第39話 5日目 カブト
赤面しながら自分の部屋に戻って、黒猫がいないので手持ち無沙汰に陥る。
ナギが結城さんを好きなのはひしひしと伝わってくる。もう、ダダ漏れ状態なので結城さんだって絶対気が付いているはずだ。どうにもこうにも気になって仕方がない。ナギへの告白だって、ゲンとリョウの事が落ち着いてからするつもりだった。
食欲と一緒で待てが出来ないのか ? と自分が情けなくなるが、してしまったものは仕方ない。
それにしても結城さんはナギのことをどう思っているのだろう。本当に大事に思っているのは間違いない。でもやはり父親の様な愛情なのだろう。俺の感情が姉に対するものから彼女にしたい欲に変わっていったように変化してくれたらナギにとっては嬉しいんだろうが、こればっかりは。人の気持ちって難しいね。
そんな事を考えつつも俺自身失恋したことに変わりはなく、ああ癒しが欲しいとゲンを膝に乗せて撫でているつもりになっていると、疲れと眠気がのしかかってきて眠ってしまっていた。
「華武人様 ! ! 」
「華武人様 ! ! 」
ゲンに起こされた。警告の様な声音だったので、ドキドキしながらあたりの様子を伺う。時間は夕方4時10分だ。
「ゲン ? 」
どこから呼んだか部屋を出てみたが居ない。それどころか人の気配が無い。皆疲れて寝てるんだろうか。シンとした家の中は今までになく昏い。
「やっと繋がりました。お聞き下さい華武人様」
また、ゲンの声が聞こえた。
「今どこ ? 」
と聞くとやはり近くにはおらず、例の建物の外にいると言う。
「華武人様には本当に申し訳ないことを致しました。お詫びのしようもございません。ですが、わたくしが関わった小さな愛しい人達が不幸になるのが忍びなくて」
ゲンが何を言いたいのか分からなかったが、俺はもとより直感的な生き方をしている。
「ゲン、説明は後でいいからやって欲しい事を話せ。お前を信じるから」
「その家の華武人様の痕跡を、できる限り無くしてから車にお乗り下さい」
「わかった」
自分の部屋として使っていたゲストルームを元通りという訳に行かないが片付け、自分の物をまとめる。干していた洗濯物も一緒にして車に乗り込む。
家の鍵は掛けられないが緊急事態だ、やむを得ない。
「研究所に向かえばいいね」
そうです。と答えるゲンは、ゲンの中だけに留めていた秘密を語った。
「前にも言った通り、わたくしは未来のいくつかを知っているんです。でもそれは全てではなくて、順番も滅茶苦茶なのですが、UFOに筒を刺された時には普通に収拾出来る範囲でした。ところが誠様の電話でナギ様と関わりを持った途端、結城様を含めて最悪の事態を回避出来なくなりました。結城さんは誠様を殺害する為にリョウドームを利用します」
それを聞いて俺は震え上がった。
「それでわたくしは今行動しなければ、この後の未来も確定してしまうと思い、わたくしと、そしてナギ様、結城様とそれぞれに相性抜群のあなた様を見つけました」
そして、と 1拍置いてから続きを話す。
「でもそのまま話すわけにいかず、他人を介入させるつもりがない結城様を説得する為に、苦手な事を彼の記憶から抜き出して、あの重力ぐちゃぐちゃの世界をかさ増しして、ギブアップするまで掻き回しました。ごめんなさい、結城様」
懺悔の言葉を華武人に聞かせる。うわあ、ひでえ。と思いつつ、そうしないと俺はここに居なかったのかとすごく複雑な思いになる。 ゲンのその行動がいいのか悪いのかの判断が出来なかったからだ。
「俺が居ると未来が変えられるの ? 」
「いいえ。一度に繋げて見られないだけで 、未来は確定しています。まだ見ていない未来で、わたくしがいい結果にしようと頑張っているはずだという思いで、あなた様を引き入れました。小指の事は知りませんでした。申し訳ない事をしました」
「ああ、それはもういいんだ、俺はこれからどうすればみんなを助けられるの ? 」
「リョウの崩壊が早まっています。あの銃でもう一度撃たれたので、明日まで持たないと思います。今、中に居る結城様、誠様、そしてドームのすぐ外にくっ付いているナギ様、3人ともこのままだと魂が抜かれたようになってしまう可能性が有ります。わたくしの『くのいち』は今言った3人とも繋がって居るので、リョウ崩壊までに一緒に引っ張り出してリョウから離して欲しいのです」
俺の苦手な事をサラリと言ってくる。
「大丈夫です。ちゃんと出来ます。あなたがみんなと繋がる感覚を、わたくしの力で引っ張るのですから」
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