僕の知らない彼女 多分彼女は僕のことを嫌っているんだ!!
第16話 僕の知らない彼女 ACT 1
「よぉ! 笹崎」
僕を呼び止めたのは担任の
年は……あと30までカウントダウンといったところだ。
見た目はさわやかさ満点。180くらいある身長も女子生徒の間では憧れの先生として、親しまれている。
だが、担任としてはどうだろう?
ま、「俺は放任主義だ。基、生徒の自主性を重んじる。だから好きなようにやれ。以上だ」と2年になってから担任として僕らの前に初めて教壇に立った時の言葉だ。
放任主義、生徒の自主性。言葉はいいが、要は何もしねぇということを、はじめから宣言していたのだろう。
実際、ホームルームでも、点呼と連絡事項を伝えるだけで、特に何もない。
しかし、吹奏楽のことになると、彼は変貌する。
音楽室から聞こえてくる、……楽器の音ではなく、彼の怒号の声。そんな声をよく耳にした。
異常なほどの熱意があるんだろう。
ついていけなくて、やめる部員もいるが、恵美は、1年から今までずっと続いているようだ。
最も、北城先生は僕らと一緒にこの学校に来たといってもいいだろう。僕らが入学した年に赴任してきたのだから。
なんか面倒なことになりそうな予感がした。しかとして逃げるというのも選択肢の中にはあったが、返事をしてしまった。
「なんですか、北城先生」
「お前今時間あるか?」
「ないといったら……でも無理やり作れというんでしょ」
「お、笹崎お前最近わかるようになってきたじゃないか。ちょっとついてこい」そう言ってすたすたと歩きだした。途中自販機で缶コーヒーを買って僕に1本手渡し、階段を駆け上がるように上っていく。
この先は……生徒は、立ち入り禁止になっている屋上へ通じる階段だ。
そこを躊躇せずに上っていく。
僕も何も言わずあとつけ、屋上の入り口の鉄のドアを持っていた鍵で施錠を開けて外に出た。
それに僕も続く。
外周に張り巡らされた金網。飛び込みダイビング防止のためにあるのがよくわかる。
昔そういう事例があったのかどうかはわからないが、2重にも張り巡らされたフェンスは重工過ぎるように見える。
そのフェンスの一角に先生は背をもたり掛け「飲めや」と先に手渡してくれた缶コーヒーを飲むようにすすめた。
「ありがとうございます」と一応例は言っておく。
一口、口に含んだ時。
「なぁ、笹崎。お前、恵美とはもうやったのか?」
がほんがほんっ!
思わずのどにコーヒーをひっかけてしまった。
「やったって、何を?」
「しらばっくれるなこのぉ、もう恵美と一緒に暮らして1か月以上たつんじゃねぇのか。そろそろお互いかなり距離も縮まったんじゃねぇかと思ってな」
「はぁー、先生は、ものすごく楽天的な人ですね。そう言えば僕の知っている人で昔付き合っていた彼氏があまりに楽天的で、デリカシーもなくて、頭に来たから私から別れたって言う人がいますけど、まさか先生じゃないですよね。あまりにもその人物像が似ているように感じるんですけど!」
「はぁ、お前何言ってんだ。俺はド・ノーマルだぞ。これほどまでに自由に相手に接する男はいねぇだろ」
あああ、この人何言ってんだよ。こっちは知ってんだよ。
幸か不幸か、僕が正樹さんのところに行くことになり、学校にも提出しなければいけない書類を律ねぇに確認してもらったとき。
「あちゃぁ―、結城の担任って北城頼斗なの?」
「そうだけど、律ねぇ、北城先生のこと知ってんの?」
「知ってんのって……も、元カレ」
「はぁぁ―――――! 律ねぇ北城先生と付き合っていたの?」
「だね、この人余りにも音楽馬鹿でさぁ、それに自分本位のにがって男だから、こっちから振ってやったわよ」
「あ、なるほど! わかるような気がする。て、俺、担任の元彼女と……」
「まぁ気になさんな。あれは私の唯一の汚点だ。もう私もこの記憶の中からは消し去っているよ」
なんて言ってはいたが、どこかまだ未練がありそうな感じを受けた。
「先生何言ってんですか。僕と三浦の間にそんなことが起きるわけがないじゃないですか。同じ家に住んでいてもほとんど会話もないんですから」
「な、なんだぁ。会話もないってそれどういうことなんんだ? なんかあいつから聞いている話と全然違うんだけど」
「聞いている話って、先生何か言っているんですか? 恵美」
「いやぁ、彼奴からはうまくやっているって聞いていたんだけどなぁ。帰れば毎日、話し込んでいて夜遅くになるし、朝もちゃんと私の分まで朝食作ってくれたりしているからとてもうれしいって」
「はぁ? どこどう変えればそう言う話が生まれてくるんですか? 恵美とは会話もないし、僕が作った朝食は絶対に食べていかない。「フン!」て鼻で透かしてパンとコーヒーだけ飲んで出て言っていますよ」
「うわ、すげぇこの話のギャップ。どっちが本当なのかはわかんねぇけど、まぁ彼奴のことだ。笹崎、お前の方に軍配を上げよう」
「そう言うことで軍配をあげられても空しいだけです」
「ま、そうだよな。あはははははは」
高笑いする先生を見てほんとこの人は大人であって、それでも中身はまだ子供みたいな人なんだと思えた。
「笹崎、お前明日の土曜、何か予定はあるか?」
「なんですかいきなり。部活の勧誘ならお断りしますよ」
「ほぉ―、まだこだわってんのか。お前も恵美と同じみたいなもんか」
「なんですか、それ?」
「俺聞いてんだよお前のこと。中学の時のことをな。それ以上はあんまり触れない方がいいだろ。でも、俺にはわかる。お前も俺となじ世界の人間だっていうことはな」
「な、何を言っているんですか……もう、終わったことです」
「そうか、なら……これ以上はこの話はしねぇ、ただ、明日時間は空けといてくれ。恵美にも関わることだからな」
「わかりました」
僕がそう言うと、先生は僕を屋上から追い出すようにドアの方を指さした。
これ以上の長居も無用だ。そのまま、屋上に通じるドアの前できびすを返すと。
先生は秋めいた空を……ただ見上げていた。
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