第15話 見上げるその先に ACT5

「な、なんだぁ―、せっかく引っ越しの手伝いに来てやったのに」

「あのなぁ孝義、お前な、なんか勘違いしてないか?」

「勘違いってなんだよ」

「引っ越しだぞ、家壊しに来たんじゃねぇからな」


「そうだぞ孝義君。そのヘルメットに何工具片手にほんと笹崎君のお家壊しに来たみたいんじゃない」

「うるせぇ! 戸鞠! 俺にとってもこの家は思い出ぶけぇんだ! 結城と一緒によく遊んでいた家だからな。人の手に渡るんだったらこの俺が一思いに……」


「やめてくれよ。この家はもう買い手がついてんだって。僕はそう連絡受けているんだから」

「でもさぁまさか笹崎君が三浦さんのうちに居候するとは思ってもみなかったわよ」

「あ、それそれ、もうなんか学校の中じゃかなり噂になっているみたいだよ」愛華がぼっそりという。


「えっマジ、まだ夏休み中じゃねぇのか? なのに噂になっているってどういうことなんだよ」

「だってぁ、この前補習で学校に行ったらみんなひそひそ話してんだよ」

「あ、そう言えばそうだったね。なんか嫌な感じだったけど」

ま、覚悟はしていたんだけど、意外と学校に知れ渡るのは早かったということか。


「でもさ、事情はわかったんだけど、何もこのお家手放なくてもよかったんじゃない? 笹崎君が一人で寂し想いをするんだったら、私が一緒に住んじゃってもよかったのに。三浦さんとは気まずいでしょ。その点私だったら何の気まずさもないし、えへへへへへへ、ラブラブ出来るかもしれないのになぁ」


「あのなぁ戸鞠、お前のその妄想、いったんどこかにおいて来てくれないか?」

「えええ、どうしてよぉ! いいじゃん。高校生の二人っきりの同棲生活。あああ、気が付いたら赤ちゃんなんかもいたりして。うふふふ」

「はいはい、そんなことありえないから」

そんなことを言う戸鞠の姿をギっと見つめる孝義の姿を見て。

「孝義、誤解すんなよな」とくぎを刺しといた。


大方の家の荷物は処分出来ていた。あとは僕自身の荷物のみ。

ずっと過ごしてきたこの慣れ浸しんだ部屋とも、もうじき別れを告げる。

引っ越し業者のトラックに荷物がつみこまれ、何もなくなったこの部屋を見た時、何か僕のすべてが今、終わったかのようなそんな気持ちになった。


「終わったな」孝義が僕の方にポンと手を添えて言う。

孝義、戸鞠、杉村。3人とも今日最後に自分の荷物を送ることを連絡したら、駆けつけてくれた。

最も、ほとんど何もすることはなかったんだけど。

でも3人は本当に僕の親友であるんだということを、感じさせてくれた。


「ま、俺たちが手をかせられるのはここまでだ。三浦んちまではいけねぇよ。さすがになぁ」

ま、そうだな。こんなに押しかけて言ったら彼女が怒るかもしれない。

そして孝義は言う。

「結城が今大変なのは、みんなが知っていることだ。だからって何か出来ることもねぇんだけど、まぁ俺たちだったら気兼ねなく何でも言ってくれ」

「うんうん、孝義君もいいこと言うねぇ。そうだよ、笹崎君。私たちはいつでも笹崎君のことを支えていけたらいいと思っている。だから、ホント私達には遠慮は禁物だよ! ねぇ、愛華」

「う、うん。そうだよ」愛華っはやっぱり、こういう時は引っ込んじゃうんだよな。


「ありがとうみんな。こんな状態になちゃったけど、よろしく頼むよ」

そうだ僕ら4人の友情は変わらない。

あの高校に入って知り合った……孝義は別だけど。そう言えば彼女たち二人。

そうか今になって気が付いた。僕と孝義に戸鞠と杉村が加わったでもこれは……今は深く考えるのはよそう。


「でもよう結城、本当にお前あの家でやっていけるんかよ。三浦恵美と一緒に暮らすんだぜ。しかも告ってお前、その、なんだ振られちまってるんだけど」

「そうだねぇ、それが私が一番心配しているところなんだよねぇ」

戸鞠が孝義に合わせて言う。


なんか此奴ら息は最近徐々にあってきているというのか、なんか距離が縮まった感じがする。いいんじゃないのかなぁ。でも戸鞠からくる視線はいつも何か熱くてたまに鋭いんだよな。

「でさぁ実際どうなのよ? 同じ年頃の男女がさぁ、まぁ親はいるにしても、一つ屋根の下で暮らすんだよ。もしかしてさ、笹崎君のお部屋って恵美さんのお隣だったりするの? 壁、防音? 変な声とか聞こえちゃうんじゃないのぉ―。どうするの?」

「あのなぁ戸鞠。お前ちょっと考えすぎ。僕と恵美さんの部屋は離れているし、僕の部屋の向かいは今、住み込みで修行している従業員の部屋。<……その人が年上の女性であっることは言わないでおこう>だからプライバシーは守られているよ。……多分。それに今までだって、何人か住み込みで働いていたらしいから、彼女もそこは大丈夫だと思う」


でも正直言うとすっげぇ―不安なのは確かだ。

あの時久しぶりに『カフェ・カヌレ』を訪れた時、僕を出迎えてくれたのは彼女だった。

それの第一声が「あ、変なのがいる」だったもんなぁ。

それからは会うこともなく彼女は姿を見せなかった。


やっぱり僕のことは嫌っているんだろうな。彼女にしてみても振った相手と一緒に暮らすなんて、嫌だよなぁ。

でもさ、僕はもう、どこにも行くところがないんだ。


ま、嫌われているのなら、それはそれでいいと思う。いや好都合かもしれない。

でもさ、まだどこかに彼女への思いが残っているのは事実だ。



なんだかとても複雑な思いに変化はしてきているけど。

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