第4話 誰?

 大学時代。演劇サークルに参加していたころのこと。


 舞台の稽古をしていた。


 私は舞台を横切りつつ台詞を口にし、中央で立ち止まった。

 すると演出が「二歩ほど斜め後ろにさがって」と指示をしてきた。

 言われたとおりにさがると――


 ドン


 誰かにぶつかった。


「ごめん!」


 慌てて振り返るが、誰もいない。


 不思議に思いつつ辺りを見まわしていると、「あれ?」と今度は演出が声をあげた。


「なんで俺、さがれって言ったんだ?」


 私が立ち止まった時、ちょうど私の前に誰かが立っていたらしい。

 そこで私が見えなくなるため、立ち位置変更の指示を出したのだが……。


 この日、登場人物が私一人だけの場面の練習で、私と演出以外、稽古場にはいなかった。

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