第41話 5日目 カブト
俺は今、『くのいち』武装している。そしてゲンとの連携で、無事 3人ともリョウドームから引っ張り出す事が出来た。
正直、誠さんだけは俺としては微妙だったが、ナギが悲しむからな。ちゃんと引っ張ったよ。
そして、くのいちパワーか、火事場の馬鹿力か分からないけど 3人を1度に担いで建物の外に出ることが出来た。地下からすぐ裏口のシャッター開けて外に出られて良かった。考えてみたら機材なんかを搬入するのに必要だよね。
ここら辺で大丈夫と言われて意識のない3人を下ろし 、くのいちドームで包まれる。保護膜っていうのは『くのいち』の厚さというか状態で、調節すると意識を無くせるらしい。もともと5人分用意出来る『くのいち』を、山本さんと半田さんに使っていたから誠さんを除いて残り 2人分という事だね。
今はと言うと、山本さんは、なんかやばそうな会社だということで関わりを断つつもりらしいし、半田さんはなんと会社のお金、と言っても雑用に使う数万円だが、それを持ってトンズラこいたそうで、2人の『くのいち』は早々に回収したそうだ。
だから本当は結城さんの分も2回目からは用意出来たらしいが、結城さんの誠さん殺害予告がいつのことか分からないので、出来るだけ建物には入れないようにしていたらしい。
「あら」
と、ゲンが言う。
「リョウが今離れましたけれど、結城さんの時計、持って行ってしまいました」
どういうことかと聞くと、
(( どうせ今までもひとりだった。一人で行くさ ))
「と、うそぶいていたんですけど、やはり最初は道連れがいたのに 1人になってしまったので寂しく思っていたのでしょうね。結城さんの時計に詰まっている思いを引き抜いて持っていったので、もう動かないでしょう。形は残っているけれど。結城さん、ごめんなさいね」
との事だった。
「さて、華武人様、もう一度謝らなければなりません。」
と、ゲンに言われたが、なんのことか分からず呑気にしていた俺は
「これでお別れになります」
と言われ、理解をする前に即座に
「嫌だ」
と反射的に言う。その後に回路が繋がり、
「どういう事 ? 何で ? ずっと一緒じゃないの ? 」
「本当に、そう出来たらどんなにいいか。元々はその為に長い準備期間を頑張ってきたのだから。たった5日なんて……辛い」
「じゃあもうちょっと一緒にいようよ。誰かに叱られるの ? なんでダメなの ? 」
「本体のまま人間に関わることが無いように、わざわざ猫などの動物に擬態しているんですよ ? ……本体のまま関わると、精神が癒着してしまうのです。どういう事かというと、わたくしが元の世界に戻ると、その時にあなた達の5日間の記憶も一緒に連れて行ってしまうのです。ゲンという黒猫の事さえ残らず忘れてしまいます。それでもダークマターに直に触れ続ける方が危ないので、保護してたのです。エネルギーの波動が違うので。それにしてもその日に終わるはずがこんなに長引くなんて!! 」
「それじゃ、ずっと一緒にいれば問題ないんじゃない ? 」
「ゴメンなさい、出来ないんです。わたくしも崩壊が始まっているんです。核をあなたに渡してしまったから」
心が悲鳴をあげた。小指。俺の。ゲンの。
「今更戻せませんし、わたくしがここに居ると結城さんに弊害が出ます。誠様を殺そうとした記憶が、彼を苦しめます。彼が自分で決めた事なのだから自業自得と言えなくも無いのですが、わたくしが『くのいち』でみんなを繋げてしまったから、結城さんが元々持っている護る力が増大してしまったきらいがありますので」
そうだよ。周りを頼れ、煮詰まりすぎるなって言ったのは結城さんじゃないか。
「だから、あと少しでお別れなんですが、華武人様。ここからが本番です。よく聞いて下さい。まず、華武人様だけは記憶が抜けません。この世界においての、わたくしの核を持っているからです。そして、だからこそ出来ることがあります」
ゲンが説明をしてくれた。前にくのいちドームでナギのトラウマに俺が穴埋めしたように、これから無くなる 3人の5日間の記憶に、俺の記憶を移植出来ると。全てでは無いが、ナギが俺と話した事は結城さんと話したように、俺とナギの記憶の俺の部分を結城さん自身の記憶とすりかえる。
例えば、ナギに甘えてもらった、あの場面と俺の心がキュンとなった記憶を結城さんに。ナギはもちろん結城さんに甘えた記憶になる。俺の記憶が消える訳ではない、2人にコピーする時にコラージュする感じ。
ナギのトラウマは ? と聞くと、過去の記憶をいじっただけなので、問題無いとの答え。
誠さんはと聞くと、さすがにうーん、と唸ってから
「出たとこ勝負」
と言った。
ゲンでも分からないらしい。まあそりゃそうだ。リョウとも関係あったわけだし。
「では、ここでお別れしましょう。この建物で火事が起きますので、すぐ離れてください。3人はわたくしに任せて。もう、関係を持ってはいけません」
そう言われても離れられない俺に、
「もし、待てるのでしたら50年後にお会いしましょう。準備をして、ドコアルの許可を貰ってきます。華武人様の大きな暖かい手に撫でられるのはとても幸せでした。お元気で」
50年。68歳か。
「早くしないと、『くのいち』剥いてゾンビ化した白猫見せますよ !
」
と脅されて、やっとその場を離れた。
しょんぼりと自分のアパートに戻る。
俺だけが、覚えている。ナギに会っても結城さんに会っても俺のことは分からない。
ゲンも死ぬ訳では無い。この世界に留まるための身体が無くなっただけだ。また会えるし。50年後に。
でも、今ゲンに会いたい。
ゲンに会いたいよ。
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