第57話 見知らぬ倉庫の警報
その日、突如舞い込んできた業務をようやく終えたのは二一時五〇分だった。
うちの会社では、二二時までに事務所を閉めてセキュリティをかけなければ、警備会社から確認の電話がかかってくることになっている。
とはいえ急いで戸締りをするのも面倒なので、私は時間まで待って連絡を受けてから帰ることにした。
のんびりと帰り支度をしていると、事務所に誰か入ってきた。
警備会社の職員だ。社内のどこかで警報が鳴っているため、やって来たらしい。
しかし事務所はまだセキュリティをかけていない。警報が鳴るはずがなかった。
警備員が警備会社へ確認をとると、どうやら二件隣りにもうちの会社の建物があり、そちらが反応しているのではないかということだった。
事務所を閉めて確認のため同行すると、そこには古びた一階建ての倉庫があった。大型バスを二台横並びにしたくらいの、縦に長い形をしている。
入り口には見慣れた社名がかすれた字で書かれていた。
こんなものがあるなんて、入社以来、一度も聞いたことがない。
耳をすませば、確かに中から甲高い電子音が響いている。
念のため再度の確認連絡を終えた警備員が、妙に渋い顔で鉄製の扉を開けて入っていった。
警報を止め、内部を懐中電灯ひとつで確認していく。
私はその様子を入り口から眺めていた。
懐中電灯の明かりで部分的に映し出される内部は、空の棚や年季の入った事務机などが乱雑に置かれている程度で他には何もない。
整理をすればかなりのスペースができるだろうに、どうして放置しているのだろう。
警備員が突き当りまで確認し終えたらしい。
懐中電灯の光がこちらを向き、右に左にと周囲を照らしつつ戻ってくる。
ふと、私はあることに気づいて、目を凝らした。
どうやら警備員の背後に誰かいるようなのだ。
明かりが横を向くたびに、彼の肩越しに人影が浮かび上がる。
鍵は閉まっていた。どこか別の場所から侵入したのだろうか?
とすると今回の警報はそいつが原因だということになる。しかし警備員が誰かを見咎めるような声や様子はなかったのだか。
二人の邪魔にならないよう、私は扉の脇へずれる。
すると警備員はセキュリティをかけて一人だけ外に出ると、そのまま鍵をかけてしまった。
(え、いいのか? それともさっきのは見間違いだった?)
そう戸惑う私を尻目に、彼は警備会社のロゴがはいった車まで行くと、塩の詰まった小箱を持って戻ってきた。
「かけとけって、上司が言ってたんで」
それだけ口にして、箱を差し出しつつ自分に塩をかけていく。
私は何も言わず受け取り、全身にまんべんなく振りかけた。
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