ティナがそう魔獣に向かってそう宣言すると――


「パッオーン!」


 ティナの股間の前で、ゾウのパオパオが元気良く鼻をもたげて雄叫びをあげた。

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