第10話 ボール

 むかし、空き地でボール遊びをしていた。


 一人がけったボールが大きく僕の頭の上をとびこえていった。

 友達のあやまる声を背に、僕はボールを追いかけた。


 きょろきょろとさがしていると、見たことのない少女が立っていて、茂みの一点を指差している。

 その奥に真っ白なボールがのぞいていた。

 さっそくボールをとろうと手を入れると、ものすごい力で引っぱられて、僕はいきおいよく茂みに上半身をつっこんだ。


 ちょうど僕の顔の真下にボールがあった。

 いや、それはボールじゃなかった。

 さっきまで立っていた少女の首だった。


「いっしょに行こうよ」


 少女の首はケタケタと笑って言う。

 腕を引く力はますます強くなって、僕を茂みの奥へ連れていこうとする。


 僕はなんとか手を振り払って、茂みから転がり出た。

 友人たちが集まってきたが、少女の首はすでになかった。

 ボールは別の場所で見つかった。


 結局あれが何だったのかは今でもわからない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る